[タイトル写真:静岡県富士市・大淵地区穴原町付近(筆者撮影)]
[6]あの夏のこと/アンダー曲「アンダー」
本稿では、2017年の夏を出発点に、アンダー曲「アンダー」について振り返っていく。中元日芽香と北野日奈子がダブルセンターを務め、北野にとっては初めてのセンター曲となった「アンダー」。メンバーをはじめ、さまざまな人がさまざまな感情をかき立てられた楽曲だったと思う。この曲の歩みは、ほぼそのまま北野の歩みにも重なる。「乃木坂46・北野日奈子」を振り返るにあたって、取り扱わないわけにはいかないテーマである。
筆者がこうしてブログを書くようになった出発点も、この「アンダー」であったといえる。これまでにも、2017年の「アンダーライブ全国ツアー 九州シリーズによせて」に始まり、その歩みについては随時綴ってきたといってよい。2021年1月の「白いガーベラの咲く星(乃木坂46・北野日奈子と「アンダー」の現在)」では、そこまでの「アンダー」について、改めて全体を通して振り返ってもいる。そのため、本稿の内容としては、多くの部分でこれらの記事との重複がある。しかし、北野がメンバーとしてのキャリアにピリオドを打ったいま、改めてその日々の全体を振り返ることには、意味があると思う。
今回、当時の記事や種々の資料に改めてあたってみたところ、再確認したことや久しぶりに思い出したこと、そして初めて知ったことがたくさんあった。「アンダー」についてこんなにまとまった文章を書くのは、今度こそこれで最後になる。大きな区切りとなる文章として、できるだけ多くのものを込めながら、書いていきたいと思う。
「その手でつかんだ光 (乃木坂46・北野日奈子の“3320日”とそれから)」目次 ・[1]家族への信頼と愛情 |
※(2022年11月10日追記)「のぎ動画」で「アンダーライブ2019 at 幕張メッセ」DAY2の模様が本日配信開始となったことを受け、当該部分の記述を微修正した。
あの夏の切なさ、涙の意味
2017年夏の乃木坂46には、独特の切なさが漂っていた——そう表現すると、多くのファンに同意してもらえるのではないかと思う。もちろん、夏らしい盛り上がりもたくさんあった。新加入の3期生が新しい風を吹かせ、明治神宮野球場公演は恒例の雨もなく成功。そこで発表された、グループにとって大きなメルクマールとなった初の東京ドーム公演。バナナマン・日村勇紀(ヒム子)との「インフルエンサー」もあり、神宮では大歓声が何度爆発したかわからない。「真夏の全国ツアー2017」の地方公演は10月の朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター公演まで続き、ファイナルとなった11月の東京ドーム公演まで、乃木坂46は長い“真夏”を存分に盛り上げていた。5年が経過したいまとなっては、そんな記憶も懐かしさの厚いベールをまとい、いくぶん切ない色彩があるようにも思うが、“独特の切なさ”はそこからのみ生じているのではなく、当時からそのような雰囲気があったように思う。
楽曲でいうと、この時期のリリース作品は4年続いたアッパーチューンの“夏曲”路線からいくぶん転換が図られていた1。3rdアルバムのリード曲「スカイダイビング」は、恋愛ソングでありながらポップさというよりはスタイリッシュさがあり、18thシングル表題曲「逃げ水」は、サビ前のブレイクにドビュッシーの「月の光」が挿入されるなど、全体として幻想的な雰囲気の楽曲であった。3期生曲「思い出ファースト」「未来の答え」には、溌剌とした雰囲気の一方でいくぶんレトロな印象を受け、夏の思い出や人生の儚さを歌った「ひと夏の長さより・・・」「泣いたっていいじゃないか?」も、この夏の“切なさ”を彩る象徴的な楽曲である。18thシングルについては、ほかのカップリング曲もハードな曲調の「女は一人じゃ眠れない」、ミステリアスな雰囲気の2期生曲「ライブ神」があり、ここでもポップさと異なる路線の表現が追求される。そして残るもう1曲が、アンダー曲「アンダー」であった。
「アンダー」は、ストレートすぎるくらいにアンダーメンバーの姿を描いた歌詞ももちろんだが、楽曲の構成やメロディラインも“切なさ”をたたえていたように思う。美麗なイントロはサビのメロディに重ねられつつシンプルなものであるが、徐々に重厚になっていくサウンドにはドラマティックさがある。間奏で印象的に用いられるギターサウンドは、楽曲全体に疾走感のようなものをもたらしてもいる。落ちサビからラスサビを短めに駆け抜けると、再度イントロのメロディが繰り返され、切なげな印象を与えて終わっていく。そしてその最後で歌われる詞が「美しいのはポジションじゃない」。あまりにもストレートなタイトルと歌詞で、「アンダー」と連呼されながら展開されてきた楽曲が、最後に具体的な手触りを残して終わる。聴く者の心にも、歌う者の心にも、影のような、隙間のような、そんなものを残す構成だと思う。
シングルの収録内容が発表され、「アンダー」という楽曲名が明らかになったのが7月14日。1週間後の7月21日に、中田花奈がアルコ&ピースとともにレギュラー出演していたFM-FUJI「沈黙の金曜日」で音源が解禁される。中田ではなく酒井健太が曲名をアナウンスし、中田が「あれっ?」と応じる、という芸人ラジオらしいひとくだりがあっての解禁であった。シングルの発売1週間前である8月2日には、所収全曲の先行配信がスタートするとともに、YouTubeチャンネルでMVの公開が始まる。公開されたMVには新撮の映像がなく、過去の選抜発表やアンダーライブ、そしてその舞台裏の様子をとりあわせた形だった。
あの夏には独特の切なさが漂っていた、と書いた。しかしそれを超えて、アンダーメンバーは特にナイーブだったように思う。メンバーへの18thシングル選抜発表は5-6月ごろだったとみられ、その模様の放送は明治神宮野球場公演よりあとの7月9日(「乃木坂工事中」#112)であったが、明治神宮野球場公演のなかでアンダーライブ九州シリーズとアンダーアルバムの発売がサプライズでアナウンスされた際には、当時2のアンダーセンター・渡辺みり愛は涙を流していた。それは必ずしも100%が驚きや感動の涙だったわけではなく、「次もアンダーだとまだ発表されたわけじゃないのに、どうして泣いているんだろう」というようなことを口にしていた3。その前の段階、メンバーが揃って涙のステージとなった2期生ブロックでは「2期生が全員アンダーだったときの曲」として「嫉妬の権利」が演じられてもいた。直前の東京体育館でのアンダーライブ(4月20-22日)の明るく強い雰囲気とはうってかわり、アンダーメンバーが自らの置かれているポジションに対して抱く複雑な感情が、エモーショナルに表現されていたと思う。
そして、直後に放送された選抜発表。当時過去最多だった17thシングルの選抜メンバーから、18thシングルの選抜メンバーにかけては、5人ものメンバーが「選抜落ち」をした形となった。3作ぶりのスタジオ発表の形で行われた発表のなかでは、ダブルセンターに抜擢された大園桃子と与田祐希が戸惑いながらも強い決意を語っていたが、一方で選ばれなかった多くのメンバーの表情もうかがえた。卒業や休業などが関係なく、純粋な「選抜落ち」(選抜メンバーからアンダーメンバーへの移動)が生じたのも3作ぶりという状況で、久しぶりに選抜発表の苛烈さを見た形ともなった。筆者の想起する“切なさ”には、そうした状況が多分に含まれてもいる。
私が選抜発表中
どのタイミングで涙を流したのか
おわって見て考えたんですたぶんきっと、
自分が落ちてしまったんだな。って
呼ばれていったメンバーのポジションをみて
それからだったと思います!選抜発表の収録が終わってからも
しばらくずっとずっと泣いてて
マネージャーさんが背中を撫でてくれたの
着替え部屋で未央奈が背中をポンポンとしてくれたの。
その感覚がいつまでも残っています!座っているここの席から立ち上がって
向こうにいきたい、いく気持ちはありました!(北野日奈子公式ブログ 2017年7月27日「今が途切れないように」)
世界の色が変わった8月
そのような雰囲気も下地としてあって、「アンダー」については情報が公開されていくとともに、ファンの間では戸惑いを含んだ複雑な感情が少しずつ波打っていっていたように記憶している。あくまで筆者の観測範囲、記憶の限りということだと、当初は急に燃え上がるような感じではなく、あくまで「話題になった」「戸惑いもあった」くらいの雰囲気だっただろうか(もちろん、当初からさまざまな受け止め方があったことだろうが)。ラジオで公開された音源を聴いた者が、あまりにも直球過ぎて、逆にどのように受け止めていいかと迷い考えていた、そんな期間があったように思う(単に筆者がそうだったというだけかもしれないが)。歌い出しのパートはふたりで、選抜と同じくダブルセンターだろう。中元の特徴ある声はわかりやすくて、もうひとりは北野だろうか。前シングルまでも含めた選抜メンバーの経緯や、ふたりの関係性を考えると、おそらくそれで正しいだろう。そんな推測があった4。
そのようななかで、8月2日のMV公開あたりから、少し雰囲気が変わり始めたように思う。新撮の映像がないMVは例がなかったといってよい。楽曲のテーマや方向性はどうあれ、2nd以降のシングルでは一貫してMVが制作されてきたアンダー曲である。楽曲とともに、MVもずっと残るものだ。ダンスシーンやリップシーンなども期待されたし、センターである北野や中元はそこで“主役”を演じるはずだった。残念がる声や、さらなる戸惑い。「MVもまともに制作してもらえないのか」のような声さえあっただろうか(MVについては後述する)。
そして8月6日、中元がグループからの卒業を発表する。卒業発表の場として選ばれたのは、彼女がレギュラー番組として大切にしてきた「らじらー!サンデー」であった。中元はあわせて、アンダーライブ九州シリーズには出演するが、残る全国ツアーは全公演休演となることもここで発表する。中元は卒業の理由として体調面の問題をあげた。中元も、ともにMCを務めるオリエンタルラジオも、暗くはなりすぎないように努めていたと記憶するが、どうしようもなく無念がにじむような放送であった。
週が明け、8月9日のシングルリリースを経て、8月11日の宮城・ゼビオアリーナ仙台公演から地方公演がスタート。中元を欠く形で初披露となった「アンダー」のセンターに、ひとりで立った北野。ステージに立ち、確かにパフォーマンスをしながらも、うつむいて前が向けない。涙が止まらなかった。
これ以外にも、北野は公演中ずっと元気のない様子で、客席からもそれは明らかであったという。その夜のSNSは異様な雰囲気であった。そうした北野の様子が次々と書き込まれ、拡散され、現地にいた者もいなかった者も、相当なフラストレーションを振りかざしていた5。特に初演であったこのときには、「アンダー」につながる演出として「乃木坂46がここまで大きくなったのは、選抜とアンダーがあったから」というような趣旨のVTRが流されていたといい、北野のショッキングな姿とともに、特にこの部分があげつらわれ、炎上のようになっていたと記憶している。このVTRは初演を最後に演出から削除されたといい、筆者はこの会場4公演目となる8月13日の公演に足を運んだのだが、確かにそこまで踏み込んだ表現がなされていた記憶はなく、「アンダー」はセットリストのなかで宙に浮いていたような印象もあった。この日の北野は、涙が止まらないという様子ではなかったが、明らかに心身がかみあっておらず、やはりなかなか前を向けないような状態であった。公演は完遂するも、アンコールでも力なく歩いているばかり。若月佑美が何とか励まして笑わせようとするようなアクションをしていたのを、やけに鮮明に覚えている。
北野は翌週の大阪城ホール公演を休演。その翌週の愛知・日本ガイシホール公演とポートメッセなごやでの全国握手会には出演するも、その後は握手会やイベントの類も含め、ほぼ活動がストップする形になってしまう。大阪城ホール公演の際は「早く体調を戻して戻れるようにゆっくり休憩をさせてもらいます」(北野日奈子公式ブログ 2017年8月16日)と発信があったが、少なくとも単なる夏風邪などではないことが明らかだった、恒常的に続く欠席の状態を、誰もがどうとらえてよいかわからないでいた。詳しい事情が明らかにならないと、それをわかりやすいストーリーで理解しようとする者が現れる。北野と中元の心を折った曲。まもなく「アンダー」は、一部のファンの間で、そんなふうに明確に痛罵の対象となった。長くない時間を経るうちに、少なくない数のファンによって「最悪の楽曲」のように指弾されるようになり、そこからそのフラストレーションは必ずといっていいほどプロデューサーで作詞家の秋元康に向かい、そして運営サイド全体と選抜システムへ広がっていく、という流れを何度も目にしたように思う。
ここまでを書くために、これまで長く避けてきたことだったのだが、2017年当時の「アンダー」をめぐってインターネット上に渦巻いたあれこれを少しだけ振り返った。SNS時代の情報過多なインターネットで耳目を集めるのは大きな声であり、強くとがった言葉である。ちょっと検索して振り返ってみただけでも、人間はこんなに露悪的になれるものかと、(いまとなっては)もはや苦笑するしかなかった。
ただ、筆者も彼らが言わんとすることはわかったし、同じくファンの側に立っていた人間として、その心情もいくぶんかは理解できた。それでも、筆者がどうしても第一に考えたかったのは、あの曲の受け止め方をおそらく誰よりも悩みながら、そうした負の感情がくすぶる観客の前にそれでも立とうとした、北野日奈子その人のことであった。時間が経つにつれ、「アンダー」に差し向けられる厳しい評価は変わらないのに、その話題のなかに北野がいなくなるような、そんな感覚があった。歌詞の内容を指弾し、インターネットの海の狭い一部分のなかで“運営”を道徳的劣位に置けば、それだけで北野は救われるのだろうか。どうしてもそうは思えなくて、せめてこれからどんなことがあっても、北野から目を離してはならない、と思ったのだった(一介のファンにすぎない自分にできることがあるとすれば、それだけだろう、とも)。
当時のメンバーの発言にみる「アンダー」
ここで改めて、この時期の彼女たちから発せられていた言葉を振り返っておこうと思う。18thシングルでアンダーメンバーになったことや、楽曲「アンダー」について、彼女たちが受け止めに苦しんでいたということは否定しようもない。しかし、特に中元がグループからの卒業を発表するまでは、その苦しみをにじませながらも、一定の範囲では前向きな発信もなされていた。
中元はアンダーメンバーでした。
こんなこと
言っていいのかわからないけれど
悔しいよりも、正直、ホッとしました。これが今の私の気持ちです。
私はただ、乃木坂の一戦士として、
燃え尽きるまで闘うのみ。去年の夏が打ち上げ花火なら
今年の夏は線香花火かな。
あくまで私の話ですがそんな感じです^^どちらも風情があって私は好きです。
(中元日芽香公式ブログ 2017年7月12日)
18枚目シングルアンダーメンバーは18人です。
18人でうたう「アンダー」という曲を
ひとりひとりが違う思いで違う光で
歌ってパフォーマンスしていいと
私は思います。みんなのこのポジションを与えられた回数も違えば、その1つ1つ18通りの立ち位置に立つ思いも違うし、この歌に対しての捉え方も違うと思います!
私はまだ「アンダー」という曲が
こうゆう思いを伝えたい歌だと思うんだ!と紹介はできないけど
いつかこの歌を自分の中に吸収できたとき
皆さんに伝えたいです!それがブログでなのか
メールでなのか
ライブでなのか
わからないけど。。でも、私はちゃんとこのポジションでの役割を果たしたいとおもってます!
(北野日奈子公式ブログ 2017年7月27日「今が途切れないように」)
あるいは、中元と北野は、この期間にふたりでインタビューを受けてもいる。少なくとも中元の卒業発表前に収録されたものであることはほぼ確かだが、発売日は8月16日で、当時は言葉通り素直に読むことは難しかった。しかしいまとなっては、インタビュー収録当時はまだ、あくまでファイティングポーズを見せてくれていたんだな、とも思う。
——そんな2人が、シングルのアンダー曲ではWセンターに立ちました。
中元 きいちゃんは、「ひめたんの隣で歌いたい」ってずっと言っててくれたのを知っていたので、すごく嬉しかったです。まさかほんとに歌えるとは。
北野 ふふふ。
中元 きいちゃんがセンターっていうのは初めてだから、ファンの方も楽しみにしてると思います。
北野 前作はひめたんがお休みをしていたので、寂しかったんですよ。星野みなみちゃんと「寂しいね」といっていて。よく3人で一緒にいたから。
中元 そうだよね。
北野 戻ってくるなら隣がいいなと思っていたんです。私はフロントに立つことはあっても、センターじゃないのかなって思っていたんです。でも、こうしてひめたんと選んでもらって、素直に嬉しかったです。でも、単独でのセンターじゃなかったことの意味も考えてみたんです。もしかしたら頼りない部分があったのかな、とか。でも、ひめたんと2人で立てることのほうがはるかに幸せだから…。——タイトルは『アンダー』です。
北野 歌詞は直接的です。♪当たらないスポットライト、とか。まさにアンダーである私たちのことが書かれています。
中元 歌詞の裏の意味を読むのが好きなんですけど、今回ばかりはそのまま読めばいいのかな。
北野 私は歌収録で泣いちゃった。何回もメイクさんに直してもらって。——そうなんですね。2人で話したことはありますか?
北野 ひめたんは思っていることをなかなか話したがらないんです。
中元 そう。でも、わかってくれているよね。きいちゃんのほうが後輩だし、私が支えなきゃって昔は思ってたけど、いつしか立場が逆転して(笑)。きいちゃんのほうが頼もしい。
北野 私は、大事なものは大切にする主義なので。大事なものを守るためなら、何を敵にしてもいいと思ってる。ひめたんは、その一人。
中元 わー嬉しいな。そんなこと言われたの初めて…。プロポーズされたみたい(笑)。——10月からは「アンダーライブ九州シリーズ」がスタートします。
中元 地元(広島)と近いのが嬉しいな。家族も観にきてくれる予定です。お父さんがもう予約したって言ってた(笑)。
北野 うちも来るんですよ!
