坂道シリーズ13年の“フォーメーション史”からみる、乃木坂46・38thシングル

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[intro]前稿の振り返りと現況

 前稿「坂道シリーズ12年の“フォーメーション史”からみる、乃木坂46・35thシングル」を公開したのは、2024年4月21日のことであった。これは乃木坂46・山下美月の卒業発表と35thシングルの選抜発表を受けて2月下旬から構想を始めたもので、坂道シリーズ全体に話題を広げながら、乃木坂46の結成まで遡り、“フォーメーション史”を通観することを試みた。思った以上に分量がふくらんでしまい、かつさらに完成までの2ヶ月の間にもグループにはさまざまな動きがみられたが、どうにか書き終えることができた、という感覚であった。

 前稿では、特に3期生加入直前の乃木坂46のフォーメーションについては、「①選抜人数の増加」「②選抜から外すメンバーを生じさせるシングルを減らす」「③選抜から外す場合は何人かを一度に外す」「④新メンバーのセンター抜擢の定番化」「⑤『同期』の枠組みを重視する」という5観点をもとに追いかける形をとった。また、櫻坂46・日向坂46については、近い時期に行われた“選抜制導入”を軸に、フォーメーションの流れを概観した。
 これ以降、現在まで1年弱の期間にも、各グループにはさまざまな動きがあった一方、過去の経緯と大きな断絶があったわけではなく、その延長線上にとらえてよい状況といえる。本稿は、この間の各グループの歩みをフォーメーションを軸に振り返りつつ、前稿ではあまり触れられなかったテーマについても適宜言及することで、「13年の“フォーメーション史”」を描き出すための続編として書いていくものである。

 なお、本稿は前稿と異なり、櫻坂46および日向坂46についてとりまぜながら記述する形はとらず、乃木坂46にしぼって書いていくこととする。櫻坂46・日向坂46については別の機会を設けて書くことを予定している(前稿では両グループについてはかなり限定的な取り扱いになってしまったという反省があり、もう少していねいにフォーメーションの経緯をなぞっていきたいという思いがある)。

 2025年に入り、グループは6期生を迎える一方、2月に行われた卒業コンサートをもって与田祐希がグループを離れている。メンバーの加入と卒業が繰り返されるサイクルが定着したなかで、“フォーメーション”はどのような役割を果たしてきたのか、そこに詳しく目を向けることで、グループの現在が見えてくるはずである。

[36]35thシングルの“伏線回収”
——フォーメーション表からは見えなかったもの

 前稿公開から3週間ほどが経過した2024年5月11-12日には、東京ドームで「山下美月卒業コンサート」が開催された。この2日目をもって、山下はグループを卒業した形となる。
 3月の「12th YEAR BIRTHDAY LIVE」では現在(34thシングル)の選抜/アンダーの枠組みを必ずしも準拠しない編成でパフォーマンスが展開されていたことが印象的であったが、「山下美月卒業コンサート」では、“3期生全員選抜”のフォーメーションだったこともあってか、35thシングルの選抜/アンダーの枠組みに準拠した編成でのパフォーマンスを基本とするしたうえで、ユニット曲やアンダー曲のパフォーマンスにおいてはアンダーメンバーにスポットライトが当たる場面をつくる、という形がとられていた。

【35thシングル表題曲「チャンスは平等」】
吉田 楓 阪口 一ノ瀬 五百城 池田 理々杏 向井 中村
田村 井上 遠藤 賀喜 川﨑 弓木
与田 久保 山下 梅澤 岩本

【35thシングルアンダー曲「車道側」】
岡本 林 璃果 松尾 清宮 矢久保 奥田
中西 柴田 金川 黒見 小川
菅原 筒井 冨里

 卒業コンサートが完遂され、翌週のリピート配信までを終えたばかりの5月22日には阪口珠美がグループからの卒業を発表する。さらに直後の5月25日には清宮レイが、同様にグループからの卒業を発表した。ふたりは「真夏の全国ツアー2024」には参加しない形でグループを離れることになる。
 大規模な卒業コンサートの直後に卒業発表があり、ツアーを前にしてグループを離れるというのは、前年の北川悠理と同様の形であった。グループの交通整理としてはありうべき形であるとはいえ、こうしたタイミングではいつも、そのスピード感に振り落とされそうになってしまう。