中元 一緒だ! 楽しみだね!(『FLASHスペシャル グラビアBEST』2017年盛夏号[2017年8月16日発売]p.24)
「当たっていないスポットライト」という歌詞は、他の場面でもとりあげられることがあった。比喩的な表現としてもよく使われるような言い回しで、受け手としては自然に聴けてしまう部分でもあるが、アンダーメンバーとしての活動のなかでは、字面通りの意味でスポットライトが当たっていなかったこともあっただろう。メンバーにとっては、実感に迫ったものでもあったのかもしれない。
——そのとおりだと思います。で、その流れを受けるかのようにニューシングルですが、2期生曲が「ライブ神」ですよ。アンダー曲が「アンダー」というのも。
渡辺 今回の「アンダー」は、歌詞がどストレートすぎて。
——“当たっていないスポットライト”とか、この曲の歌詞って飲み込めましたか?
北野 この間、歌収録したんですけど、みんな半泣き状態でした。歌ってるだけで込み上げてきちゃうので。たぶん、歌いながら泣いてもいい曲だよね。
渡辺 全国握手会とかで披露するだろうけど、自分達と重ねると泣いちゃいそう。
堀 でも、新しいよね、そういう曲って。
渡辺 どストレートな曲が、乃木坂46にもとうとう来たなって思いました(笑)。
——(笑)。でもそういうところも今の乃木坂46に求められてるのかもしれないですね。……(後略)(『MARQUEE』Vol.122[2017年8月10日発売]p.230)
それから、沈金で解禁されました
18thアンダー曲「アンダー」
聴いていただけましたか?歌詞がグサッと刺さります、
私たちのことを謳った曲になりました。誰かに言われた
あなたの人生はどこにあるの?
当たっていない スポットライト個人的にはこの部分凄いグッとくる。
体感としてやはり武道館アンダーライブが
熱くて今でも忘れられません。
18thはこの曲を提げて頑張ります!(中元日芽香公式ブログ 2017年7月27日)
あてがわれた歌詞に衝撃を受け、涙をこらえながらのレコーディングがあっても、あくまでアイドルとして、メンバーは冷静さを保った発信を続けていた。そのこと自体が孤独で苦しい戦いでもあっただろうが、しかしその発信があったことで、まだ一定の秩序が保たれていたような、そんな印象を受ける。
また、シングルのリリース当日に発売された『BOMB』2017年9月号では、「2期生アンダー対談」と題して北野と渡辺がインタビューを受けており、選抜発表の際の心情も含めて語ってもいる。
——北野さんも3作連続で選抜入りをしていただけに、悔しさがあったと思います。
北野「選抜発表中も、選抜発表が終わってからも泣きました。選抜では自分なりに必死にやっていたし、後悔もないけど、なんとなく自分の中で選抜がどういうところなのかわからなくなってきていて。もし今の自分がアンダーになったら、そのときにどういう感情を抱くんだろう?というのが予想できなくて、選抜発表があるって聞いてからずっと気にしていたんです。それで、発表中に“今の自分って何なんだろう?”って考えていたら涙が出てきて……。でも、そうやって泣けたことにすごく安心したんです」——それはなぜでしょうか?
北野「自分がアンダーに落ちても泣けなくなってしまったら、それはもう抜け殻なんだろうなと思って。アンダーになったけど、ここからもう一度選抜に上がるために頑張りたいという気持ちがあるから泣けたんだろうし。だから、ちゃんと泣けることができて良かったなと思いました。今回はアンダーでしっかり頑張りたいです」(『BOMB』2017年9月号 p.72)
——今回アンダーメンバーが歌う楽曲は、ずばり『アンダー』というタイトルです。
北野「歌っている私たちも心に響くものがあります。こんなにストレートにアンダーの存在というか、自分たちがどういうポジションであるのかを自ら歌うのって初めてのことなので。どういう顔をして歌えばいいんだろう?って、ちょっと迷うところはありますね」
渡辺「私たちにとってはすごく重みのある歌詞なので、しっかり言葉の意味を受け止めて、感情を伝えなければいけないなと思ってます。この曲を笑顔で歌うのも違うと思うし、できるだけ真面目な表情で歌いたいです」
北野「歌い出しですでに泣きそうになるよね?」
渡辺「なるなる。自分たちの持ち曲なのにね(笑)」——ズシンと来る歌詞ですよね。
北野「正直、言葉にして歌うと苦しくなったりもします。でも、歌詞に書かれたこの気持ちは大事だなって思うので、忘れたくはないです。たとえば、ツアーで何度も『アンダー』を歌うようになって“もう慣れちゃったよねぇ〜”みたいにはしたくない。いつでもこの曲にビビっていたいです」
渡辺「たしかにビビらなくなったら終わりだと思う」(『BOMB』2017年9月号 p.72)
さらにこのとき、北野は「1年振りにアンダーになったタイミング、しかも私にとって初めてのセンター曲がこの曲というのは、きっと何かの巡りあわせなんだろうなって思います」とも語っている。自分があてがわれた「アンダー」を、あくまでまっすぐに表現したい。少なくとも初披露までのタイミングでは、そのような思いが繰り返し表出されていたということは、覚えておかなければならないと思う。
幻のミュージックビデオ
新撮の映像がない形で世に出た「アンダー」のMVであるが、どうやら当初からこの形を想定して計画が進められていたわけではなく、静岡県富士市で撮影が行われていたようである。現地のNPO法人「フィルムコミッション富士」が発売直後の時期に、「アンダー」のMVが富士市で撮影されたという旨のブログ記事を公開しており(現在は削除されている)、それによれば、「富士市大淵にある未開通の道路(新富士インター城山線)と穴原公民館で撮影が行われた」「富士急静岡バス株式会社が協力した」ということであった。
また、18thシングル(初回仕様限定盤Type-C)の特典映像「撮って出し!神宮ライブメイキング2期生編」は、前述の明治神宮野球場公演の直後とみられる時期に収録・制作されたと思われるが(そもそもそういうコンセプトなので)、ここでは伊藤純奈・相楽伊織・寺田蘭世が、これ以外で世に出ていない衣装でインタビューに答えている。場所はいずれも屋外で、緑が多い場所であることがうかがえた。緑色のベレー帽を被って話す寺田の向こうには、茶畑が映り込んでもいる6。
これをふまえて調べてみたところ、純奈と相楽がインタビューを受けている場所は、富士市大淵の「穴ヶ原橋」のようであった(参考:Googleストリートビュー)。この橋が位置しているのが新富士インター城山線とみられる市道の途中であり7、橋の竣工が2017年3月と表示されていることともつじつまが合う8。筆者はこのたび(2022年10月10日)実際に現地に行ってみたのだが、何もなく普通の、地方の市道という感じであり、映像や上掲ストリートビューから見てとれる様子よりもいくぶん草が茂り、橋の銘板が隠れてしまっているくらいだった。
また、「穴原公民館」は、Google検索などでもこの件に関する内容しか具体的なものは出てこないくらいであるが、富士市大淵地区の一部が穴原町と呼ばれているようである9。ゼンリン住宅地図10によれば、富士急静岡バスの釈迦堂バス停付近にある神社(「天満宮」と呼称されている)に併設している建物が「天満宮穴原町公民館」とされており、これがフィルムコミッション富士のいう「穴原公民館」ということだろう。これは富士急静岡バス株式会社も協力して撮影が行われたという情報とも符合する(バスやバス停を用いたシーンがあったのかもしれない)。これも現地で外観を確認してみたが、きわめて小規模な施設であった11。
判明している情報をもとに個人で調べうるのはこの程度である。この場所で撮影が行われていたのが少なくとも7月1-2日の明治神宮野球場公演より後であり、撮影日から(最終的なMVの)YouTubeでの公開日までが1ヶ月未満であったということになる。「逃げ水」のMVについても撮影日は近い日程であったとみられるため12、あり得る範囲のものなのだとは思うが、素人考えによる印象では、余裕のあるスケジュールのようには見えない。何らかの理由で富士市での撮影が完遂できなかった、もしくは撮影した映像が使用できなくなり、改めて撮影を行うことも難しかったため、完成形としてはあのような形となったのだと推測される。純奈・相楽・寺田の衣装もいくぶんか特徴的なものでもあった。われわれが乃木坂46のMVとして一般的に想像する、一定の設定や筋書きがあるような映像で、多くの場合でダンスシーンやリップシーンもあるような、そのようなものとして本来は制作されていたのだろう。
筆者の自由研究のようになってしまったが、「アンダー」の“幻のMV”に関しては以上である。18thシングルに関しては、通常盤のジャケットのメンバーが「アンダー」のフロントメンバーと一致しておらず13、この点からも何か土壇場で変更があったのではないかという印象を受けるが14、筆者個人としてはこれ以上わかることはない。
結果として世に出されたMVは、新撮の映像はなかったというのは繰り返し書いてきた通りだが、「まだ世に出ていない映像を中心にセレクト」されたともされており(公式サイト)、選抜発表やアンダーライブ、そしてその舞台裏をドキュメンタリーとして描いた形となった。映像はアンダーライブの公演後のメンバーによるコメントから始まり、シングルでは初めての「選抜落ち」(選抜メンバーからアンダーメンバーへの移動)が生じた2ndシングルの選抜発表や15、4thシングルの選抜発表を受け、控室で泣きながら誰かに電話している様子の中田花奈、5thシングルの選抜発表の際に通路で泣き崩れて立てなくなる伊藤万理華16、自身初めてのアンダーとなった12thシングルの選抜発表を受けて涙する堀未央奈など、苛烈な選抜発表の様相をアンダーメンバーの側から印象的に描いたカットや、歴代のアンダーライブやその舞台裏の様子を時系列順に扱いながら、そのなかで18thアンダーメンバー18人全員のカットが用いられるという構成であった。直前に行われた東京体育館でのアンダーライブで、並んで客席へ頭を下げる17thアンダーメンバーの12人のカットで曲が終えられたのち、このときの公演中盤で、照明が落とされ、マイクなしで行われた円陣の様子が流れて映像は終わる。「努力、感謝、笑顔、うちらは乃木坂、上り坂、46!」。ファンとしても何度も何度も耳にしてきたフレーズだが、アンダーメンバーの決意に重なって、少しいつもと違うようにも聴こえた(グループとしての経緯を措けば、映像作品としてはうまくまとまっていた、とも思う)。
“白いガーベラ”を求めて
「真夏の全国ツアー2017」は8月の愛知・日本ガイシホール公演から少し間が空き、10月8-9日に3公演の日程で朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター公演が行われる。この間の期間には19thシングルの制作が行われ、10月11日が発売日となった。表題曲「いつかできるから今日できる」は映画「あさひなぐ」(2017年9月22日公開)の主題歌となったことから、ツアーでは地方公演初演のゼビオアリーナ仙台公演からすでにセットリストに加えられており、なぎなたによるパフォーマンスとともに披露されていた。そのため、選抜メンバーについては9月3日の「乃木坂工事中」#120内で発表されるが、事前にほぼわかっていたような形でもあった。
北野日奈子です
先ほど、19thシングル選抜メンバーが
乃木坂工事中にて放送されました。この結果を受け、18thで結果を残してきたか問われると
結果を残すほどに至らないほど
なにもできなかったと思います。19thシングルの選抜が発表されたけど
18thシングルのお仕事はまだまだ
たくさんあるし
10月には全国ツアーで新潟に行ったり
九州でのアンダーライブもあります。夏に結果を残せなかったことを受け
残りの18thシングルのお仕事を
きちんと結果を残していけるように
頑張りたいと思っています。(北野日奈子公式ブログ 2017年9月4日「19th」)
3列目のポジションで選抜メンバーに選ばれる形となった北野はブログに決意を綴るが、体調がついてこない。9月10日の全国握手会(幕張メッセ)、9月17日のアルバム発売記念スペシャルイベントの欠席を経て、改めてブログが公開される。
みなさんのご期待に添えられないことが
少し前から多くなってきて
私自身もどうしたらいいかわからないです。体調不良が続いていて
欠席が続いていて
皆さんにはご心配をおかけしてまったり
嫌な思いをさせてしまっていると思います。本当にすみません。
今日や明日だけじゃなくて
しばらくは皆さんの思いや期待に
こたえられない状況が出てきてしまうと思います。申し訳ありません。
(北野日奈子公式ブログ 2017年9月17日)
この「申し訳ありません。」で記事は締められており、それまでのものとは異なり、半ばギブアップのようにさえ見える発信であった。どうやら厳しそうだ、ということ以外に本人の状況がわからないまま迎えられた朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター公演。大阪城ホール公演と幕張メッセでの全国握手会に続き、センターが両名とも不在の状態で「アンダー」は披露される17。アンダーライブ九州シリーズをすでに1週間後に控えており、全国ツアーを休演して九州シリーズに向けて体調を整えていると明かしていた中元はまだしも18、北野に関しては九州シリーズへの出演は厳しいのではないかという印象もあったが、朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター公演でアンダーメンバーによるMCを担っていた樋口日奈19は、あくまで「アンダーライブのステージには18人で立つ」と繰り返す。筆者はこのとき3公演とも足を運んだのだが、3公演ともで中元と北野の不在に触れ、この旨の発言をしていたと記憶する。とにかく信じるしかなかった。
10月14日、大分・佐伯文化会館での昼夜2公演から九州シリーズはスタートする。昼公演のチケットを持っていた筆者は朝8時の飛行機に乗って大分に向かった。着陸後、佐伯市行きのバスを待ちながら公式サイトを確認したら、北野の欠席のニュースが配信されていた。それは恐れていた事態であり、やっぱり、という脱力感もあった。
大分・佐伯文化会館公演のステージでは、3ヶ月半ぶりのライブとなる中元がMCをある程度担いつつ、ファンに向けてメッセージを多く送っていた。自らの卒業に関しても触れ、悔しさや寂しさというよりは、リハーサルで感じたメンバーの頼もしさを口にし、グループに残るメンバーについて、ファンに向けて改めて応援を呼びかけていたと記憶する。加えて、そのリハーサルを引っ張っていたのは北野であったとも明かした。また、中元とともにMCを担っていた樋口は、北野の欠席に関して触れた際、「人間には気持ちの限界というものがあると思う」と口にした。
九州シリーズの公演は、冒頭に「プロローグ」として歴代シングル表題曲の旋律に乗せて当該シングルで選抜に入ったメンバーが進み出て踊る演出がなされ(18thアンダーメンバーには13thおよび14thシングルの選抜メンバーがおらず、そうした重苦しさも含めて演出されていたと記憶する)、アンダー曲のブロックからセットリストが始められた。そして夏曲のブロックやユニット曲のコーナーなどを経て、中盤に「アンダー」が披露されていたが、その前には歌詞の朗読の演出があった。「誰かに聞かれた/「あなたの人生はどこにあるの?」/当たっていない/スポットライト」「時々 思った/「私の夢なんて叶うのかな」/眩しすぎるわ/メインキャスト」。担当していたのは樋口と中元だったと記憶しており、本来ならば北野が担当する予定だったのかな、と直感的に思ったことを覚えている。中元がセンターとなる形で初めて披露された「アンダー」。曲中のペアダンスの振り付けを中元はひとりで行い、北野の不在を際立たせるとともに、“18人”でつくってきたステージであることを表現していた。
この九州シリーズにおいて、「アンダー」披露の際にコールがなかったことは、のちに美談のように語られるようになっていく。九州シリーズを除くと、初披露の際からしばらく(武蔵野の森総合スポーツプラザでのアンダーライブまで)は、全国握手会でのミニライブを含む全体ライブのみで披露が重ねられていくことになったが、そこでは定型的なコールが一貫してなされていたと記憶する。コールなしの「アンダー」の記憶は九州シリーズに足を運んだファンのなかに色濃く残り、「真夏の全国ツアー2018」千秋楽(2018年9月2日・ひとめぼれスタジアム宮城公演)に際しては、北野がモバイルメールで九州シリーズ(福岡国際センター公演3日目)の際の会場の様子に触れ、これが「アンダー」ではコールをしないように希望したものと受け取られたことから、ファンからの呼びかけがSNSで拡散されたこともあった。映像で確認する限りこのひとめぼれスタジアム宮城公演の際にはコールがあったようだが、次の披露機会であった、北野が座長を務めた武蔵野の森総合スポーツプラザでのアンダーライブ以降、大規模なライブでもコールはそこまで生じない状況になっていった。こうした状況の発端がこのときの大分・佐伯文化会館公演であったことになるが、確かにコールはなかったものの、どちらかというとそれは、「アンダー」という楽曲のありようにファンが心を寄せた、のような美談に回収されるものであったというよりは、あまりにもシリアスな演出に息をのんで見守るしかなかった、というような状況であったような記憶もある。
セットリストとしては「アンダー」のあと、「きっかけ」や「僕が行かなきゃ誰が行くんだ?」など、改めて明るく前向きな曲が連ねられる形となる。18thシングルの体制で臨まれたライブであったが、19thシングル表題曲「いつかできるから今日できる」も披露され、本編最後は「僕だけの光」。披露前の樋口によるスピーチでは「18人全員にそれぞれ違う光があって」と語られ、「アンダー」の歌詞にも登場する「光」が、ひとつのキーワードとして扱われてもいた。アンコールでは19thシングルアンダー曲「My rule」も初披露。全体としてハードな演出であったが、次のシングル以降にもつなげていくような形も織り交ぜながら、「アンダー」を経て「光」をつかみ取っていく、そんなありさまが表現されていた。
伊藤かりんは後年、この九州シリーズについて「このシリーズの演出家さんとWセンター(中元日芽香、北野日奈子)の心情が合っていたのかなと思います。東京体育館みたいな明るいテンションだと、当時の2人とは合わなかったから。」(『BUBKA』2019年3月号 p.49)と振り返る。ステージにあしらわれた白いガーベラの花言葉は「希望」であるといい、メンバーがそのことについて触れる場面もあった20。前回にあたる、東京体育館でのアンダーライブ(2017年4月20-22日)では、座長を務めた渡辺みり愛が、自らの好きな花であるというアイスランドポピーについて、その花言葉は「私が勝つ」である、と紹介していた。「私たちはもっともっと上に行けるんです。私たちは最弱なんかじゃない。私たちは勝ちます」21。熱く燃える炎を汗と笑顔に乗せて届けるような、そんな前回のアンダーライブとは、確かに大きく違っていたかもしれない。山崎怜奈がアンダーライブを「逆境から生まれたコンテンツ」と評したのも東京体育館においてであったが、九州シリーズは「逆境」そのものであったようにも思える。しかしそこにも(あるいは、だからこそそこに)「希望」はあったのだと思うし、このセットリストはそれを見出すための過程としてつくられていたのだと感じる。
北野は続く福岡国際センター公演の1日目・2日目も欠席となる。欠席の発表はそれぞれ当日になされており、厳しい状況を改めて痛感させられるような日々になった。そして10月18日、福岡国際センター公演3日目。この日は北野の欠席がアナウンスされないまま開演を迎え、結果として北野はステージに姿を見せることとなった。ここまで4公演のステージを支えてきた中元と入れ替わるような形になったが、中元は休演という形ではなく「アンダー」には参加し、これがこの曲が初めて18人が揃って披露される機会となった22。アンダーアルバム「僕だけの君〜Under Super Best〜」リリースの際に特典映像「The Best Selection of Under Live」として映像化されたのが、このときの「アンダー」である。アンダーアルバムのCMではラスサビで涙があふれて歌えなくなる中元のシーンが何度も流されたので、どうしてもその印象が強く残るが、3か月以上の時間を経てようやくステージ上で並び立ったダブルセンターがイントロで影のなかで抱き合うところから始まり、ときに中元と北野は、これまでともに歩んできた日々を思わせるような笑顔を見せながら、そこまでのパフォーマンスは展開されていたということも記憶しておきたいと思う。
翌日の鹿児島市民文化ホール公演も中元と北野の出演曲数などの状況は同様だったが、10月20日の千秋楽、宮崎市民文化ホール公演においては、ふたりともが冒頭のブロックから揃って出演する形となった。中元も限界の状況だったというが、北野が「もうちょっと出ようよ」と声をかけ、このような形となったのだという。
——九州シリーズはファンの間でも強く印象に残っているようです。Wセンターである中元日芽香さんと北野さんがなかなか揃わなかったりして。
北野 ひめ(中元)は最初から出ていたけど、私と入れ替わるように出られなくなってしまったじゃないですか。曲数を絞って出てはいたんですけど、このままじゃよくないなと思ってはいるけど、お互いどうすることもできなかったんです。私もひめの気持ちがわかるから。ひめとしては、精いっぱいのことをやっている。私はそれ以上求めてもいいのか——。そんな葛藤がありました。そんなひめの代わりに私がやらなきゃなっていう気持ちでした。——宮崎のMCでも『アンダー』についての率直な気持ちを話していましたね。
北野 この曲を歌うのは辛い、というような話をしました。なかなか言葉にしづらかったけど、ファンの方はそれを聞きたいと思うんですよ。ファンの方が耳を澄ましているのもわかりましたし。——ものすごい緊張感が張り詰めていましたよね。なんなら言わなくてもいいよっていう。
北野 でも、初センターだったから伝えないといけないと思ったんです。それに、他のメンバーの気持ちもあるじゃないですか。九州シリーズを守ってきたのは私たちだっていう。そんな気持ちに私とひめは応えないといけないですよね。だから、ひめも限界だったのはわかっていたけど、「もうちょっと出ようよ」と私から話して、出番を増やしてもらったんです。ひめにとって最後のライブっていうのもあったし。そういうこともあって、一番心に残っているのは九州シリーズですね。(『BUBKA』2019年3月号 p.19)
この日、筆者は会場にいた。「アンダー」は、何かが大きく波打つことなく過ぎていったような印象をもった。九州シリーズは7公演目、ダブルセンターが揃ってからも3公演目。筆者にとっても2公演目だったということもあっただろうか。客席も静かに見守っていた。それでいいのだ、と思った。
アンコールでのMC。最後のアンダーライブとなる中元は、3年半にわたって通院を続けてきたことを明かしつつ、つとめて明るい声色で客席にメッセージを送った。その中元からバトンを受け取った北野。この日、MCで口を開くのはこのときが初めてであった。「この曲を歌うのは辛い」、そのようなことが語られる局面もあったが、「アンダーライブがあったから戻ってこられた」とも語り、「下を向いて太陽の方向がわからなくなっても」、自分は前へ進んでいきたい、といったことも語られていたように思う。
中元にとって最後のライブとなったのは、「真夏の全国ツアー2017 FINAL!」と題して行われた11月7-8日の東京ドーム公演であった。中元と北野はライブ中盤のアンダーブロックより出演となる。19thアンダーメンバーがひとりずつ名前を呼ばれてバックステージに登場したのち、「覚えているだろうか?/彼女たちがアンダーライブにいたことを」として、歴代のアンダーライブに出演してきたメンバーが呼び込まれていく。その1人目として中元日芽香が笑顔で登場し23、2人目に登場した北野日奈子の頬には涙が光っていた24。「ここにいる理由」「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」が披露され、続く「君は僕と会わない方がよかったのかな」では客席が中元のサイリウムカラーであるピンク色に染まった。笑顔で「生まれたままで」を披露しながら、メンバーはメインステージに移動。「今いる場所は私たちの望んだ場所ではないかもしれない」「でもだからこそ私たちにしか伝えられない曲がある」とVTRが挟まれている間に、ステージ上には18thアンダーメンバー18人のみになった。「聴いてください、『アンダー』」。北野のそのかけ声で、イントロが始まる。フルサイズでの、オリジナルメンバー全員による最後の披露。楽曲が終わると、何も語ることなく中元と北野の姿はステージから消え、19thアンダーメンバーによる「My rule」が披露されたのち25、アンダーブロックは終わった。
2日目のダブルアンコールでは、グループとしてのハイライトシーンであったといえる「きっかけ」の披露、そして中元日芽香と伊藤万理華からの最後の挨拶もあり、乃木坂46として初の東京ドーム公演が終わっていった26。なんとかこの公演までを走り抜いた形となった北野は、11月16日の公式サイトでの発表をもって、正式に休業に入ることになった27。
この日を始点とすると、再びメディアに姿を見せた「乃木坂46時間TV(第3弾)」が2018年3月24日、ライブのステージに復帰した「生駒里奈卒業コンサート」が2018年4月22日、再び全編に出演したライブである「6th YEAR BIRTHDAY LIVE」が2018年7月6-8日なので、筆者としては休業期間はおおむね半年くらいであるように思うのだが、本人は「約1年間」のように称することがよくあるという印象である28。休業のアナウンスにあわせて更新されたブログでは、不調を自覚したのは「去年の冬ごろから」と明かしており、「今よりも状態が良くなったらすぐに戻ります」とも綴った(北野日奈子公式ブログ 2017年11月16日)。公式サイトでの発表では「夏ごろより体調不良が続いており、一部の活動をお休みさせていただいておりましたが」とも記されており、不調を感じていた期間や復帰への思いをふまえると、「約1年間」のほうが本人の感覚としては近いのかもしれない。
東京ドーム公演や「生駒里奈卒業コンサート」にも一部ながら出演し、2018年はバースデーライブも7月の開催であったため、この休業期間で大きなライブに欠席となることはなかった29。しかしこの年の年末には、乃木坂46としては「日本レコード大賞」で大賞受賞という大きな出来事があった。受賞作品は「インフルエンサー」。この日のパフォーマンスにメンバーは並々ならぬ思いをかけて臨んでいたといい、大賞発表後のインタビューでメンバーが口々に「今まででいちばんいいものができた」と自画自賛するような、そしてテレビで見ていて思わずうなずいてしまうような、そんなレベルの仕上がりであった。ダブルセンターの白石麻衣と西野七瀬が、インタビューに答えながら涙を流す。長い坂道を上ってきたグループの姿がまばゆく輝いていた。
翌日の「紅白歌合戦」では、その「インフルエンサー」をアンダーメンバーや3期生も含めた編成で披露。加えて、バナナマン・日村勇紀(ヒム子)との3度目のコラボの形もとられた。いくつもの大舞台で見せた、「乃木坂らしさ」にあふれた姿。マジョリティとしての1期生がいて、2期生がそこに異なる色を加えていた時期のことを、オリジナルな「乃木坂46」とするならば、この2017年末はその“最後の青春時代”だったように思う。その時期を、北野はグループを離れて過ごすことになった30。
九州シリーズと「アンダー」への評価
アンダーライブのなかでも明らかに異質な雰囲気で展開された九州シリーズについては、その中核をなした「アンダー」とともに、グループの外から批評の目が向けられる場面が複数あった。それ以前の段階、例えばMVの公開時には「不安や葛藤などを抱えながら活動するアンダーメンバーだけでなく、乃木坂46グループ全体の層の厚さも垣間見える作品」と評されるなど31、一般向けに「選抜/アンダー」という構造やアンダーライブについて紹介され、アンダーメンバーの存在に目を向けるような引かれ方がされる程度にとどまっていたように思う。しかし、ライブパフォーマンスが重ねられ、特にアンダーメンバーが自分たちの場であるアンダーライブでそれを表現したことは、楽曲への批評を改めて引き出すことになった(特に、九州シリーズはアンダーメンバーそれぞれが自らの「感情を表現」する場として演出されていたので、なおさら)。
ライター・香月孝史32は九州シリーズのレポート記事において、伊藤かりんのMCでの発言を引く形で「アンダーメンバーの固定化」の状況に言及し、それをふまえると「今回のセットリストで後半のキーになる『アンダー』という曲はある意味で罪深い」と評した。アンダーメンバーの奮闘はアンダーライブでの優れたパフォーマンスにつながり、そこを唯一無二の場所にしてきたが、「その奮闘は自らをどこまでも『アンダー』たらしめるためにあるわけではない」。「アンダー」という楽曲が描いた世界観の枠にはめて彼女たちを理解しようとすれば、それは「固定化」をさらに推し進めることになってしまうのではないか。そのような問題提起であったように思う。
そのこと(引用者註:アンダーメンバーの固定化)を考えるとき、今回のセットリストで後半のキーになる「アンダー」という曲はある意味で罪深い。18枚目シングルのアンダー楽曲として書かれた「アンダー」に託された世界観は、ともすればアンダーのイメージや役割を局限しかねない。アンダーライブにおいてメンバーたちは確かに、自身がアンダーの立場にあることをむしろ梃子にして力強さを見せてきた。しかし、その奮闘は自らをどこまでも「アンダー」たらしめるためにあるわけではない。アンダーライブを誇ることは、より複雑で、矛盾をはらんでいる。
現在のメンバーたちがライブパフォーマンスでみせる冴えも、同時に抱える葛藤も、「アンダー」という楽曲の歌詞がとらえる視野におさまってしまうほど小さなものではない。彼女たちのパフォーマンスに対して、そのつど具体的な世界観をほどこしてゆくのが各楽曲の役割だが、従来の乃木坂46楽曲よりも具体的に彼女たちに引きつけた曲だからこそ、そのことが明確になった。(リアルサウンド「乃木坂46『アンダーライブ九州シリーズ』に見た、メンバーの成長とその立場をめぐる課題」[2017年11月2日配信])
ライター・犬飼華33は、北野が座長を務め上げた武蔵野の森総合スポーツプラザでのアンダーライブ(2018年12月19-20日)を経た時期に、「泣ける乃木坂46アンダーライブ特集」と掲げて発行された『BUBKA』2019年3月号において、北野へのインタビュー、寺田蘭世と渡辺みり愛の対談、伊藤かりんと佐々木琴子の対談、および特集記事「乃木坂46アンダーライブ批評『光を求める場所』」を担当した。インタビューのなかでは、先にも引いてきたところであるが、北野やかりんから九州シリーズについての発言を引き出した部分もあったが、特集記事のなかでは「アンダー」および九州シリーズについて、以下のように評している。多くのメンバーが楽曲の受け止めに苦しんだ状況や、犬飼自身が目にした千秋楽・宮崎市民文化ホール公演の様子をふまえ、厳しい評価をしたといえると思う。
選抜からは嗅ぎ取れないもの。それが過剰な形となって爆発したのが、九州シリーズだった。この時のWセンターは中元日芽香と北野日奈子。繊細なタイプの2人は、アンダー楽曲『アンダー』を受け止めきれずにいた。歌詞に書かれたことを要約すると、今はスポットライトを浴びていないし、誰からも気づかれない存在だとしても、いつの日か自分の存在に気づいてほしい——というものだ。アンダーであることに活路や生き甲斐を見出していたメンバーはこの歌詞に衝撃を受けた。ファンからも、「こんな曲を歌わせるなんて」と非難の声が上がった。これだけが理由ではないだろうが、Wセンターが心を痛める原因になったのは間違いない。どちらかが休演するという事態に陥ったのだ。
メンバーの声を聞くと、沈痛なムードでこのシリーズは進んでいったという。最終日の宮崎のみ観ることができたのだが、開演から終演までピンと張り詰めた空気に耐えられないほどだった。バッドエンドの映画を観たような感覚に襲われた。これまでのアンダーライブは、どこかに光を感じさせるものだったが、九州シリーズは違った。一寸の先も見えない暗闇をアンダーメンバーが彷徨っている——。そんな印象を残したのだ。
全メンバーが参加するライブでは、こんなムードになることはない。同時に、アンダーライブでもこのような事態になったのは九州シリーズのみ。翌年の中部も北海道も関東も特別な感覚に陥ったメンバーはいない。2017年の秋にだけ歯車が大きく狂い、メンバーと観る者の心に大きな爪痕を残した。そして、アンダーライブの歴史や記憶を塗り替えてしまった。2017年12月の近畿・四国シリーズ以降は、もう一度アンダーライブというものを見直して、再構築していこうという運動が始まり、現在もその真っ最中——。そんな印象がある。(『BUBKA』2019年3月号 p.34-35)
九州シリーズが残したものは「大きな爪痕」であり、それは「アンダーライブの歴史や記憶を塗り替えてしまった」。宮崎市民文化ホール公演で直面したのは「バッドエンドの映画を観たような感覚」。「アンダー」の後半の歌詞の一部や、九州シリーズの演出は、直面している厳しい状況を「希望」につなげていくための一筋の光を見いださせる意図があったようにも筆者は感じるが、それを圧倒的に上回るほどの「沈痛なムード」がそこにはあった、という説明であるように読み取れる。
筆者の手元で確認できる限りでは、各媒体である程度まとまって九州シリーズについて批評を加えたのは以上の2点である。このほか、ライター・大貫真之介34は、『Top Yell』2018年1月号に掲載された、北野が復帰した公演である10月18日の福岡国際センター公演3日目のレポートにおいて、「北野日奈子には白いガーベラが似合う」と題し、「全国ツアー地方公演で俯いていた彼女ではなく」という表現を用いながら北野の凜々しいパフォーマンスの様子をレポートした。初めて18人が揃った「アンダー」のパフォーマンスについては「心の奥底から『私は生きてる』と叫び声が聞こえるようなパフォーマンスで、メンバーたちは自身との闘いに打ち克った」と評し、さらに東京ドームで同曲が披露された場面の写真には「九州で名曲に昇華した『アンダー』。何度季節を超えても北野の帰還を待っている」とキャプションを付した。
(引用者註:福岡国際センター公演3日目の)最後、北野は自身の胸のうちを明かしてくれた。アンダーライブに来てくれたファンを信用してのスピーチだった。その言葉は聞いてる側の胸に突き刺さる。しかし、そこには「希望」もあった。スクリーンには北野の顔と白いガーベラが一瞬だけ重なる。僕らは待っている。
(『Top Yell』2018年1月号 p.7)
『Top Yell』のライブレポートは、ときに大言壮語とさえ感じるような言い回しを用いながら、ライブの熱をファンにぶつけて伝えるようなトーンがあり、それを反映した表現でもあったようにも感じる。大貫自身は、「真夏の全国ツアー2017」地方公演初演(2017年8月11日)での初披露の際や、(アンダー曲「Under’s Love」に関連づけて)「真夏の全国ツアー2022」大阪公演2日目(2022年7月20日)の際、「アンダー」に関して自身が抱えていた「モヤモヤ」について言及しており、北野が8か月ぶりに同曲を披露した「6th YEAR BIRTHDAY LIVE」の2日目(2018年7月7日)の際には、「『アンダー』封印してもいいんじゃないか派だったけど、あの曲順で歌う北野さんを観て涙が出てしまった」と、Twitterで言及してもいる。
また、ライター・西廣智一35は、アンダーアルバム発売のタイミングであった『日経エンタテインメント!』2018年2月号別冊付録「乃木坂46アンダーパーフェクトガイド」での、アルバム収録楽曲全曲紹介のページにおいて、「アンダー」について「アンダーの存在意義を問う歌詞に注目」とし、「そのタイトルどおりアンダーの精神性や在り方を問う1曲」と解説した。「その歌詞がストレートすぎるため、聴く者によっては涙を禁じ得ないが、それでも笑顔を見せようと歌う彼女たちに心打たれるファンも多いはずだ」という記述からは、多くの披露機会において、楽曲の最後に右手を天に掲げながら、シリアスな表情を少し緩める表現をしてきた北野のありさまが思い出される部分もある。