 清宮の卒業発表とともに、阪口・清宮の卒業セレモニーが7月15日の35thシングル配信ミニライブ内で開催されることが発表されていたが、6月7-9日に控えていた「35thSGアンダーライブ」が、清宮にとっての“最後のライブ”として注目されることにもなった。
 35thシングルアンダーセンターとして“座長”を務めるのは、清宮と紐帯の深い筒井あやめである。35thシングルのフォーメーションは“3期生全員選抜”としてクローズアップされ、その一方で筒井や菅原咲月をはじめとする後輩メンバーが多くアンダーに移ることになったことについてはその裏面ととらえられる向きが強かったように思うが、この形でしか生まれ得ない意味がそこにはあったのだと直覚させられる采配であった。
 あるいは阪口についていえば、彼女はダンススキルの高さに定評があり、23rdシングル・31stシングルでは選抜メンバーとして活動したもののアンダーでの活動期間が長く、その一方で音楽番組への“代打出演”の機会が多いメンバーであった。その阪口が、参加した最後のシングル期間において、オリジナルメンバーとして音楽番組への出演を重ねたうえでキャリアを終えていく形となることについても、固有の意味があったのではないかと思う。

 グループの編成が常に動き続け、先を見通したかじ取りが行われ続ける向きが強くなっていくなかで、そのときどきのフォーメーションに込められている意味は、選抜発表時点では必ずしも見えないことのほうが多い。伏せられたカードがめくられていくように、シングル期間が進むにしたがって明るみになっていくことも多く、あるいはそれよりも未来のタイミングで意味づけが明確になっていくこともある。
 フォーメーションが最も話題をさらうのはその発表のタイミングであり、前稿でも長く述べてきたように、その内実には10年以上の時間が流れるなかで変化した部分もあるが、基本的な構造としては変わっていない。しかし、ファンとしてグループとともに時間を過ごしていくならば、フォーメーション表のみを見てただちに何かを論じきろうとするのではなく、過去から未来への時間軸のなかで立体的にとらえなければならないのだな、と再確認させられる。

 かくして4・5期生のみの編成で臨まれた「35thSGアンダーライブ」では、冒頭から「ジャンピングジョーカーフラッシュ」と「バンドエイド剥がすような別れ方」がフル尺で繰り出され、清新なメンバー編成で臨まれていることが強調される一方、セットリスト全体としてはアンダー曲を軸に構成され、日替わりのユニットコーナーも設けられた。また、本編最後の「車道側」の前には、ピアノアレンジの「夜明けまで強がらなくてもいい」が歌唱中心で届けられた。

 “アンダーライブキャプテン”に任命されてこの期間を迎えていたという松尾は、こうしたライブおよびメンバー編成をふまえて、初日前夜のブログにこう綴っている。

今回のアンダーライブは3期生さんの居ない4期生と5期生だけの初めてのアンダーライブだったり、
アンダーライブに初参加するメンバーも、久々のメンバーも、あとレイちゃんは最後だったり
今までとは挑み方もそれぞれ違ったりするのかなというアンダーライブです。

振りを知らない曲の数も人によってバラバラで、ほとんど初めて踊る曲ばかりのメンバーも居て、絶対に大変だったと思います。
メンバーなら誰しも通ってきた道だと思うのですが、置いて行かれないように立ち位置や振りを覚えて食らいついて行くリハって相当体力だけでなく気力も奪われるものです。
周りのメンバーが踊り慣れている状況だと更に負担は大きいと思います。

松尾美佑公式ブログ 2024年6月6日「明日から」

 武器といえるものが明確な一方で、清新な編成であることには難しさもはらんだチームを確実に牽引した松尾は、ライブではMCを回す役割も果たし、千秋楽公演のアンコールではメンバーにねぎらわれて涙するひと幕もあった。
 その松尾から水を向けられた清宮は、3日間のアンダーライブについて「いざ最後ってなるともっと寂しくなるものかなあと思ったんですけど、そんなの忘れちゃうくらいに楽しくて」と笑顔でまとめたが、アンコールの最後に「左胸の勇気」を披露したのち、退場直前に筒井から「レイちゃんほどアイドルに向いてる人いないよ、よく頑張った、大好き!」とメッセージを送られると、それまであまり涙する場面はなかった筒井とともに、最後の最後に涙を見せた。