「アンダー」については、そのパフォーマンスを東京ドーム公演で目にしたバナナマンの両名が、直後の2017年11月10日放送の「バナナムーンGOLD」のなかで語っていたこともあったという36。設楽統も日村勇紀も、「アンダー」という楽曲をアンダーメンバーに歌わせることについて「むごい」と言い合い、しかしそのパフォーマンスについて、設楽は「やっぱり他の曲と気持ちが違うんだろうね」「ものすごいグッとくる」とも評した。そして、その状況を演出した作詞家でプロデューサーの秋元康について、「常人じゃないんだろうね、発想が」とも言及した。近年は行われなくなっているが、「乃木坂って、どこ?」および「乃木坂工事中」において、かつては目の前で選抜発表の模様を見届け、選ばれたメンバーにも選ばれなかったメンバーにも直接エールを送ってきたバナナマンの両名は、「選抜/アンダー」の構造がもつ生の空気を誰よりもわかっていたと称してよいだろう。
設楽:アンダーブロックって言ってさ。アンダーっていうのは、選抜と違ってさ、日の目を見ない、みたいな。そういう曲があんだよ。
日村:『アンダー』って曲があんだよ。
設楽:もう、むごいったらない。「秋元さん、ちょっとヤバイよな」って思うくらい。アンダーの子に『アンダー』って曲を歌わせて。
日村:うん。
設楽:「あなたは私がどこにいるか分からないかもしれない」とか、本人たちの気持ちみたいなのが凄い詩にあるの。
日村:うん。
設楽:ただ、これをその子たちが歌うって、えらいむごいし…って思ったんだけど。
日村:うん、むごい。
設楽:でも、それを歌うことによって、やっぱり他の曲と気持ちが違うんだろうね。物凄いグッとくんのよ。
日村:うん。
設楽:で、あれを歌ってる子たちが格好良く見えるし。そこを見越してあれを渡してるとしたら、やっぱり常人じゃないんだろうね、発想が。
日村:うん。
設楽:あれはすげぇなって思った。あの曲知ってたけど、ああいうところで歌ってるのを聴くと、秋元さんの…あれをだから、どこまで考えてるのか。
日村:うん。
設楽:秋元さんだって分かるわけじゃん、ツライのとかは。
日村:うん、分かってるからね。
設楽:あれはすげぇわ。一人一人、気持ちが多分、あの曲は違うと思うし。(2017年11月10日「バナナムーンGOLD」[参考:「世界は数字で出来ている」])
設楽も日村も、冠番組MCという立ち位置もあり、乃木坂46のあらゆる側面に関して、(番組の外で起こることについては特に)批判的に出ることはなく、肯定的なスタンスを崩さずに温かく見守っているように見受ける。そのなかにあって、このような発言が電波に乗ったということは、そこからいくぶん踏み込んだ形であったといえる。各方面への配慮はしつつ、客観的で「まとも」な評価を加えた、といえるように思う。
メディアに乗せられたものをいくつか取りあげた形となったが、「アンダー」はとかく「語りたくなる」作品であったように思う。そのこと自体は必ずしも肯定的な評価ではなく、メンバーを筆頭に、それに触れる者の心情を必要以上にかき回した、ということでもある。
いろいろな声が渦巻いたこの時期を、メンバーはがむしゃらに駆け抜けたような形となった。北野の休業と中元の卒業があり、何かが解決したようなわけではないものの、ざわめきは少しずつおさまっていく。北野が休業から復帰し、グループ活動に戻っていく経緯については前稿まででかなり書いてきたので、以降は「アンダー」に焦点化して北野の歩みを振り返っていく形とする。北野はグループにひとり残った形となる「アンダー」のセンターメンバーとして、この曲に引き続き対峙していくことになった。“あの夏”の苦闘を思い出せば、「アンダー」を少し遠ざけてしまうようなことも考えられたが、結果として、北野はそのようなことはしなかったように思う。
それからの北野がどのように「アンダー」に向き合い、どのような言葉を発信してきたのか。“あの夏”にステージの上やその裏で起こったことと同じくらい、そこには心を傾けられるべきだと思っている。
もう一度、“真夏”のステージで
休業から復帰した北野が初めて全編に出演したライブが、「真夏の全国ツアー2018」の始まりの公演として位置づけられた「6th YEAR BIRTHDAY LIVE」(2018年7月6-8日)であった。「シンクロニシティ・ライブ」と銘打たれ、明治神宮野球場・秩父宮ラグビー場という隣接する2会場を用いて行われるという前例のない形式であったこのライブでは、選抜/アンダーの2チームが両会場を往還しながらパフォーマンスした。3期生がアンダーメンバーにも合流したタイミングである20thシングルの体制で臨まれたこのライブに、北野はアンダー側のチームに加わる形で参加することになる。
初日の7月6日。筆者は秩父宮ラグビー場の客席にいたが、選抜メンバーによる「裸足でSummer」からスタートしたセットリストにあって、次のブロックでアンダーメンバーが会場に現れると、そこにいる北野の姿に注目が集まっていた。モニターが彼女をとらえると、最初はざわめきが起こり、しだいにそれは、いくぶんかの応援の声を含んだ歓声に変わっていった。
この日はライブ中盤から本降りの雨となり、しだいに強くなっていく。筆者が現地で経験したライブのなかで、最も雨が強かったのがこのときである37。終盤のブロックでアンダーメンバーが秩父宮ラグビー場に戻ってきたときはすでにひどい状態になっていて、メンバーもパフォーマンス中、時折笑ってしまっているようなくらいであった。このライブの肝である「シンクロニシティ」の両会場同時披露などを経て、「13日の金曜日」「風船は生きている」と、明るいカラーのアンダー曲が連ねられた。そののち、このライブのクライマックスともいえるタイミングで披露されたのが、「アンダー」であった。何百回と聴いたあのイントロ。それと認識するのには秒とかからない。あの曲をやるのか、ここで。雨粒をぬぐって目を見開くと、センターポジションに立つ北野の姿がモニターに大写しになった38。
降りしきる雨に濡れながらの披露。北野がこの曲を演じるのは、東京ドーム公演以来のことであった。ワンハーフサイズで披露された終盤、ラスサビに向かうタイミング。「客席の/誰かが気づく」。横一列のフォーメーションに並んだメンバーが右手を掲げると、神宮・秩父宮の夜空に花火が上がった。
ひめちゃんがブログで
去年の私が打ち上げ花火なら
今年の私は線香花火だって言っていてなんか、その例え方が
しっくりくるのと同時に
とても切なくて寂しいなって思いました!私は去年が打ち上げ花火として
ちゃんと打ち上がったのかもわからないし
今年の自分がどんな花火なのかも
わからないです(北野日奈子公式ブログ 2017年7月27日「今が途切れないように」)
去年の夏が打ち上げ花火なら
今年の夏は線香花火かな。
あくまで私の話ですがそんな感じです^^どちらも風情があって私は好きです。
(中元日芽香公式ブログ 2017年7月12日)
“真夏”のステージにひとり戻ってきた北野にあてがわれた、ファンとしては驚きの演出だった。そんなセットリストがあり得るのか、と思った。のちに北野は、このときの「シンクロニシティ・ライブ」のセットリストは、「上り線と下り線を表している」と述べている39。このとき、「ホームの向かい側」であるところの明治神宮野球場で演じられていたのは「裸足でSummer」。齋藤飛鳥のかけ声で花火が打ち上がった印象も強い、定番の“夏曲”である。それと交差する曲として、アンダーメンバーにしか歌えないものを歌い、アンダーメンバーにしか出せないエネルギーのある、象徴的な楽曲が選ばれたのであった。
——アンダーメンバーは本編最後に北野さんのセンターで『アンダー』(18thシングルアンダー曲)を歌いましたが、あの曲で花火が上がる演出は、情報だけ聞くと想像しにくかったですけど、実際に見たらすごくよかったです。
北野 ありがとうございます。あのセトリって上り線と下り線を表しているらしいんですけど、最初はよく理解してなくて、曲中に花火が上がることも知らなかったんです。何回目かのリハで花火が上がる話を(伊藤)かりんがしていたのかな? 「そうなの?」と驚いて。——花火が上がることでパフォーマンスの持って行き方を意識したんですか?
北野 ただ、あの曲は人それぞれ捉え方が違うから。(向井)葉月だったら明るめに歌ったり踊ったりしているし。
星野 そうなの?
北野 うん。それが今の葉月の色だし、2年経ったら変わるかもしれない。だから、みんなが「私たちの気持ちも晴れました」と思って花火が上がったわけではなくて。ちーちゃん(斎藤ちはる)と伊織の卒業だってだってあったし、それぞれの感情があるからこそ感動できる曲になったのかなと思うんです。あの曲をもらったとき、私は初めてのセンターで、ひめの卒業も控えていたし、どうしたらいいんだろうと考えてしまって。でも、1人であの曲を昇華する必要はないんだなと気づいたんです。——アンダーライブ九州シリーズでの『アンダー』もよかったし、その時々での昇華の仕方があって、曲が変化していく過程をみることができました。
北野 一番一生懸命になるし、感情をたくさん使うので、大変な曲だなと思います。『嫉妬の権利』の方がダンスはハードで大変だけど、『アンダー』は“心構え”が必要な曲なんです。(『月刊エンタメ』2018年10月号 p.14)
また、北野は翌年のツアーを終えたあとのタイミングで、このときの「アンダー」について、「花火が上がったことで解釈の幅が広がったのはよかったです」(『EX大衆』2019年10月号 p.80)とも語っていた。苦しみ抜いた1年前の夏の記憶が色濃く残るなか、“復活”のステージで特別な演出で披露することができたのは、北野にとって大きなことだったかもしれない。この「6th YEAR BIRTHDAY LIVE」では3日間で6回を披露40。続く「真夏の全国ツアー2018」地方公演でも全8公演で披露し、北野は1年ごしに「センター」としてこの曲をツアーで演じきった形となった。
「聴いてください、『アンダー』」
北野は21stシングルにアンダーメンバーとして参加し、10月のアンダーライブ北海道シリーズでは22ndシングルでアンダーセンターを任されるとことと、武蔵野の森総合スポーツプラザでアンダーライブが開催されることが発表された。このとき、センターとして北野にあてがわれたのが「日常」である。音楽番組での披露はすでになされていたが41、ライブでの初披露はこのアンダーライブでのことであり、その力強いパフォーマンスが話題をさらうことになる。
「アンダー」は、このライブにおいてもセットリストに含められることになるが、ここには北野の意志が介在していたものとして語られている。タイミングによって、微妙に異なるニュアンスともとれる語られ方があったので、ここでふたつ引用する。
北野 今回、スタッフさんに呼ばれて、セットリスト作りに携わらせてもらったんです。「『左胸の勇気』はどうしてもやりたいです」とか「この曲のセンターは○○さんがいいと思います」とか意見を言わせてもらって。そこで、『アンダー』を入れるか入れないかについての話になって、私は入れたほうがいい、と言いました。
——どうしてですか?
北野 いつまでも自分の中でコンプレックスにするのはよくないからです。ダンスブロックの前に置くことで、『アンダー』がより深いものになって届いてくれたらいいなっていう思いもあって、そこに入れてもらいました。(『BUBKA』2019年3月号 p.18-19)
北野:セットリスト考えててさ、『アンダー』って曲が私のセンター曲であるんだけど、結構雰囲気を変える曲だから、やるかやらないかって言われて、私はもうやらなくてもいいかなって思ったんだけども、「やった方がいいんじゃない」ってスタッフさんの声もあって、じゃあ頑張ってやってみますって言ったんだけど、入れどころを考えるじゃない。消化の仕方が難しい曲っていうのかな。
久保:どこに入れるかで、意味が全然変わってきますもんね。
北野:ダンスが下手くそな日奈子が一生懸命踊るっていうところを、演出家さんたちが「そこも入れた方がきいちゃんらしいよ」みたいな感じでダンスパートをこう……いつもさ、全員でダンスやってたじゃない。一人で踊ってもユニゾンがあったじゃん。でも今回は日奈子一人で踊るってなって、『アンダー』の入れどころとかも考えて、これ実はソロダンスの前にVTRが入っているんですけど、VTRをふる『アンダー』があって、アンダー曲って言うところからもう始まってて、ここのブロックが。そのへんとかも色々こだわってもらって。(のぎ動画「久保チャンネル #16 アンダーライブ全国ツアー2018 〜関東シリーズ〜 中編」[2021年9月24日配信開始])
「もうやらなくてもいいかな」とも思っていた、という部分が、後年になって新たに語られたような形であった。最初に聞いたときはちょっと驚いたというか、意外な気がしたが、「コンプレックス」であったと言い切る楽曲を、自分の意志でセットリストに入れるとなると、確かにそういう言い方になるかもしれない。花火が上がった神宮・秩父宮のときは復帰したばかりで余裕がなく、あるいは演出としてあてがわれたのみのもので、「(相楽)伊織の卒業もあったし、ただただ必死でした。セトリに『アンダー』があることにしばらく気付かないくらい。しかも、「この曲で花火が上がるんだ!」と驚いて」(『EX大衆』2019年10月号 p.80)という状態だったというが、結果として武蔵野の森での「アンダー」は、最終的に北野が首を縦に振ったことで、セットリストに加えられることになる。MCのコーナーを終え、最後のブロックの1曲目として演じられた「アンダー」。「聴いてください、『アンダー』」。東京ドーム公演での披露のときにも重ねるようにして、北野自身のそのかけ声でパフォーマンスが始められた。
ライブ2日目のアンコールで、北野はその「アンダー」について、改めて口を開く。
「急なんですが、前に、楽曲の『アンダー』に対して、私はその時にどういう感情で歌ったらいいか分からない、と言ったことがあるんですけど……正直、今も何が正解か分からないです。でも、正解がないところが、すごくいいなと思います。
アンダーメンバーそれぞれ、それぞれのポジションを任されて、そこでどうやって輝くかは自分次第で……たとえスポットライトが当たっていなくても、アンダーメンバーは自分自身が光を放てるメンバーだと思います。そこがアンダーメンバーの良さであり、強みだと思っています。」(2018年12月20日「アンダーライブ全国ツアー2018〜関東シリーズ〜」DAY2 北野日奈子アンコールスピーチ)
「アンダー」には正解がない。その通りだと思った。「曲をいただいた時は、もうアンダーはアンダーのお仕事がたくさんあって、それぞれに誇れるものもあるという状況でした。そんな状況だったので、『このタイミングでこの歌詞をどういう気持ちで歌えばいいの?』という戸惑いがありました」(『BUBKA』2019年3月号 p.19)と感じたといい、「当時感じた気持ちを忘れることはありません」(同)とも語る北野。しかし、この後の時期に「選抜だけにこだわらないという姿勢でやってきた」という自身が「通ってきた道に何の悔いもない」と言い残して42グループを卒業していった伊藤かりんは、この楽曲を自分に重ねつつ前向きにとらえていたし、川村真洋は「私はそんなに暗い気持ちで歌いたくなかったので、たまに少し微笑むようにしていました」と、少し距離を置いたようなことを語っていた。
九州シリーズ(17年10月)では、明るく楽しいだけではなく、緊迫した雰囲気がステージにあふれていました。『アンダー』(17年8月発売・『逃げ水』カップリング)を私たち自身がどう表現すればいいのか分からなかったし、ファンの方はどう受け止めるんだろう? という不安があったんです。初めて『アンダー』を披露したときは、みんなの表情もバラバラでした。どういう感情で歌うのが正解なのか分からなかったんです。私はそんなに暗い気持ちで歌いたくなかったので、たまに少し微笑むようにしていました。
人それぞれいろんな捉え方があると思うけど、「かわいそうな子たち」という目で見られるのが一番つらいんです。確かに苦しいことや落ち込むこともあるけど、私たちは元気だし、楽しみながら活動をしています。『アンダー』も、たくさんあるアンダー楽曲のなかの1曲なので、あまり深く考えすぎずに歌ったほうがいいんじゃないかな、って個人的には思っています。(『日経エンタテインメント! アイドルSpecial2018春』[2018年3月7日発売]p.48、川村真洋)
疑いないのは、全員が同じ気持ちになっていたら、あの九州シリーズは完走できなかったということだ。苦しみがあふれるばかりになっていたメンバーがいた一方、自らのなかにある葛藤を言葉にして発信するメンバーもおり、あくまでライブとして「明るく楽しい」雰囲気がつくりあげられる場面や、高いレベルのパフォーマンスで魅せる場面もあった。
しかし、武蔵野の森でのアンダーライブは違っていた。「みんなと同じ空気の温度になれた」と、北野はいう。あるいはあのとき「この曲を歌うのは辛い」と感じ、涙を流したはずの「アンダー」を、「すごく大切に思っています」「これからも大切に歌いたい」と語った。このときのアンダーライブは、北野にとってもファンにとっても、のちのちまで語り草となるような、よい記憶として刻まれることになる。“あの夏”の忘れ物、そのうちのいくつかを、北野はここで取り戻すことができたのだと思う。
「私はね、あの曲をすごく大切に思っています。これからも大切に歌いたいな、と思います。それから……今日でこのメンバーでのアンダーライブは最後になりますが、このメンバーだからこそ、このアンダーライブができたと思うし、みんなとこの時を過ごせたことが、本当に幸せに思います。
数年後、それぞれがここを飛び立って、どんなところで、どんなことをして、どうやって輝くかは分かりませんが、今日のこの時を過ごした私たちは、今日のこのことが人生の宝物で、人生の財産になると思います。
私はですね……たぶん頼りなかったし、引っ張っていっているというよりは、足を引っ張ってしまっていて、頼りなかったと思うんですが、みんなと同じ空気の温度になれたことが本当に幸せに思います。ありがとうございました。」(2018年12月20日「アンダーライブ全国ツアー2018〜関東シリーズ〜」DAY2 北野日奈子アンコールスピーチ)
この直後の2018年12月27日に発売された『空気の色』のインタビューには、「人は過去を変えることはできないけど 過去の持つ意味を変えることはできる」と見出しが付され43、これについて北野は、このアンダーライブを経て「休業していたという過去の意味も変えられているかなぁっていう感じがする」(『BUBKA』2019年3月号 p.19)とも語っていた。この年末には音楽番組への出演の機会も多かった北野だが、なかでも12月30日の「日本レコード大賞」では、グループとして2年連続の大賞受賞作となった「シンクロニシティ」には参加していなかったものの、前年の大賞受賞作品として演じられた「インフルエンサー」には、オリジナルのポジションで参加する。メンバーの編成は大きく変わっていたが、1年越しの「レコ大」出演をかなえた形にもなった。
「きっと、いま見てくれている人とかも、いろんなことに悩んだり、いろんなことに落ち込んだりとかね、あると思うんですけど、私がきっとそういうことを全部プラスにできた人間じゃないかな、と思います。
本当にもう、前が見えないくらい真っ暗なトンネルの中にずっといて、自分がいまどこの方向を向いてどうやって呼吸をしているかもわからないぐらいの……ね、本当にたくさんいろんなことがあったけど、大丈夫です。私でもまたこうやって新しい自分が生まれて、その自分がすごく大好きになれたから、きっといろんなことあってもね、皆さんも昔に戻るんじゃなくて、変わって、生まれ変われると思います。」(2018年12月26日『空気の色』発売記念SHOWROOM、北野日奈子)
「アンダー」は、以降のライブでも印象深く演じられていくことになる。2019年2月21-24日の「7th YEAR BIRTHDAY LIVE」では“全曲披露”のセットリストのなかで3日目に演じられたが、多くの曲で卒業メンバーのポジションが3期生を中心に積極的に埋められるなか、「アンダー」は現役のオリジナルメンバー12人のみで演じられ、北野がひとりでセンターに立った。西野七瀬の卒業コンサートとなった4日目で演じられた楽曲を除き、グループの歴史をなぞる形で時系列順に各楽曲が披露されるセットリストにおいて、それまで幾度も3期生を加えた編成で披露されてきた「アンダー」がオリジナルメンバーのみで披露されたことは、このときのバースデーライブにおいて印象的な出来事であった。
2019年3月19日には、「衛藤美彩卒業ソロコンサート」が開催される。衛藤は「アンダー」のオリジナルメンバーではないが、1期生として長いアンダー時代を過ごした自らを重ねて、この曲をフルコーラスで披露した44。
「選抜、アンダーと立ち位置がつけられてしまうということは、苦しいことでもあるけど、でもポジションがすべてじゃないし、いま私がいる場所が自分の位置だと思っていままでやってきたし、皆さんと一緒にここまで私は走り続けてきたから、そのことに誇りも持っているし……そんな私の思いを、私は参加していない楽曲なんですけど、聴いてください。『アンダー』。」
(2019年3月19日「衛藤美彩卒業ソロコンサート」、衛藤美彩)
これは、「アンダーメンバー」というくくり以外で「アンダー」が披露された歴代唯一の機会である。18th選抜メンバーの18人のうちで、「アンダー」を歌唱したことがあるのは、衛藤だけであるということにもなる45。「聴いてください、『アンダー』」。アンダー時代の自身と、それを支えたファンへの思いを表現した選曲であったとともに、衛藤のことを特に慕い、衛藤も「映し鏡のような存在」(『BUBKA』2016年3月号 p.34)と呼ぶほどに、自分を重ねてかわいがってきた北野のことも思わせるような、そんなパフォーマンスであった46。
“生きた楽曲”となった「アンダー」
衛藤によるソロ歌唱あたりを契機に、「アンダー」はリリース当初の衝撃の記憶から離れ、少しずつ楽曲として本来当てられるべきだった光が当たるようになり、息を吹き返していったような、そんな印象がある。そのときどきのメンバーで演じられ、違ったアレンジや演出がつけられる。本来、グループの楽曲とはそういうものだ。
北野は22ndアンダーセンターとしての務めを終え、23rdシングルでは福神メンバーとして選抜に復帰することになるが、このタイミングのアンダーライブであった2019年5月24日の「23rdシングル『Sing Out!』発売記念アンダーライブ」では、「アンダー」は北野不在のなかセットリストに加えられる形となり、寺田蘭世がセンターに立つ。センターポジションが詰められて披露されたことはあったが、中元と北野以外のメンバーが明確にセンターに立って披露されるのは初めてのことであった。
「真夏の全国ツアー2019」では演じられることはなかったが、このツアーを終えたあとのインタビューで、北野は前年のことを振り返る文脈のなかで「『アンダー』は、アンダーメンバーにとっては『乃木坂の詩』みたいな曲になっていくと思う」(『EX大衆』2019年10月号 p.80)と語っていた。先に引いた「花火が上がったことで解釈の幅が広がったのはよかったです」(同)という発言は、これをふまえてのものでもある。この時期には、10月10-11日に24thアンダーメンバーによる「アンダーライブ2019 at 幕張メッセ」が開催され、「アンダー曲全曲披露」のセットリストだったこともあり、「アンダー」はここでも披露される。このシングルでアンダーセンターを務めた岩本蓮加がセンターに立つ形をとりつつ、通常のフォーメーションダンスからは変化がつけられ、メインステージの上階までを大きく使いつつ、プロジェクションマッピングによる演出が取り入れられていた。
このときの「アンダーライブ2019 at 幕張メッセ」について、2019年10月20日の「JAPAN COUNTDOWN」では、このライブを起点としつつ、一般向けに「乃木坂46のアンダーメンバー/アンダーライブ」について紹介するような特集が組まれた。「アンダーメンバーの苦悩と葛藤、誇りが詰まった大切な楽曲」として、ライブの映像に乗せて「アンダー」が紹介される。あわせて「当たっていない/スポットライト」という歌詞がクローズアップされるなど、まとめ方としてはかなりざっくりとしたものであったとも感じるが、そのくらいの“わかりやすさ”にも、一定の意味があったということかもしれない47。
年が改まって2020年。“全曲披露”で行われた「8th YEAR BIRTHDAY LIVE」では、リリース順にはこだわらず、総力戦ともいえる体制で4日間で200曲が披露されたなかで、「アンダー」はDAY1(2020年2月21日)の終盤において披露される。フォーメーションは24thアンダーメンバーを基本としつつ、センターには北野が立つ。北野にとっては前年の「7th YEAR BIRTHDAY LIVE」以来の披露となったが、オリジナルメンバーはさらに減って9人となり、3期生を加えた編成で披露されたことは、1年間という時間の流れを感じさせるものともなった。
「今どこにいたって/やるべきことって同じだ」
このあと、2020年3月25日には25thシングル「しあわせの保護色」がリリースされる。1期生が全員福神メンバーとして選抜入りし、2期生・3期生・4期生には「期別曲」が制作される一方、アンダー曲のない特別な体制でのシングルとなった。その後、コロナ禍のいわゆる「自粛期間」を経て、次のシングルのリリースまでにはかなり長い期間が空くことになる。
26thシングルの選抜発表の模様が「乃木坂工事中」で放送されたのは、2020年11月15日放送の#284のことであった。北野にとっては4作ぶりに選抜メンバーから外れる形となり、涙の選抜発表になったという。
私は26枚目シングルの選抜メンバーに
選ばれませんでした。何度やっても何年やっても
慣れることのない選抜発表に今回も変わらず
心臓が大きくなっていました。
名前が呼ばれることがなく終わって
大きくなっている私の心臓も
言葉にならない心の中も全部置いてけぼりで
ただただ、涙が溢れてきて
それをこの空間に悟られないようにするのに必死であぁ私またここで平気なフリをしてしまうのかな。
心の中をぐしゃぐしゃにして乗り越えたフリするのかな。悲しくてたまらないのに、この感情をなかったことにして、なんとなく過ごしていくのかな。色々ぶわぁーっと考えていたら
同期の心が私の心に寄り添ってくれていました。優しくて温かくて我慢してた涙も流すことができて、何年か前のあの時より大人になって強くなった自分の存在に気づけました。
(北野日奈子公式ブログ 2020年11月16日「それでもないしこれでもない」)
しかし北野は間もなく、初めてアンダーセンターに立つ3期生・阪口珠美を支え、アンダーとしては4年ぶりの日本武道館での公演、1年以上ぶりのアンダーライブ、グループとしても10か月ぶりの有観客公演となった「アンダーライブ2020」(2020年12月18-20日)に向け、自らをふるい立たせていくことになる。「今どこにいたってやるべきことって同じだ」、そう念じて。
今どこにいたってやるべきことって同じだ
私はこの思いを心に掲げて気持ちを強く保とうと頑張っています、皆さんにいい報告ができるように頑張らないと!
乃木坂46には選抜メンバーとアンダーメンバーがあって、みんなで乃木坂46です。
アンダーメンバーの存在があって
選抜メンバーの存在があるし、もちろん逆も。
お互いが存在するためにはお互いが必要不可欠だと思います。
アンダーという場所も選抜という場所もとても大切に思っているし大切にしていますいつもいつもありがとう
皆さんからの愛情はちゃんと受け取っています
温かい言葉で溢れる私のこの場所は
とても大切で大事な居場所です(北野日奈子公式ブログ 2020年11月16日「それでもないしこれでもない」)
前回のブログ
本当にたくさんのコメントありがとうございます
全部全部読んで読み返して
今の私の心のカタチが形成されていく気がしましたこれが原動力というものですね
皆さんからの思いや言葉が私の原動力ですこうやって皆さんが伝えてくれるから
伝えることを面倒くさがらずに私に向き合ってくれるから、私はまた自分の場所で頑張ろうと
振り出しに戻ったような気分だったけど
たしかにあの頃と今じゃココに立つ私は
全然違うんだと、だから振り出しに戻ったわけじゃなくてまた新しい頑張り方を見つけたいと思いました!とはいえ泣きたくはなるしね、
泣くのを堪えて鏡の前に立つ自分と向き合えない日も時々あるけど
どこにいたってどう見えたってやるべきことは同じだと同じことの繰り返しに見えるけど
ちゃんと成長しているんだよね!だからまた走ってるよ!
(北野日奈子公式ブログ 2020年12月4日「逃げ込んだ毛布の内側」)
「アンダーライブ2019 at 幕張メッセ」に続いて、アンダー曲を全曲披露する48というコンセプトで行われたこのときのライブ。その1日目の1曲目が「アンダー」であった。ダンスは終盤のみで、歌唱中心で歌詞を届けるような披露。アンダーセンターの阪口とともに、北野がゆっくりと歩み出してくる形で公演が始まった。
また、1日目と2日目では、ライブ後半につながる部分でVTRが挟まれ、阪口と鈴木絢音、そして北野の3人による対談の様子が流された。1日目では直後の「新しい世界」について触れられ、2日目においては同じく直後の「アンダー」について語られる場面があった。この曲がもたらした「葛藤」を北野が語るところで、ライブの映像が差し挟まれる。泣きながら「アンダー」をパフォーマンスする北野の姿が、そこにはあった。2017年8月11日、ゼビオアリーナ仙台49。このときの模様が映像化されたのは初めてであった。
北野はこのアンダーライブに際して、「何から向き合っていいのかわからなかったのが、最初でした」という状況であったことを、公演直後のブログで明かしている。「どこにいてもやるべきことは同じだ、わかっていても心が折れる時もあって」という部分とあわせて、かなり率直な思いが吐露されていたように思う。
今回のアンダーライブには
何から向き合っていいのかわからなかったのが、最初でした。いつも泣きそうになりながら練習して、こんな気持ちのままやっていたらダメだと思いながら鏡に映る自分の姿をみることができなくて、何がダメなんだろうとか、なにをしたらいいんだろうとか自分の事がわからなくなっていたけど、今の私を見てくれている家族が友達がファンの方が、そのままの私が好きだと言ってくれるから、私は私が好きなみんなを幸せにしたいんだと気づきました。どこにいてもやるべきことは同じだ、わかっていても心が折れる時もあって
でも揺らぐことのない大事なことをいつでも心に留めておけば
また頑張るために立ち上がれるから
この先きっと皆んなそれぞれに色々なことが起きるかもしれないけど、私は誰かのためにみんなのために皆んなと心を通わせたいと思いました。(北野日奈子公式ブログ 2020年12月22日「一番好きなものを離さないで」)
前述のVTR中では、「アンダー」については「もう考えないで」、そのときの思いを表現するようにしたい、というようなことも語られていた。誰よりも「アンダー」について考えてきたであろう北野のその言葉は重かった。こうした「その時その時の感情でパフォーマンスする」という向き合い方や、一方で「鏡に映る自分の姿を見ることができない」という自身のことについては、23rdシングルで福神メンバーに選ばれた直後のタイミングのインタビューでも語られてもいたところであった。
——ダンスにはまだ苦手意識があるんですか?
好きだけど苦手です。それぞれに特徴があるから何が正解とかないけど、私としてはもっとやれることはあるなと思ってます。——気持ちが伝わるダンスだと思います。
リハ中、鏡の自分を見ることができず、ずっと下を向いてるんですよ。休業前からの癖で。ただ、ステージに上がると「楽しい」以外の記憶がないんです。お母さんに「今日は恐ろしかったよ」と言われて、「そうなんだ」って(笑)。その時その時の感情でパフォーマンスしているんですけど、それは『アンダー』を通して学んだことなんです。(『EX大衆』2019年6月号 p.21)
公演直後、前掲のブログを更新する前に送信されたモバイルメールでも、「心の整理をしようとすると涙が出る」ので、そのままパフォーマンスに臨んだ、と語られていた。ここでは、センターに立った「アンダー」「日常」「君は僕と会わない方がよかったのかな」についてそれぞれ言及され、「アンダー」は「イントロだけで心がぎゅっとなる」、というようなことが綴られていた。
北野は後年、アンダーメンバーにポジションを移して活動していたこの頃の心境について、このように語っている(前稿まででも引いてきた、27thシングル期のインタビューである)。「自分は選抜メンバーを目指していいんだろうか」と向井葉月から相談された、というエピソードを紹介するなかでの発言であった。
「(前略)……私自身、『Sing Out!』『夜明けまで強がらなくてもいい』『しあわせの保護色』って3作連続で選抜に選んで頂いて、その先も選抜メンバーとしてグループにどう貢献していくかイメージしていたところで、前々作の『僕は僕を好きになる』でアンダーということになって。今自分に求められている役割はそこなんだと理解はしています。でも、諦めてはいません。私は、アイドルでいる限り、表題曲を歌うアイドルでいたい。……(後略)」
(『アップトゥボーイ』2021年9月号 p.43)
「今どこにいたって/やるべきことって同じだ」。「アンダー」の2番のこのフレーズは、この頃に北野が繰り返していたという以上に、現在につながるこの時期、アンダーメンバーのありさまを象徴するフレーズになっていったように思う。2020年夏に16種が放送された「ALL MV COLLECTION 2~あの時の彼女たち~」のCM、放映順としてはその2本目であったアンダー曲で構成されたもののなかでも、BGMとして「アンダー」が流されるとともに、「日常」を踊る北野の映像に重ねてこの歌詞がテロップで用いられた。
フルサイズでの披露でなければ歌われることのない2番の歌詞。しかし、ここにはアンダーメンバーの“希望”といえるものが集約されているようにも思える。「アンダーメンバーの固定化」と語られるような状況が現実として続く一方、メンバーどうしの競争があおられるような価値観はいくぶん退けられていき、この先に選抜メンバーを目指していいのかどうかさえも見えなくなるアンダーメンバー。グループのなか、あるいは芸能界のなかで独自の色を見つけ、アンダーであっても世間にリーチしていくメンバーも次々生まれるような状況でもあったが、選抜とアンダーががらりと入れかわるようなことは起こらない。そのなかにあって、たとえ選抜でもアンダーでも、いまいる場所が望んだ場所だとしてもそうでない場所だとしても、「今どこにいたって/やるべきことって同じだ」。だからこそ、乃木坂46がグループとして成立しているのだと思うし、逆にもしそうでなければ“希望”はない、と言ってしまえるように思う。
休業を経て「1人であの曲を昇華する必要はないんだなと気づいた」(『月刊エンタメ』2018年10月号 p.14)といい、一度は「『アンダー』は、アンダーメンバーにとっては『乃木坂の詩』みたいな曲になっていくと思う」(『EX大衆』2019年10月号 p.80)と語った北野。しかしこの頃からは、「アンダー」をあくまで“自分の曲”であるように取り扱うことが再び増えていったように、筆者は個人的に感じている。
年が明けて2021年1月11日の「今日は一日“乃木坂46”三昧」では、アンダー曲を紹介してオンエアするブロックのなかで、北野は自分にとってアンダー曲といえば「アンダー」であると答える。久保史緒里にこの曲への思いについて水を向けられると、「そうですね……最初は、それこそ自分のコンプレックスのひとつになってしまった曲ではあったんですけど、それを乗り越え、いまではその曲のセンターをやっていることにすごい誇りを持って、大切に毎回歌っているので、みなさんにとっても大切な1曲になればいいな、と思います」と答えた。前述したような、一般向けにわかりやすく「アンダーメンバー」を語らなければならない場面ではなかったし、北野が自分でアンダー曲をひとつ選曲するならば、それこそ「日常」などでもよかったと思う。それでもあえて「アンダー」を選んだような、そんな印象があった。
3月29日に無観客・配信の形式で行われた「9th YEAR BIRTHDAY LIVE〜2期生ライブ〜」では、ライブの前半に「全員センター」のブロックが設けられた。1人目に登場した北野が選曲したのは「日常」であったが、選曲の理由や楽曲への思い入れを語るなかで、BGMとして「アンダー」のインストゥルメンタルバージョンが用いられる。さらに北野はこのなかで、「アンダー」についても言及する。「この曲は、私にひたむきに努力することの大切さを教えてくれました」。「アンダー」が放つ、「今どこにいたって/やるべきことって同じだ」というメッセージ。それをまっすぐに受けての表現であったようにも思えた。