 ライブは一回性のあるもので、そこに思いを寄せるファンの立場からいえば、特別な思い出が生まれないライブはない。しかし(あるいは、だからこそ)、35thシングルのフォーメーションがこの形でなければ、このシーンはきっと生まれなかっただろう。
 かつてのような“選抜の椅子=チャンスをめぐって競争する”といった世界観とは異なるが、フォーメーションないしポジションは、やはりその期間のメンバーの活動やグループに対する役割を規定するものだ。そこに生じるある種の“分断”をチームの力で乗り越えたうえで、(グループの長い活動期間からみれば)一瞬のハイライトシーンを引き出す。そうした役割を“フォーメーション”はもっているのだと再確認した期間であった。

[37]井上和、2年目の夏曲センター
——2024年、“いつもと違う夏”

 阪口珠美と清宮レイの卒業セレモニー(7月15日)の前夜、「乃木坂工事中」(#471)で36thシングルの選抜発表の模様が放送される。この次の週末である7月20日からは「真夏の全国ツアー2024」がスタートするというタイミングであった1
 ひとまずここで、36thシングルの選抜/アンダーのフォーメーションを見てみることにしたい。

【36thシングル表題曲「チートデイ」】
筒井 菅原 田村 中西 川﨑 弓木 冨里 金川
与田 五百城 久保 梅澤 一ノ瀬 岩本
遠藤 小川 井上 池田 賀喜

【36thシングルアンダー曲「落とし物」】
吉田 岡本 璃果 楓 矢久保 中村
松尾 向井 理々杏 柴田
林 奥田 黒見

 前作の“3期生全員選抜”の編成で選抜入りしたメンバーのうち、伊藤理々杏・佐藤楓・中村麗乃・向井葉月・吉田綾乃クリスティーがアンダーに移り(向井は34thシングルでも選抜メンバー)、前作で選抜からアンダーに移った菅原咲月・筒井あやめ・冨里奈央が選抜に復帰した。これに加えて、34thシングルは体調不良による活動休止にともない不参加で、35thシングルでアンダーメンバーとして活動を再開していた金川紗耶が選抜に復帰し、中西アルノが29thシングルでの“抜擢センター”以来7作ぶりの選抜入り、そして小川彩がフロントのポジションで初選抜となった。
 選抜からアンダーへ移ったメンバーは3期生のみであり、これは「③選抜から外す場合は何人かを一度に外す」の一環であるとともに、「⑤『同期』の枠組みを重視する」に該当するところでもあるだろうか。金川・菅原・筒井が選抜に復帰したこととあわせて、“フォーメーション史”からいえば大胆な采配であったといえる35thシングルのそれから、フォーメーションの秩序がやや差し戻されたようにも見える。

 動きとしては前シングルに続き大きかったといえる状況のなか、放送直後にブログが更新されたのは、7作ぶりの選抜入りの形であった中西であった。この間に中西がたどってきた道と、それを彼女自身がどう語ってきたかについては後で触れるとして、中西は前年の「おひとりさま天国」に続き、2年連続で“夏曲”のセンターを務めることになった井上和について、このように綴っている。