「美しいのは/ポジションじゃない」
ただ、それからしばらくは、「アンダー」について言及されるような場面は(北野に限らず)みられず、結局2021年には「アンダー」は一度もライブで披露されることがなかった。しかしそのようななかで、北野はベストアルバム「Time flies」リリースに向けた「#わたしの乃木坂ベスト」の企画において、自らの「日奈子は味方だ!一緒に頑張ろうね。プレイリスト」にの3曲目として「アンダー」を選曲する。コメントでは「私のこと、私の周りのこと、こんな物語もあった事を今までとこれからのファンの方に知ってほしい。そんなことが詰まった曲達です。」と述べられ、プレイリスト全体も北野のメンバーとしての歩みを思わせるような構成であるなかでの選曲であった。この時期の「#わたしの乃木坂ベスト」および「#乃木坂ダンスプレイリスト」の企画において、「アンダー」を選曲したのは北野のみであった。
2022年1月31日に北野はグループからの卒業を発表するが、その直後の2月11日に放送された「今日は一日“乃木坂46”三昧〜第二章〜」では、北野ではなく4期生の矢久保美緒が「アンダー」を選曲し、オンエアする形となった50。矢久保は「アンダー」を「グループのなかで立ち位置とか活動に悩んだときに、この曲にとても救われました。『美しいのはポジションじゃない』という歌詞に、私も乃木坂として胸を張って活動しなければ、と思わせてくれる一曲です。」と紹介する。多くの同期メンバーが選抜入りしていくなかで、28thシングルではアンダーメンバーに加わることになったが、さまざまな活動を重ねていくなかで自らの個性が多くのファンにより届くようになっていった、そんな彼女の歩みが思われたひと幕でもあった。
「アンダー 今やっと/叶った夢の花びらが/美しいのは/ポジションじゃない」。このフレーズは解釈が分かれてきたところで、それが「アンダー」への評価を厳しいものにしてきた部分もあったと思う。筆者も、北野が繰り返し披露していくなかで、希望を含んだものとして解釈できそうな気がしてくるようになったものの、うまく言語化できずに正直ずっとモヤモヤしていたところもあった。
そのような状況のなかで、今回の記事を書くために改めていろいろと考えたり調べたりするうちに、この部分の公式中国語訳詞が「Under 如今終於/夢想實現的花瓣/如此美麗/不是花瓶」とされていることを知った51。これを改めて日本語に直訳すると、「やっと夢を叶えた花びら」が「美しいのは花瓶ではない」というようなことであろうか。訳詞を他の曲も含めてざっと見た限り、基本的にはかなり元歌詞に忠実に、逐語訳的に訳されているなかで、少々意訳が入っているようにも感じた52。そしてこの中国語訳詞を補助線として理解しようとすると、筆者はいくぶん胸落ちする解釈に落ち着くことができた。例えば、目標としていたセンターのポジションに立てた日が来たとして、それは確かに「花が咲いた」といえる現象であろうが、あくまで咲いたのは花=メンバーであり、花瓶=ポジションが輝きを放っているのではないのである、ということだ(だから、それはこの例えでいえば「センターでなくても咲ける」ということでもあるのだが)。しかし実際には、歌詞全体の流れや当時のアンダーメンバーの雰囲気もあり、「ポジションがすべてじゃないから、そんなに傷つかずにアンダーでも頑張ってね」というような、選抜入りを目指す気持ちをくじくようなメッセージが投げつけられたように、直感的に(あるいは、ことさらにこのような解釈ばかりが強調されて)受け止められてしまう傾向が強かったのではないか、と思う。
誤解のないように付け加えておくが、「こちらの解釈が本来のものだから、そのように理解しなければならない(理解しなければならなかった)」と主張したいのではない。作品として世に出たものが“解釈”に晒されるのは当然のことで、実際にそのように受け止められたのだとしたら、その点に申し開きの余地はない、と思う(あるいは、別にこの中国語訳詞をメンバーが歌ったわけでもなければ目にしたわけでもないと思うし、あけすけに言えば、秋元康が直接そこまでかかわっているわけでもなさそうであるし)。
今に至ってこの中国語訳詞を知って改めて思われるのは、自らも受け止めに苦しみながらも、一貫して「この曲にはいろいろな解釈がある」という趣旨の発信を繰り返しつつ、なおかつ「この曲をステージで演じる」ことを選びとり続けてきた北野のありさまである。その過程を見届けていくうちに、少しずつ「アンダー」の歌詞が「如此美麗/不是花瓶」の意味合いで聴こえてくるようになってきていたな、と思う。均整のとれた少女を連れてきて、一流のメイクを施して豪華な衣装を着せ、大きなステージの真ん中に立たせてスポットライトを当てれば、それだけでそれは「アイドル」だろうか。ファンであれば首を縦に振ることはないと思う。繰り返すが、“咲いた”のは生身のメンバーだ。そこには人間がいて、積み重ねた時間と努力がある。この楽曲と向き合った、北野のありさまを見届けてきた4年半。その時間は、そのことを何度も確認する過程であった。
「心配をしないで/私がみんなが見えてる」
グループからの卒業を発表してからの北野は、自らの9年間の歩みを振り返ることが改めて多くなった。そのなかでは、休業期間や九州シリーズ、そして「アンダー」についても、振り返られる場面があった。
——そんな中、2017年の11月、休業が発表されましたね。
北野 その前の年の秋から、体調の変化を感じるようになっていました。翌年の1月、ひめが休業することになって、ひめの分まで頑張らなきゃという気持ちでいました。その頃、舞台版の『あさひなぐ』があったんですけど、たくさんのメンバーが出演していた中で、次のシングルの選抜に私だけ選ばれなかったんです。「なんで?」って思いました。稽古も毎日ちゃんと通っていたし、舞台監督さんからも褒められていたし、毎日楽しく過ごせていました。ただ、その頃の乃木坂46には3期生が入ってきていて、選抜には3期生の2人がセンターに抜擢されました。あぁ、新しい風が吹いている乃木坂46に私は参加できないのか……。そう思うと、つらかったです。アンダーとして初めてセンター楽曲をいただきましたけど、「なんで?」のほうに気持ちが傾いていきました。休業するのもすごく勇気が必要でした。出遅れたらもう選抜に二度と戻れないんじゃないかと思っていたから。ボーダーライン上で必死にしがみついていたのに、そのラインから手を放すことはすごく怖かったです。(『希望の方角』北野日奈子インタビュー)
このように『希望の方角』では当時のリアルな心情とともに回顧録のような形で振り返られていたが、この時期に多く行われたSHOWROOM配信などでは、いくぶんフランクに当時のことが語られてもおり、つらかったことも「とにかく“乗り越える”一択」(『B.L.T.』2021年8月号 p.113)でぶつかり、北野はそれを実際に成し遂げてきたということが改めてうかがえた。2022年2月8日の写真集発売記念配信の2日目では、休業期間について「自分を大事にできない時期があった」と表現し、自分を大事にできるようになったことで戻ってこられた、と語った。さらにこのときの配信では、「16人のプリンシパル trois」で先輩メンバーのなかに飛び込んだときのことも振り返り、「弱い部分を隠すために笑っていた」が、齋藤飛鳥がそれに気づいてくれたことや、久保史緒里について「涙を見る機会が減ったことが卒業を決めたたくさんの理由のうちのひとつ」であることにも言及されるなど、卒業発表直後ながら、多くのことが振り返られてもいた。
さらに北野は、ずいぶんあっけらかんとした調子ではあったが、卒業を発表してから「夢のなかで毎日泣いている」とも明かした。そのうちのひとつとして語られた「人ごみをかき分けてステージに向かう夢」。そこには推しメンタオルやうちわを掲げて応援してくれている人たちがいて、その声を感じながらステージに向かっているけれど、「私はファンのみなさんのことが見えてるのに、みなさんから私が見えていない」状態で、それでもファンは応援の声を上げ続けていたのだという。「『アンダー』の歌詞じゃん」、と配信にコメントが付き、それに北野は「『アンダー』かぁ!」「寝る前に『アンダー』聴いてないよ!」と応じていた。
「みんなから私のことが/もし 見えなくても/心配をしないで/私はみんなが見えてる」。筆者はこのフレーズには、どちらかというと(特に2017年当時は)中元の姿を重ねていた部分がある。九州シリーズ千秋楽の宮崎市民文化ホール公演で、中元は自らについては「引き止めないでください」とした上で53、グループやメンバーへの信頼や愛情を述べ、「私がいなくなっても心配しないでください」というようなことを口にしていた。「アンダー」の歌詞全体としては、アンダーメンバーの置かれた状況(「当たっていないスポットライト」「人知れず汗を流す影」など)や、内心の部分(「今どこにいたってやるべきことって同じだ」「眩しすぎるわ メインキャスト」など)、そして決意や未来(「新しい幕が上がるよ」「客席の誰かが気づく」など)が描かれた部分で構成されているように思うが、中元と北野のパートから始まるこのフレーズだけは、誰のどういった目線で語られたものなのかが聴いていて見えてこなかった。それが九州シリーズでの中元のその語りで、筆者としてはなんとなく胸落ちしていた、という経緯があった。
中元は最後のライブである東京ドーム公演のダブルアンコールでも、改めて「これからも乃木坂のこと、よろしくお願いします」と呼びかけていた。そしてその姿は、4年半ごしに北野にも重なっていく。北野も最後まで、「変化していく乃木坂もぜんぶ同じ乃木坂」であるとして、「これからも乃木坂46の応援を、どうかよろしくお願いします」と呼びかける(2022年4月30日、最後のSHOWROOM配信)。卒業していくメンバーのよくあるたたずまいだと称してしまえばそれまでだが、このフレーズのこともあり、やはりどうしてもふたりのことが重なって見えた。
ほかにも、4月30日の最後のSHOWROOM配信では、乃木坂46としての活動を「諦めようとしたポイントはあった」ということが語られたほか、九州シリーズに関しては「ズタボロの姿を見せてしまい、本当にご心配をおかけしました」とも述べられた。触れにくいことも、触れたくないことも多くあっただろうが、北野は「乃木坂46・北野日奈子」に起こったことにアンタッチャブルな部分をつくらずに、もれなく振り返りながら卒業していった、という印象がある。
別れと“それから”
北野の卒業コンサートについては別に書こうと思っている(セットリストが北野の思いをもとに相当に練られていたと感じるため、公演全体をまとめてとらえたほうがよいと思う)ので、ここでそこまで深入りはしないが、セットリストのなかの前半に設けられたアンダー曲のブロックにおいて、「アンダー」はフルサイズで披露されることになる。ステージで披露されること自体が「アンダーライブ2020」以来1年3ヶ月ぶりで、4期生を含めた編成で披露されるのは初めてだった。オリジナルメンバーは北野と山崎怜奈、和田まあやのみ。“あの夏”の北野を最前線で支えたフロントメンバーは誰もおらず、1列目には3期生が並ぶ形となっていた。
この公演では、普段の乃木坂46のライブと同様、楽曲披露はワンハーフサイズが基本とされていたが、北野のセンター曲である「アンダー」と「日常」はフルサイズで披露されていた。長らく披露されてこなかった「アンダー」の2番には、北野を主人公としたような形で新たな振り付けがなされ、北野は最後までこの楽曲に向き合って表現したような印象をもった。ひとつ忘れられないのは、曲の終わりである。「美しいのは/ポジションじゃない」と歌詞を歌い終え、最後の「アンダー」を演じきろうとしていた北野は、短く胸に手を当て、一度こちらに背中を向けた。笑顔を浮かべ、客席から目を切る寸前の北野にあったのは、筆者には「アンダー」への惜別の表情でもあったように見えた。
センター曲は「縄張りのようなもの」と書いた。ポジションも楽曲も、基本的にはあてがわれるものである。しかしそれは、ステージで演じていくうちにメンバー自身の作品となり、そしていつしか“我が子”のようになっていく。
——中元さん自身も『君僕』は好きなんですよね。
中元 好きですよぉ(笑顔)。エヘヘ。歌い継いでほしいけど、これから『君僕』はどうなるんだろう。親心みたいな感覚がありますね。
——センター曲は我が子のようだと。
中元 はい。愛しいですね。(『Top Yell』2018年1月号 p.17)
そのセンター曲である「日常」54はもちろん、「ゆっくりと咲く花」や「アナスターシャ」をはじめとする2期生曲55、サンクエトワールの楽曲56、「アンダーライブ2020」で中元の代わりにセンターで演じたという経緯もある「君は僕と会わない方がよかったのかな」57など、北野は「歌い継いでほしい」という趣旨のことを卒業を決めてから口に出し続けてきた、というのは前稿にも書いた通りである。しかし、「アンダー」については、北野はそのようには語っていなかったように思う。筆者がそれを耳にしていないだけの話で、北野の思いはわからない。でも、例えば「日常」とは異なる温度の感情があることは疑いないだろう。北野が「アンダー」に関して背負ってきたもの。それはおそらく、誰にも受け渡されることはなかった。しかし、その背中を見てきた後輩たちが、違った形で未来につなげてくれればいいと思う。
卒業コンサートを経て、2022年4月30日に北野はグループを卒業する。7月17日には山崎怜奈が卒業。その後も和田まあやと樋口日奈が卒業を発表し、「アンダー」のオリジナルメンバーとしては、鈴木絢音が最後のひとりということになる。和田や樋口の最後のライブも含め、北野の卒業コンサート以降、「アンダー」はステージで演じられていないという状況にある。
しかしその樋口は、卒業セレモニーを間近に控えた2022年10月26日の「猫舌SHOWROOM」において、「アンダー」について言及する58。「当時メンバーはすごい衝撃を受けてたの覚えてる」とし、歌詞が心に刺さり、涙を流してしまうような状況だったということを、「いまだから言える話」として口にした。このような状況もあり、当初はメンバーも「あまり歌いたいって感じじゃなかった」というが、何度も披露していくうちに、それが「だんだん変わっていった」のだという。「たぶん、重ねすぎてたんだろうね、自分たちの姿を」。ともに配信を行っていた阪口珠美とともに、「みんなに当てはまる曲だから」とまとめた。「当時はめちゃめちゃ辛かった」といくぶん明るく振り返る樋口と、それに相づちを打ちつつ、BGMに合わせて少し鼻歌を歌う阪口。九州シリーズから丸5年、「アンダー」は乃木坂46の「数あるうちの1曲」になっており、それがおそらくありうべき姿だった。
「みんなに当てはまる曲」。(特にアンダーメンバーの)純粋なファン目線を離れ、フラットに楽曲に接すると、ストレートに人を勇気づけるような力が、そこにはあると思う。「らじらー!サンデー」の週替わりゲストMCを務めるなど、乃木坂46と共演する機会も数々あるジャングルポケット・斉藤慎二は、「アンダー」は好きな楽曲のひとつであると繰り返し言及しており、「めちゃくちゃ聴いてた」とも語る59。
また、「アンダー」の作曲を手がけた白土亨は、リリース当初に歌詞に賛否があった点も認識した上で、現在に至るまで楽曲の行く先を追いかけ続けていた。リリース日にはTwitterで「自分の状況に置き換えても泣けます」と発信し、2020年2月にYouTubeで公開された、白土自身による「歌ってみた」動画60には、「歌詞に賛否ありましたが、僕の心にはすごく響きました」「頑張ってる人への応援歌だと勝手に思っています」とコメントを付した。「アンダー」に関して、作曲家としては周囲からも好評を得ていた(本人Twitter)という白土は、他にも女性アイドルなどに多くの楽曲を提供しているが、坂道シリーズへの提供は現在のところこの1曲のみである。「アンダー」という楽曲が独特の経緯をたどってきたこともふまえて、ある意味奇縁であるともいえるだろうか(これからも何らかの形でかかわってほしいとも思う)。「頑張ってる人への応援歌」。グループの楽曲としては、やはり独特の文脈に置かれ続けるのだとは思うが、いつかまた顧みられて、そんなふうにシンプルに歌われる場面もあればいいな、と思う。
5年間の終わりに
筆者が坂道シリーズに関して文章を書くようになったのは、アンダーライブ九州シリーズがきっかけであった。あの日見たものや聞いたことを、少しでも書き残しておきたいと思ったからだ。あれから5年。こんなに長く「アンダー」について書き続けることになるとは思っていなかった。でも、おそらくは書き切ることができた。自己満足にすぎないが、そのことについては喜んでおこうと思う。そしてそれはもちろん、北野が「乃木坂46・北野日奈子」を完遂してくれたおかげだ。
“あの夏”。北野のことを「どうしても第一に考えたかった」なんて本稿では書いたし、そこに偽りがあるとは思っていない。しかしそんな筆者のありようは北野のためになっていたか、自分はほんとうの意味で北野の味方であることができていたか、と改めて自問自答すると、そうではないように思えてしまう。迂遠だがイノセントに、北野のことを追い込んでいた、そのうちのひとりだったかもしれないと思う。
ポジティブな言葉でも
その言葉を自分の中から外に出すだけで
影響力があることを責任があることを
いつでも覚えておかないといけないですね自分の中でのポジティブな言葉は
その誰かにはとっても辛く苦痛な言葉に
なってしまう場合があることも
忘れないでほしいです私は
元気出して!とか 笑顔でいてね!とか
そういう言葉がその当時はすごく自分の心に負荷がかかっていましただけど
それは言わないでよ、だって私元気だし笑ってるよ?ってそういう気持ちを言葉で返すのも
立場や色々なしがらみから言えなかったり
自分の気持ちを正直に話すことは
すごく勇気のいることだから勇気が心に溜まっていないとできないことです(北野日奈子公式ブログ 2020年11月11日「誰かの足跡」)
いまにしてみれば、慚愧に堪えないとしか言いようがないが、そうした日々すら、北野はいつからか肯定してくれるようになったと感じる。「日奈子は味方だ! 一緒に頑張ろうね」。“卒業”を胸に秘めた状態で活動していた時期の北野には、気持ちを軽くさせてもらえる場面が多かったように、いまにしてみれば思う。
私の夢だけじゃなくて皆さんの夢も一緒に横に並べて皆でそれを掴みにいこう!