センターは、和!!
やっと手を握れる夏が来ました。

もうそんなもの必要ないくらいに強く見えるけれど
本当は自分をなんとか奮い立たせているだけかもしれないし

2回目のセンターとなると
きっと求められるものもずっと多いだろうから
重圧も計り知れません。

和のまんまでいいのだけど
彼女は自分を追い込みすぎちゃう気もしているので

勝手ににぎにぎしちゃおうかなと思ってます。

ブログで書いたあの悔しさとか無力さを、1年越しに消化できているような
そんな気持ち。
力になれますように。


おめでとう。
あなたのセンターをめちゃくちゃ喜んでる人がここにいますよ✌️

中西アルノ公式ブログ 2024年7月15日「大丈夫、だってあなたがいる」

 この夏で11回目を数えた「真夏の全国ツアー」にあって、“夏曲”のセンターを2回務めたのは齋藤飛鳥と井上のふたりだけである2。そして、前年の井上がそうであったように、“乃木坂の夏”は、ニューヒロインを生み出してきた季節でもあった。
 ファンコミュニティ(の一部)もどこかでそれを、予想ないし期待していた向きもあったかもしれない。フォーメーション表を見ながら有り体にいってしまえば、往時の乃木坂46であれば、この夏のセンターは池田瑛紗か小川彩のどちらかだったのではあるまいか、とさえ思う。しかし、前年と同じ“3・4・5期”の体制で臨まれたこの夏、グループは安定や停滞ではなく、あえてその道を選んだのだということが、「真夏の全国ツアー2024」では存分に表現されていた。

 前年の「真夏の全国ツアー2023」がアリーナツアー6会場と明治神宮野球場での4公演、7都市16公演で“史上最大規模”と銘打たれたのに対して、「真夏の全国ツアー2024」は京セラドーム大阪・バンテリンドーム ナゴヤ・明治神宮野球場の3都市7公演で、“5年ぶりのドームツアー”と称された。初演1曲目から「チートデイ」が披露され3、歴代の“夏曲”4、および夏を感じさせる演出をこれでもかと詰め込み、グループが経験してきたすべての“真夏”を詰め込んだようなセットリストが組まれていた。人気の高い「ひと夏の長さより・・・」のセンターには新フロントの池田と小川が、山下美月のグループ卒業で注目された「ガールズルール」のセンターには一ノ瀬美空が立ち、井上和は「ここにはないもの」をソロ歌唱するなど、流れていくグループの時間の最前線を感じさせる場面もありつつ、本編終盤のブロックでは、オーケストラサウンドでの「シンクロニシティ」、全メンバーでの「僕が手を叩く方へ」、そして前年の明治神宮野球場公演で初披露であった「誰かの肩」が演じられるなど、前年の体制との連続性もわかりやすく表現されていた。

 そうしたなかで何より大きかったのは、全公演でセンターの井上和によるスピーチの場面が設けられたことだったように思う。ツアーの“座長”なのだからそれが定番だろう、というふうな見られ方もあろうかとは思うが、前年のことを思い出せば、明治神宮野球場公演ではライブ中盤の「誰かの肩」、および本編最後の「おひとりさま天国」の前に井上が語る場面があったものの、地方での12公演では本編最後のスピーチは久保史緒里と山下美月が日替わりで担ったうえで5、井上にはアンコールで話が振られる、という流れであったように思う。
 そしてもちろんそうした形式的な部分以上に、井上自身が伝えたいメッセージを落ち着いて送れていたように感じたし、「昨年に続いて“座長”を務めたことで見えたもの」というような切り口で語るような場面も散見された。“真夏”が始まる前にそうした情景をファンが予想していたか、あるいは期待していたかは別として、それは「2年連続での“座長”」にしか語り得ないものであった。もっといえば、1年後には新メンバーを迎えているであろう状況にあるグループにとって、それは間違いなく、これ以上ないほどに必要とされるものであったはずだ。
 メンバーが入れかわるからグループが新しくなるのではなく、そうした変化を経験しながら、総体としてのグループが地面を踏みしめて前進するからこそ、グループは新しくなっていくのである。

「私はこのツアーで、すごく簡単なことではあるんですけど、笑って楽しむということを目標にしていました。本当にすごく簡単なことではあるんですけど、今の私にはそれが難しいタイミングもありました。本当は、去年と同じこのポジションで……。同じこのポジションで回るツアーがすごく怖かったです。
 去年と同じポジションで夏シングルのセンターとしてツアーを回らせていただいていて、今日の頭で梅さんも言っていたように、去年よりも…。去年を越えていかなきゃいけないなってずっと思っていたし、去年よりも成長した姿を皆さんにお届けしなきゃいけないなって思ったし。
 去年は同期にも先輩にもたくさん助けてもらったので、今年は自分が引っ張っていかなきゃいけないな、みたいに思ってたんですけど。今年のツアーはそうですね、私が引っ張っていかなきゃいけないなってすごく思ってました。
 そんな話をメンバーにポロっとしたことがあって、その時に『ずっと頑張ってたら疲れちゃうから、逃げたっていいんだよ』って言ってもらって。私はそう言ってもらえてすごく心が救われました。」

(2024年9月4日「真夏の全国ツアー2024」千秋楽公演 井上和スピーチ6


■ 坂道シリーズの“物語”
 グループにおけるセンターの存在感や重要性はずっと変わらないし、前面に立つセンターを全体が支えてグループが運営されていくという構造も、いつしか揺るぎなくなったように見える。その一方で、変わってきたものに目を向けるとするならば、それは“グループのセンター”という概念が、対外的にもつ効力ではあるまいか、と思う。
 センターの座を自ら勝ち取り、グループの外にも広く知られた“スター”となることが目指された(というようなたてつけで、いつしか眼差されるようになっていた)AKB48の「選抜総選挙」の時代とは大きく異なり、“その時期のグループの顔”という程度の、相対的にかなり抑制的なものとして、“センター”は機能している。そうした状況をふまえれば、この夏の井上が(少なくとも前年と比べれば確実に)そうであったように、センターはある程度落ち着きをもって活動に向き合えているほうが、よりグループは安定することになる。

 ただ、“落ち着きのあるセンター”は、一朝一夕には生まれない。いうまでもなく、井上の“落ち着き”も、前年の経験があってこそだ。あるいは乃木坂46についていえば、「④新メンバーのセンター抜擢の定番化」の状況もあるし、別の角度からいえば、“卒業センター”のシングルも過去多くあった。活動が順調に推移しても、シングルの発売は年3枚である。“落ち着きのあるセンター”を先頭にグループが走れる時期は、普通にやっていれば長くない。
 そうしたなかで、時期によってはダブルセンターのシングルも設けつつ、表題曲のセンターを経験するメンバーは少なく抑える(いたずらに増やす方向には進まない)ことで、ある程度その時期を長くすることに成功し、グループの安定飛行につなげているのが、ここ数年の乃木坂46なのではないかと思う。

 一方で、あえていえば、それは現代の“推し”文化とは、必ずしも相性のよい現象とはいえない。グループをとりまいているカルチャーでいえば、昔ほど“単推し”がことさらに称揚されることは少なくなっているように思うが、それでも“推し”を決めて応援することが、それすなわちグループのファンであること、という向きは依然として強い(というか、そこを疑っているファンはほとんどいないのではないか)。
 しかし、前述のようにグループが安定飛行を実現している現代において、ほぼ生まれ得なくなっているのが「ファンの熱烈な応援で押し上げられて誕生したセンター」である。「我らが世界一の“推し”を、自分たちで押し上げてセンターにする!」とでもいうような、“推し”概念を煮詰めたら鍋の底にはりついてくるようなピュアな気持ちに、グループが応えることはない。“センター”は、あっという間に吸い寄せられるようにして立つか、豊富な経験をもとに指名されて従容とうなずいて立つかしかない場所になっている。

 このような形で“推し”文化の相対化を図ろうとする(「すぐに悪口を言う」と評価していただいても構わない)のは筆者の癖なのだが、それがあるからこそのグループの繁栄=商業的成功だ、ということもわかっている(つもりだ)。それはファンの熱を高めやすくするだけでなく、メンバーの数ぶんグループに勢い(セールス)を積み重ねることができるし、“推し”を定めよ、という行動様式は、ファンコミュニティへの入口ともなるものだ。
 こうした状況全体が生むひずみ、つまり「“推し”への熱を高く保つことが[善とされる/商業的に引き出される]」一方、「高めた“熱”が、その理想とする形を帯びることは少ない」というギャップ——それを埋めるための物語が、グループの安定と発展のために重要となっているし、それが一定以上に成されているからこそ、現在の坂道シリーズがあるのではないかと感じている。

 ここまで長くなってしまったが、本稿ではこのような認識のもと、その“物語”について「Ⓐメンバー本人によるナラティブ=“物語”」と「Ⓑグループがもつ“物語”の多様化」、および「Ⓒグループ卒業をめぐる“物語”」という三つの観点に切り分けてみることにして、現在のグループのありさまを把握することを試みたいと思う。
 これらはすべて、直近の時期に生まれてきた現象というわけではない。しかし、かつての時代より現在のほうがその色が濃いようには感じるし、ことグループのいまを眼差すことを目的とするのであれば、本稿がおもに扱うこの約1年間について射程とするのがちょうどよいのではないかと考える。