一緒にがんばりましょう(北野日奈子公式ブログ 2021年4月19日「ぶつかってばかり」)
「アンダー」に関していえば、さまざまなファンがさまざまなことを言っていて、北野のことを応援する気持ちのみがそこにあったとしても、どうしようもない意見の対立が生じる楽曲として、当時は現出したのだったと思う。ファンひとりひとりの顔を思い浮かべながら、その全員を包摂していくには、北野自身が「アンダー」を(ある程度は)前向きに受け止め、その様子を見せていくしか方法はなかったのではないか、と思う。もう少しいえば、北野はやむなくそういう態度をとっていたというよりは、ただファンの方向を見て歩みを進めていったら、自然とそうなっていった、というように見える。
思えば、リリース前の「18人でうたう『アンダー』という曲を ひとりひとりが違う思いで違う光で歌ってパフォーマンスしていいと私は思います」(北野日奈子公式ブログ 2017年7月27日「今が途切れないように」)に始まり、休業を経たあとにも、「6th YEAR BIRTHDAY LIVE」での披露後には「あの曲は人それぞれ捉え方が違うから」(『月刊エンタメ』2018年10月号 p.14)と語り、再びアンダーセンターとなったタイミングでも「正解がないところが、すごくいいなと思います」(2018年12月20日「アンダーライブ全国ツアー2018〜関東シリーズ〜」DAY2)と発信するなど、“それぞれの「アンダー」でいい”ということは、北野自身も一貫して発信してきていた。卒業コンサートを終えたのちの2022年4月20日には、北野は「猫舌SHOWROOM」において、曲をもらったときは「『アンダー』っていう曲にはひとつの感情しかなかった」が、その後「それ以外の感情も持てるようになった」といい、「本当にその節はご心配おかけしました」とまとめた。やはり最後の最後まで、彼女のことを見つめてきたファンのことをみな包摂するような、これ以外ないようなまとめ方であったように思う。
書けるものは書きつくしたつもりだ。何かをわかっているような書き方になってしまった部分もあったかもしれないが、何かをうまく説明できたような気はしないし、誰かに何かがうまく伝わったともとうてい思えない。でも、それでいいのだと思う。だって、「正解がない」のだから。
※(最終更新2024年11月21日)Cはセンターメンバーの意。現在映像で視聴できるものは太字で記載した。衣装や参加メンバー、フォーメーションなどに関して、映像その他で確認できないものについては、推測、または当時のメモのみで記載している部分があるので留意されたい。
【「アンダー」オリジナルメンバー・フォーメーション】 能條 相楽 川後 川村 佐々木 和田 中田 山崎 鈴木 かりん 純奈 ちはる 樋口 渡辺 中元 北野 寺田 優里 |
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■ 2017年 | ||
日付 | 公演/番組 | 備考 |
8月11日 | 「真夏の全国ツアー2017」宮城公演1公演目 |
・C北野、18thアンダーメンバー(−中元) |
8月12日 | 「真夏の全国ツアー2017」宮城公演2公演目[昼公演] | |
8月12日 | 「真夏の全国ツアー2017」宮城公演3公演目[夜公演] | |
8月13日 | 「真夏の全国ツアー2017」宮城公演4公演目 | |
8月13日 | 「乃木坂工事中」#117 スタジオライブ | ・C北野、18thアンダーメンバー(−中元) ・18th制服衣装 ・18thシングルヒット祈願(ウミガメ探し)完結編の回 ・Blu-ray「与田工事中」に収録 |
8月16日 | 「真夏の全国ツアー2017」大阪公演1公演目 | ・Cなし、18thアンダーメンバー(−中元、北野) ・北野は1公演目当日に欠席発表(公式サイト) ・「アンダー」衣装 |
8月17日 | 「真夏の全国ツアー2017」大阪公演2公演目 | |
8月18日 | 「真夏の全国ツアー2017」大阪公演3公演目 | |
8月22日 | 「真夏の全国ツアー2017」愛知公演1公演目 | ・C北野、18thアンダーメンバー(−中元、純奈) ・純奈はけがにより欠席(公式サイト) ・「アンダー」衣装 |
8月23日 | 「真夏の全国ツアー2017」愛知公演2公演目 | |
8月27日 | ポートメッセなごや全国握手会 ミニライブ | ・C北野、18thアンダーメンバー(−中元、純奈)、フルサイズ披露 ・純奈はけがでミニライブのみ欠席 ・18th制服衣装 ・「PROJECT REVIEWN」あり |
9月10日 | 幕張メッセ全国握手会 ミニライブ | ・Cなし、18thアンダーメンバー(−中元、北野)、フルサイズ披露 ・北野は当日に欠席発表(公式サイト) ・18th制服衣装 ・「PROJECT REVIEWN」あり |
10月8日 | 「真夏の全国ツアー2017」新潟公演1公演目 | ・Cなし、18thアンダーメンバー(−中元、北野) ・北野は10/6に欠席発表(公式サイト) ・「アンダー」衣装 |
10月9日 | 「真夏の全国ツアー2017」新潟公演2公演目[昼公演] | |
10月9日 | 「真夏の全国ツアー2017」新潟公演3公演目[夜公演] | |
10月14日 | 「アンダーライブ全国ツアー2017 〜九州シリーズ〜」大分公演1公演目[昼公演] | ・C中元、18thアンダーメンバー(−北野)、フルサイズ披露 ・北野は各日公式サイトで欠席発表(10/14、10/16、10/17) ・白いドレス風の衣装(アンダーライブ衣装) ・披露前に歌詞の朗読演出(北野パートは樋口) |
10月14日 | 「アンダーライブ全国ツアー2017 〜九州シリーズ〜」大分公演2公演目[夜公演] | |
10月16日 | 「アンダーライブ全国ツアー2017 〜九州シリーズ〜」福岡公演1公演目 | |
10月17日 | 「アンダーライブ全国ツアー2017 〜九州シリーズ〜」福岡公演2公演目 | |
10月18日 | 「アンダーライブ全国ツアー2017 〜九州シリーズ〜」福岡公演3公演目 | ・C中元・北野、18thアンダーメンバー、フルサイズ披露 ・白いドレス風の衣装(アンダーライブ衣装) ・披露前に歌詞の朗読演出 ・10月18日公演の模様が「The Best Selection of Under Live」として「僕だけの君〜Under Super Best〜」の特典映像として収載(のぎ動画で配信中) ・「のぎ天2」で流れたのも10月18日公演の模様 |
10月19日 | 「アンダーライブ全国ツアー2017 〜九州シリーズ〜」鹿児島公演 | |
10月20日 | 「アンダーライブ全国ツアー2017 〜九州シリーズ〜」宮崎公演 | |
11月7日 | 「真夏の全国ツアー2017 FINAL!」DAY1 | ・C中元・北野、18thアンダーメンバー、フルサイズ披露 ・アンダーブロックの衣装(「2017年東京ドーム グレー衣装」[参考]もしくは「My rule 歌唱衣装」[参考]とされているもの)で、ジャケットは脱いだ状態 ・オリジナルメンバー全員による最後の披露 ・DAY2(メンバーの髪型で判断)の模様がBlu-ray/DVDに収録(のぎ動画で配信中) |
11月8日 | 「真夏の全国ツアー2017 FINAL!」DAY2 | |
■ 2018年 | ||
1月6日 | インテックス大阪全国握手会 ミニライブ | ・Cなし、18thアンダーメンバー(−中元、北野、鈴木、和田)、フルサイズ披露 ・中元は卒業済、北野は休業により欠席、鈴木・和田は当日に欠席発表 ・18th制服衣装 ・「PROJECT REVIEWN」あり |
7月6日 | 「真夏の全国ツアー2018 〜6th YEAR BIRTHDAY LIVE〜」DAY1[神宮] |
・C北野、20thアンダーメンバー+北野 【フォーメーション】62 |
7月6日 | 「真夏の全国ツアー2018 〜6th YEAR BIRTHDAY LIVE〜」DAY1[秩父宮] | |
7月7日 | 「真夏の全国ツアー2018 〜6th YEAR BIRTHDAY LIVE〜」DAY2[秩父宮] | |
7月7日 | 「真夏の全国ツアー2018 〜6th YEAR BIRTHDAY LIVE〜」DAY2[神宮] | |
7月8日 | 「真夏の全国ツアー2018 〜6th YEAR BIRTHDAY LIVE〜」」DAY3[神宮] | |
7月8日 | 「真夏の全国ツアー2018 〜6th YEAR BIRTHDAY LIVE〜」DAY3[秩父宮] | |
7月21日 | 「真夏の全国ツアー2018」福岡公演1日目 |
・C北野、21stアンダーメンバー 【フォーメーション】63 |
7月22日 | 「真夏の全国ツアー2018」福岡公演2日目 | |
8月4日 | 「真夏の全国ツアー2018」大阪公演1日目 | |
8月5日 | 「真夏の全国ツアー2018」大阪公演2日目 | |
8月26日 | 「真夏の全国ツアー2018」愛知公演1日目 | |
8月27日 | 「真夏の全国ツアー2018」愛知公演2日目 | |
9月1日 | 「真夏の全国ツアー2018」宮城公演1日目 | |
9月2日 | 「真夏の全国ツアー2018」宮城公演2日目 | |
12月19日 | 「アンダーライブ全国ツアー2018 〜関東シリーズ〜」DAY1 |
・C北野、22ndアンダーメンバー[−寺田] 【フォーメーション】64 |
12月20日 | 「アンダーライブ全国ツアー2018 〜関東シリーズ〜」DAY2 | |
■ 2019年 | ||
2月23日 | 「7th YEAR BIRTHDAY LIVE」DAY3 |
・C北野、当時現役の18thアンダーメンバー(卒業した川後、川村、ちはる、相楽、中元、能條を除く12人) 【フォーメーション】65 |
3月19日 | 「衛藤美彩卒業ソロコンサート」 | ・衛藤によるソロ歌唱、フルサイズ ・のぎ動画で配信中 |
5月24日 | 「23rdシングル『Sing Out!』発売記念ライブ 〜アンダーライブ〜」 |
・C寺田、23rdアンダーメンバー+優里、かりん 【フォーメーション】66 |
10月10日 | 「アンダーライブ2019 at 幕張メッセ」DAY1 |
・C岩本、24thアンダーメンバー[−純奈、佐々木、樋口、向井] 【フォーメーション】67 |
10月11日 | 「アンダーライブ2019 at 幕張メッセ」DAY2 | |
■ 2020年 | ||
2月21日 | 「8th YEAR BIRTHDAY LIVE」DAY1 |
・C北野、北野+24thアンダーメンバー[−佐々木・岩本] 【フォーメーション】68 |
12月18日 | 「アンダーライブ2020」DAY1 | ・C北野・阪口、26thアンダーメンバー ・北野が中元以外のメンバーとダブルセンターに立つ形の披露はこのときのみ ・DAY1は6thBDL選抜メンバーチームの赤いドレス衣装 ・DAY2は黒のロングドレス衣装(2019年10月MステSP、「スペシャル衣装22」) ・DAY3は「アンダー」衣装 ・阪口・北野→樋口・渡辺→寺田・理々杏→山崎・鈴木→和田・純奈→楓・向井→吉田・中村の順でステージに登場、歌唱中心の披露で3列になるタイミングなし ・当時3日とも生配信あり、DAY3はTBSチャンネルで後日放送(一部再編集版)、DAY3全編がのぎ動画で配信中 ・DAY1の模様がYouTubeに公開されている(J-LODliveの規定にもとづく配信) |
12月19日 | 「アンダーライブ2020」DAY2 | |
12月20日 | 「アンダーライブ2020」DAY3 | |
■ 2022年 | ||
3月24日 | 「北野日奈子卒業コンサート」 | ・C北野、北野+29thアンダーメンバー[−弓木]、フルサイズ披露 ・弓木は新型コロナウイルス感染のため欠席 ・「アンダー」衣装 ・当時生配信あり |
12月1日 | 「31stSGアンダーライブ」神奈川公演1日目 |
・C中村、31stアンダーメンバー 【フォーメーション】 |
12月7日 | 「31stSGアンダーライブ」北海道公演1日目 | |
12月8日 | 「31stSGアンダーライブ」北海道公演2日目 | |
12月12日 | 「31stSGアンダーライブ」福岡公演 | |
12月14日 | 「31stSGアンダーライブ」愛知公演1日目 | |
12月15日 | 「31stSGアンダーライブ」愛知公演2日目 | |
12月16日 | 「31stSGアンダーライブ」大阪公演1日目 | |
12月17日 | 「31stSGアンダーライブ」大阪公演2日目 | |
12月19日 | 「31stSGアンダーライブ」神奈川公演2日目 | |
■ 2024年 | ||
10月7日 | 「36thSGアンダーライブ」福岡公演1日目 |
・C奥田、36thアンダーメンバー 【フォーメーション】 |
10月8日 | 「36thSGアンダーライブ」福岡公演2日目 | |
10月14日 | 「36thSGアンダーライブ」愛知公演1日目 | |
10月15日 | 「36thSGアンダーライブ」愛知公演2日目 | |
10月21日 | 「36thSGアンダーライブ」大阪公演1日目 | |
10月22日 | 「36thSGアンダーライブ」大阪公演1日目 | |
10月28日 | 「36thSGアンダーライブ」北海道公演1日目 | |
10月29日 | 「36thSGアンダーライブ」北海道公演1日目 | |
11月18日 | 「36thSGアンダーライブ」神奈川公演1日目 | |
11月19日 | 「36thSGアンダーライブ」神奈川公演2日目 | |
11月20日 | 「36thSGアンダーライブ」神奈川公演3日目 |
本シリーズの最大の山場ともいうべき記事を書き終えることができた。本当は、筆者自身の思いについてもう少し書きこむつもりだったのだが(これでもそれなりに書かれているとは思うが)、結局ばっさり削除してしまった。北野のことを書きたくて書いている記事だから、これでよかったのだと思う。また時間が経てば、その思いはまた変わってしまうかもしれない。あるいは「書き切った」のような印象も、いつか変わる日がくるかもしれない。もしいつか機会があれば、書いてもよいかな、と思っている。
次回では、「乃木坂46・北野日奈子」を象徴する楽曲となった「日常」について振り返っていきたいと考えている。「アンダー」に続くセンター曲で、単独センターとしては唯一の曲。センター曲はアイドル人生を変える(あるいは、決める)んだな、と思う。
(情報提供のお願い)書き切った、みたいなことを言っておいて、というところもありますが、1点気がかりというか、確認できなかったことがあります。「アンダー」のサビの後半で、右手を挙げてこちら側に突き立てながら右足で3拍とるような振り付けがあるかと思いますが、当時、この部分の振り付けの意味が説明されていたのをどこかで見聞きした覚えがあります。振り返っているうちに見つかるかもしれない、と思ってここまで書いてきましたし、別途検索をかけてみたりもしましたが、結局どうしてもわかりませんでした。単なる気のせいというか、時間が流れるなかで記憶が捏造されてしまっている可能性も高いので、ほぼ諦めてしまっているのですが、ご存知の方がいらっしゃいましたら、コメント欄などで教えていただけると大変ありがたいです。
(なんとなくラジオだったような気がするので、もはや確認しようもないかもしれません。北野さんは休業に入られましたし、「らじらー!サンデー」では一度も「アンダー」はオンエアされていなかったようなので[公式Twitterアカウントで確認]、中元さんでもないような感じがしています。)
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- 3rdアルバム「生まれてから初めて見た夢」が5月24日発売、18thシングル「逃げ水」が8月9日発売。「真夏の全国ツアー2017」の地方公演は「逃げ水」のダブルセンターである大園桃子・与田祐希を前面に出し、この曲を引っさげて、という形にはなったが、同ツアーは3rdアルバムのリリースを経て最初の全体ライブということでもあり、「設定温度」や「スカイダイビング」は全公演で披露されたほか、地方公演では収載されたユニット曲・ソロ曲が日替わりで披露されるブロックも設けられるなど(18thシングルは4曲の選抜メンバー曲、およびアンダー曲、期別曲のみで構成され、いわゆるユニット曲がない)、アルバム収載曲も多く披露されていた。なお、「スカイダイビング」「逃げ水」「設定温度」はいずれも季節としては夏の歌詞であるが、“夏曲”と称されることは少ないように思う。
- 17thシングル(アンダー曲は「風船は生きている」)、および同シングルの体制で制作された3rdアルバム(アンダー曲「君が扇いでくれた」を所収)の時期。
- 日刊スポーツ「乃木坂46アンダーメンバーが今秋アルバム発売へ」(2017年7月2日)
- センターが中元と北野であることは、MVの公開時点でも明らかになっていなかったが、能條愛未が「シネマズプラス」での連載記事のなかで8月5日に明らかにしている(→「乃木坂46 能條愛未 18thシングルカップリング曲『アンダー』への思い」)。
- この日の公演内では、新センターの3期生・与田祐希の1st写真集の発売もサプライズで発表されていた。北野に関してはそれ以前から写真集の企画が進行中であることが(オフィシャルな情報ではないながらも)明らかになっていたという状況も重なり、そうした点でもファンにとっては少々苦しい面があっただろうか。
- 静岡県は茶葉の生産地として著名であるが、富士市大淵地区の付近に実際に広く茶畑が分布していることは、地理院地図からも見てとることができる。
- ないしは、そこから少しだけ外れた場所であろうか(「新富士インター城山線」の指す領域がどこなのかについては、明確な資料にあたれていない)。
- 新富士インター城山線の開通は2018年3月29日であったという。橋は竣工したうえで、道路としては未開通ということであった、と考えられる。
- 住居表示はされておらず(そのため、穴原町とされている地域は「富士市大淵」の地番が住所として取り扱われている)、一般の地図検索などではヒットしない。しかし、地理院地図には「穴原町」の記載がある。
- 「ゼンリン住宅地図出力サービス」を利用し、2022年9月10日に確認。
- 富士市が運営する公民館は2008年に「地区まちづくりセンター」に移行しており(富士市地区まちづくりセンター条例[平成19年9月28日条例第23号、その後2021年までに9次にわたって改正]の制定による)、「天満宮穴原町公民館」は市ではなく地区で管理している公共的な施設とみられる。
- 7月5日の「レコメン!」にはレギュラーパーソナリティの堀未央奈が欠席して北野が代打出演しており、この日が「逃げ水」のMV撮影であったと推定される(ロケ地は福島県会津若松市の「会津藩校日新館」である)。新内眞衣は「乃木坂46・新内眞衣のオールナイトニッポン0」(堀の出演する「レコメン!」と同じく水曜深夜放送)出演のためにMV撮影を途中で離脱したとも語っており、「撮って出し!神宮ライブメイキング2期生編」には、新内の「逃げ水」MV撮影の合間に行われたと思しきインタビューのカットもある。なお、「逃げ水」のMV公開は7月21日であった。
- 中元・北野・渡辺・寺田・優里・樋口の6人がフロントメンバーでありながら、樋口がジャケットにいない。
- また、直接関係のあるエピソードではないが、7月2日の明治神宮野球場公演での発表の際は「秋」にリリースとされていたアンダーアルバムは、実際のリリースが2018年1月10日にずれ込んでもいる。中元は「18枚目のアンダーはアルバム発売もあって大事なチーム」とも語っていたが(『Top Yell』2017年11月号 p.62)、実際には19thアンダーメンバーの体制で制作されている(アルバムでの新曲は19thアンダーメンバーによる「誰よりそばにいたい」「その女」「自惚れビーチ」と、中元によるソロ曲「自分のこと」)。
- ここで「選抜落ち」したメンバーは、川村真洋・齋藤飛鳥・能條愛未。
- このときの選抜発表の模様は2013年1月6日の「乃木坂って、どこ?」で放送。ひとりずつ別室にポジションを確かめに行く形での発表であった。
- これらのケースではセンターのポジションは詰められ、両サイドの寺田蘭世・渡辺みり愛が真ん中に立つ形でパフォーマンスが行われていた。
- この期間、中元は「らじらー!サンデー」への出演は継続してもいた。
- 樋口は19thシングルで自身二度目となるアンダーセンターを務めることがこのときすでにわかっており、九州シリーズまで含めて、万全の状態ではない18thアンダーセンターの中元・北野を先頭に立ってフォローする役割を担っていた。
- ステージサイドにオレンジ、黄色、白のガーベラがあしらわれており、オレンジは「我慢強さ」、黄色は「親しみやすさ」、白が「希望」である、ということであった。この3色のガーベラは、公演終盤ではステージにも登場する。足下から天井に向かって、オレンジ、黄色、そして白の順で、タワーがつくられていた。
- 4月22日昼公演(4公演中3公演目)のMC(音楽ナタリー「最弱なんかじゃない!乃木坂46、最少12人アンダーメンバーで“全曲全霊”の熱演」より)。
- この日、中元は、ライブ本編では「アンダー」と「ここにいる理由」の2曲に出演した。
- 登場の際に転んでしまったことによる笑顔であったという。「コケました(笑)。初日が出るタイミングを間違えてフライングしてしまったので、映像を何度も確認したうえで2日目は超マジな顔をして出たら、スカートを踏んで『わ〜』って。」(『Top Yell』2018年1月号 p.17)
- Blu-ray/DVD化された2日目公演の模様をもとに記述している。この公演のBlu-ray/DVDは1日目公演と2日目公演をあわせて1公演分に編集されているが、このアンダーブロックについては2日目公演の模様である(どこがどちらの日であるかは明示されていないが、上述の中元のエピソードと斉藤優里の髪型から判断した)。
- 18th→19thのタイミングでアンダーに加わったメンバーはおらず、18thアンダーメンバーから中元と北野、および中田花奈と斉藤優里を除いた14人が19thアンダーメンバーとなる。
- この東京ドーム公演については、本人による語りも含めて、北野は中元ともに「アンダーブロックしか出られなかった」のようにいわれることがよくあるように思うが、アンコールには出演しているし、加えて北野はライブ本編最後の曲である「いつかできるから今日できる」にもオリジナルメンバーとして出演していた、ということを、ファンとしては覚えておきたいとも思う。
- 「休業」という表現が用いられるようになったのは後になってのことで、この時点では、公式サイトでは「休養」「活動を当面の間休止」「本格的に療養に専念」などと表現しており、北野本人も「お休み」と表現している。
- 『空気の色』北野日奈子インタビューなど。この『空気の色』では、休業に入ったのが2017年11月16日であったことにも具体的に触れられてもいる。
- この期間、グループとしては「初のアジア公演」と称された「C3 Anime Festival Asia Singapore」への出演(2017年11月24日)があったが、出演メンバーは14人で、全体のライブという色はなかった。
- 北野はこの頃、「グループとは距離を置きたかったからテレビも点けませんでした」(『希望の方角』北野日奈子インタビュー)という。家族で初詣に向かいながら、我慢できなくなって大泣きしてしまったのだといい、苦しい日々の只中にいたタイミングであったといえるだろうか。
- BARKS「乃木坂46、アンダーライブのドキュメンタリー映像がMVに」(2017年8月2日配信)
- 2014年ごろから「リアルサウンド」などの媒体で乃木坂46関連の記事を執筆(もとはファンの立場であったようである)。2015-2017年には青弓社Webサイトで「乃木坂46論」という連載記事を執筆しており、書籍『乃木坂46のドラマトゥルギー 演じる身体/フィクション/静かな成熟』(青弓社、2020年)に加筆の上でまとめられている。『月刊MdN』での伊藤万理華の連載記事「MARIKA MEET CREATORS」のテキストを担当し、MdNムック『乃木坂46 映像の世界』では個人PV全作品解説を担当するなどの実績があり、「日刊大衆」においては「乃木坂46『個人PVという実験場』」という連載記事もある。社会学のバックグラウンドがあるようで、そうした視座からポップカルチャー・アイドルカルチャーの評論を行っている。ほか、著書に『「アイドル」の読み方 混乱する「語り」を問う』(青弓社、2014年)があり、直近では『アイドルについて葛藤しながら考えてみた ジェンダー/パーソナリティ/〈推し〉』(青弓社、2022年)の編著、『アイドル・スタディーズ——研究のための視点、問い、方法』(田島悠来編、明石書店、2022年)への執筆なども行っている。乃木坂46に関するネット記事を読んで、ちょっとアカデミックな調子の文章だな、と思ったらほぼこの方である。
- 白夜書房刊の『BUBKA』や『BRODY』を中心に執筆しているライターで、結成当時から長らくAKB48・乃木坂46を担当。徳間書店運営の「ENTAME next」でも執筆がある。本シリーズでも幾度となく引用した2期生特集記事、『BRODY』2017年10月号の「虹色の涙、その理由」、同2019年6月号の「乃木坂46 2期生のリアル『同期とは何か?』」の取材・文を担当している。北野の2nd写真集『希望の方角』でも、インタビューの聞き手を担当した。乃木坂46に関しては数多くの執筆記事がありつつ、いずれも「公式」の語りとは少し異なる角度で一歩踏み込んで書くような印象がある。
- サブカルチャー・エンターテインメント系の記事が多いライターで、坂道シリーズをはじめとするアイドル系の記事では『EX大衆』『月刊エンタメ』などで非常に多くを執筆しており、本シリーズでも非常に数多く引用してきた。『Top Yell』(2018年休刊)では中元日芽香の連載を担当したり、現在も『EX大衆』では佐藤璃果・矢久保美緒の連載(かつてはさゆりんご軍団の連載)、『日経エンタテインメント!』では梅澤美波の連載を担当するなど、メンバーに対する継続的な取材によって、インタビューに独特の深みを出している印象がある。本人のTwitterを見ていると、取材回数が多いこともあってか、乃木坂46でいうとさゆりんご軍団とアンダーライブ・アンダーメンバーなどに愛着が強いような部分も見受けられる。鈴木絢音と山崎怜奈のコンビ名「AtoZ」を本人たちよりこすり続けていたのではないだろうか。
- 音楽ライターで、ニュースサイト「ナタリー」に2007年2月の立ち上げから参加するなど、Webライターとしてはベテランの域にあるようである。自身もバンドマンだった経緯があり、もとはロック音楽などを射程としているようにも見受けるが、執筆する記事は幅広い。乃木坂46との関係も長く、さまざまな媒体で名前を見かけるほか、公式サイトでのライブレポート執筆や(直近では30thシングル特典映像の「真夏の全国ツアー2021」LIVE厳選集についての解説)、楽天ブックス連載の公認コラム「のぼり坂」(2014-2017年)の執筆など、「公式」に近い立ち位置のライターであるといえる。
- 筆者はこの放送を当時聴いておらず、当然録音を持っているわけでもないが、一連のトークを書き起こししているブログがあり、内容の正確さについてはある程度信頼できると判断したため、これを参考に記述している。→世界は数字で出来ている「バナナマン設楽、乃木坂46のアンダーメンバーに『アンダー』という曲を歌わせる秋元康の発想に驚く『物凄いグッとくる』」(2017年11月11日配信)
- メンバーが「過去最高じゃない?」とMCで言い合っていた「真夏の全国ツアー2022」明治神宮野球場公演2日目(2022年8月30日)よりも強かったと記憶する(筆者はこの公演の客席にいた)。しかも終演まで強くなり続けていったので、それで印象が強まっているのかもしれない。筆者は2014-2016年の「雨の神宮」は経験していないので、これらとの比較はできないが、映像で見返すと、やはりこのときがいちばんではないか、という印象もある(こればかりは現地でしか得られない感覚があると思うので、これ以上はなんとも言いようがないが)。
- 「6th YEAR BIRTHDAY LIVE」のBlu-ray/DVDは、ソフト化された3日ともが明治神宮野球場公演の模様であったが、この日の秩父宮ラグビー場での「アンダー」の模様は特典映像「Live in 秩父宮ラグビー場」におさめられている。
- この「6th YEAR BIRTHDAY LIVE」を含め、「真夏の全国ツアー2018」はロゴや公演中の演出など、全体として東京メトロをイメージしたものとなっていた。
- 2会場ともで3日間とも披露され、計6回。
- 2018年11月12日「プレミアMelodiX!」、11月18日「乃木坂46 SHOW!」(「AKB48 SHOW!」#204)、11月20日「BOMBER-E I-ナイト」。
- 2019年5月24日の「23rdシングル『Sing Out!』発売記念アンダーライブ」にて。
- この言葉については、舞台「じょしらく」を演出した川尻恵太から北野が教えてもらったものであるとブログで紹介している(北野日奈子公式ブログ 2018年11月16日「31536000」)。
- このときのコンサートも、平時のライブと同様、原則として各楽曲はワンハーフサイズでの披露であった。本編ラストの1曲前という位置での披露でもあり、特別な思いを持って選曲されたという様子がありありとうかがえた。
- このときの選抜メンバー18人は、その後誰もアンダーメンバーとなっていない。また、2022年10月現在、18th選抜メンバーでグループに残っているのは秋元真夏、齋藤飛鳥、与田祐希のみ。
- 北野はこのときのことについて、2020年6月29日の「乃木坂46・久保史緒里の乃木坂上り坂」において、「(衛藤が卒業ソロコンサートで)『アンダー』を歌ってくれたことがすっごく嬉しかったの。日奈子、ずっと、みさ先輩が最初アンダーメンバーで、いっぱいいっぱい頑張って選抜メンバーになったじゃない。アンダーがたくさん頑張ることによって選抜メンバーにもなれるという道筋、線路を、みさ先輩が引いてくれたと思うのね。だからなんかすごい、みさ先輩が自分がアンダーメンバーだった頃を思い出して『アンダー』を歌ってくれたことが嬉しかったし、私も勇気をもらいました」と回想している。
- 2022年6月17日の「MUSIC BLOOD」(乃木坂46および秋元康が出演)においても、「陰で支えるアンダーの存在」としてアンダーメンバーについて紹介されたが(放送内でアンダーメンバーは「日常」を披露している)、そこでも「8th YEAR BIRTHDAY LIVE」DAY1(2020年2月21日)の映像とともに「アンダー」が用いられている。「アンダー 人知れず/汗を流す影がある/ステージを/支えてるのに…」という1サビの歌詞には、やはり無二の“わかりやすさ”がある(そのこと自体に賛否があったということでもあるが)。
- ライブ本編のセットリストは全曲アンダー曲で構成され、1日目と2日目では順序や選曲に変化がつけられつつ、2日間をかけて全30曲が網羅され、3日目では改めてその30曲をすべて披露するノンストップライブの形がとられた。
- 日付などは示されていなかったので、確定したことはいえないが、おそらく間違いないように思う。
- 矢久保はこの時点ではまだ、「アンダー」をパフォーマンスしたことはなかった。
- 曲名はそのまま「Under」である。筆者は特に海外でのリリース事情について知識があるというわけではなく、中国語もほぼ解さないが、今回どうにか調べてみたところ、シングルの発売時には公式の中国語訳詞はつけられておらず、アルバムの発売時につけられるということのようである。アルバムのリリース後にも公式中国語訳詞はインターネットに掲載されることはなく(いわゆる日本の歌詞サイトのようなものはなく、配信リリースの際にも日本語原詞しか付されないようである:KKBOXと台湾版Apple Musicで確認)、一方でシングルの発売時に中国語圏のファンがこぞって(非公式に)翻訳を行うので、実物を手にすることでしか公式中国語訳詞に確実にあたることは難しいようだ。筆者は台湾盤の「今が思い出になるまで」(「直到此刻化成回憶」)Type-Aを現地の通販サイト「TAAZE讀冊生活」を通して個人輸入で購入する形で実物にあたることができた(このほか、「僕だけの君〜Under Super Best〜」にも訳詞が添えられていることになるようだが、さすがに「今が思い出になるまで」と同じだろうと判断している)。なお、台湾盤のCDは、中国語(繁体字)で書かれたシールと作品名/曲名などの表示のあるカバー(帯)が付され、歌詞カードに中国語訳詞のペーパーが挟み込まれているほかは、歌詞カード本体・ブックレット・ディスク・パッケージとも、すべて日本盤と同一の商品であった。
- 中国語圏のファンによる翻訳だと、「之所以美麗/並不是因為站位啊」(「美しさは立場によるものではない」くらいだろうか)のような形で、よりそのまま訳されていることが多い。あるいは、少なくとも「ポジション」の概念は当然中国語圏のファンにも共有されているとはいえそうだ。
- この点については、中元は卒業直前に「今になって『寂しいことを言ってしまったな』と思ってます。当初は『気づいたらいなくなってる』という形が理想だったんですよ。卒業した後は『最初からいなかった』くらいに感じてほしくて。でも、卒業発表からの数カ月で、それは私の一方的な押し付けだったんじゃないかと思ったんです。送ってくれる側の気持ちも受け取って、お互い気持ちよくお別れをすることが別となんじゃないかと考えを改めました。」(『Top Yell』2018年1月号 p.17)とも述べている。
- 「これからみんなもっといっぱい踊ってほしい」(「ベストソング歌謡祭」[2022年2月21-23日「乃木坂46時間TV(第5弾)」内])
- 「未来の後輩たちに大切に歌ってほしい」(2021年11月24日「のぎおび」)
- 「これからもずっと大切に歌われていくといいなぁ」(#乃木坂ダンスプレイリスト「君に贈る花がない」北野日奈子コメント)
- 「私も特別に大事に思っているので、これからもみんなには大事に歌ってほしい」(「ベストソング歌謡祭」[2022年2月21-23日「乃木坂46時間TV(第5弾)」内])
- 配信内では、樋口が歌唱メンバーとして参加した歴代の楽曲が時系列順にBGMとして流されており、このなかで「アンダー」が流れたことによるものであった。
- 「らじらー!サンデー」2022年1月23日の22時台。メインMCのオリエンタルラジオ・藤森慎吾はこの日病欠であり、この発言の聞き手は早川聖来と賀喜遥香であった。
- 白土はギタリストでもあり、歌唱に加えてギターも本人によるものである。
- 「ワンハーフだがラスサビ2回繰り返し」という特殊なサイズであったのは、この演出のためと思われる(各日2回目の披露では、もう一方の会場で「裸足でSummer」が演じられており[こちらもラスサビ前にブレイクが挿入]、「アンダー」のラスサビを繰り返すことによって、ブレイクから楽曲終了までの長さが揃う。楽曲終了まで花火が上がり続ける演出のため、こうする必要があったのだろう)。
- オリジナルの並びに最も近かったサビ歌唱時の並びを参照している(以下すべて同じ)。センターを北野単独の形とし(中元のポジションには誰も入っていない)、20th選抜の樋口→梅澤、寺田→理々杏とし、川村のポジションは詰め、このほかの3期生を各列の両端に配置した形。
- センターステージでの披露で、サビ歌唱時は円形のフォーメーションのため、各列内での並びは明確でなく(A〜Bメロが列ごとの歌割りなので、列ごとのメンバーはおそらくこれでよい)、便宜的なものである(=メンバーがこの通りの並びで立ったタイミングは存在しない)。「6th YEAR BIRTHDAY LIVE」時のフォーメーションをベースに、樋口・寺田はオリジナルのポジションに入れ、岩本のポジションに理々杏が動いたものとし、優里・鈴木・ちはる・相楽のポジションは詰めたものとした。
- 寺田はこのブロックに出演していないが、体調不良によるものであるため、本来はオリジナルのポジションに入っているものと推定して記載した(実際は詰められており、上手側が下手側よりひとり少ないような形であった)。
- 原則としては全員オリジナルのポジションで、卒業メンバーのポジションは詰める形としつつ、3列目の佐々木と和田は上手・下手を入れ替え、その間にオリジナルでは2列目の鈴木が入っている(ただし、鈴木は歌割りでは2列目扱い)。
- オリジナルメンバーは原則オリジナル準拠のポジションだが、和田が下手側に動いている。冒頭のセンターによる歌唱パートには樋口と優里が加わり、1列目の3人のユニゾンの形で歌唱された。
- 楽曲終末部の並びを参照し、かつ前列・後列を入れ替えた(このときは岩本が後列のため)。歌割りは鈴木・寺田・山崎・渡辺が1列目扱い、理々杏・阪口・中村・和田が2列目扱い、楓・中田・吉田が3列目扱いとなっている。
- オリジナルでは2列目の鈴木が1列目に入っているが、歌割りについても1列目の扱いとなっている。
コメント
今どきのアイドルというか、これは芸能分野(もしかするとそれ以外も)全般に言えることですが、”銀幕スター”がいた頃と違って、活動の裏と表(光と影)全てを観る側に曝け出す=ぶっちゃけるのが是とされている風潮があるように感じます。
CDやDVDリリースの特典となるメイキング映像だったり、ドキュメンタリー映画などはまさにその最たるもので。『アンダー』は、それが映像ではなく楽曲という形にあらわされたものだと認識しています。アンダーメンバーが抱える負の感情さえも、アイドルにとっては「商品価値」のあるものに変貌するのだと。
十代や二十代そこそこの、多感な時期の女の子に「この曲を歌え、パフォーマンスしろ」というのは確かに酷かもしれないですけど、私個人の印象としては、あくまで数ある楽曲の一つとして、こういう引き出しがあってもいいのかなと思っています。乃木坂の場合、選抜・アンダーと明確な区分がありますが、例えばきっと五人組にだって”格差”は存在しているんですよね。グループというものに所属する限り、避けては通れない葛藤のような気がします。
私の場合『アンダー』は、曲自体はさて置き、振りは好きです。特にサビのラスト、まだショートカット時代の北野がカメラに抜かれるシーンはとても印象的で、いつまでも脳裏に焼き付いています。
次回は『日常』ということで、また更新されるのを楽しみに待っています。
コメントありがとうございます。
「選抜/アンダー」がもつ“えぐみ”のようなものに目を向ける機会は、引き出しとしてやはりどこかであったほうがいいとは僕も感じる部分があります。
そしてそれは『アンダー』程度には直截的でないといけないとも思っていて、それはあの時期の、いまよりもっと人数が多くて、あるいはファンもメンバーもよりナイーブだったようにも思える、あの時期でないと書かれ得ない楽曲だったのかな、とも思っていて。そしてそれを「引き出し」として扱えるところまで、5年近くをかけて昇華したのは、何より北野さんの尽力だな、と感じています。
いまならもう少しフラットにあの曲が演じられうるのではないかとも思いますし(例えば現アンダーメンバーについていえば、オリジナルメンバーはもう誰もいなくなりましたが、全員が北野さんとともに演じた経験があるわけなので、バランスの良さのようなものがあります)、自分としてもこれだけの執着をもって接した曲でもあるので、顧みられることがなくなるとしたら寂しいとも感じます。でも、これからどのように扱っていくかどうかは、今後のグループの歩みが決めることなので、変に思いを込めずに見ていくのがいいのかな、という構えでいようかなと思います。
※記事本編と直接かかわりのない部分については、申し訳ありませんが削除させていただきました。手元には残させていただいています。ご理解ください。