[38]掛橋沙耶香の笑顔と“乃木坂46の矜持”
——「皆さんも悲しい卒業だと思わずに、悔いなく終われたら」

 2024年夏の乃木坂46を振り返るにあたって、もうひとつ、絶対に外すことのできない出来事がある。
 8月10日夜、「真夏の全国ツアー2022」明治神宮野球場公演1日目(2022年8月29日)での事故以来、約2年にわたって活動休止の状態が続いていた掛橋沙耶香がブログを更新し、グループからの卒業、そして芸能界引退を発表した。この間、事故の直後以外に掛橋について表立って説明が加えられることはなく、掛橋自身もこの間には、けがの状態の説明が中心のブログを二度更新したのみで、モバイルメール・メッセージも休止しており、最後の発信は1年以上前、という状態であった。

 卒業日は「坂道合同新規メンバー募集オーディション」の最終審査・合格発表日であった8月19日に設定され、その間わずか9日という短さであったが、一瞬ともいえるその期間、掛橋は鮮やかに、乃木坂46への“復帰”を果たす。
 卒業を発表したブログには、35thシングルの制服衣装を着用し、“図書室”風のスタジオで撮影された写真が使用され、翌日19時には、日刊スポーツおよびモデルプレスでインタビュー記事が公開される。これらの記事内で掲載された写真はブログの写真と同時に撮影されたとみられるが、衣装は36thシングルの制服に変わっていた。掛橋の最後の参加作品は30thシングルという形となったが、この36thシングルの制服衣装で最後の個人アーティスト写真も撮影されている7
 さらに、卒業日前日の8月18日に放送された「乃木坂工事中」(#476)ではバナナマンの両名との卒業メッセージ回に出演。掛橋は「これからは私もいち視聴者として楽しんでいきたいと思いますので、これからも乃木坂46の応援をよろしくお願いします」とファンに肉声を伝え、設楽統は「掛橋にここでまたこうやって会えるっていうのが、卒業は悲しいけど、それが嬉しいよ」と応じた。

 インタビューでは「けがの治療はほぼ終わりました。日常生活にはもう全く支障がないです」としたうえで、「今も傷痕はありますけど、むしろチャームポイントだなと思っています!」と語った掛橋。2年をかけて大人びた姿への驚きが、少なくとも覆い隠しきるくらいには、彼女がわれわれに見せたビジュアルにけがの影響はなかったように思う。
 「けがの完治を待たずに、顔を出さないまま卒業するっていう方法もありました。でも私は、2年かかっても、元気な姿を見せることで、ファンの方々にこれまでの感謝を伝えられたらいいなと思っていました」と、掛橋はいう。幼く見られがちなキャラクターだったけれど、気持ちが強く、正しい意味でプライドが高いひとだったな、ということを思い出した。

 8月19日という日どりも掛橋本人の希望によるものだったという卒業日には、事前収録の映像をYouTubeでプレミア公開に供するという形で「掛橋沙耶香卒業セレモニー」が開催された。出演メンバーは4期生13人で、オルゴールアレンジの「乃木坂の詩」で幕を開けたのちは、4期生曲のみが7曲連ねられた。掛橋が活動を離れてからは4期生曲は制作されておらず、掛橋はその7曲ともにオリジナルメンバーとして参加している。
 ブランクを感じさせない様子でパフォーマンスを披露する掛橋。休業中にも医師のすすめもありダンススクールに通っており、リハーサルにも振り付けが完璧な状態で現れたという。どの楽曲においてもセンターメンバーと並び立つ演出がつけられ、「Out of the blue」ではすでにグループを離れている早川聖来にかわってセンターを務めた。
 この日着用された衣装は「9th YEAR BIRTHDAY LIVE」のオープニングで着用された水色の衣装、「9th YEAR BIRTHDAY LIVE〜4期生ライブ〜」で制作された、白地に青色で花があしらわれた衣装、そして最後に掛橋は花柄のドレスに着替え、残る4期生は加入当時の“4期生制服”8に身を包んで彼女を見送る。想像を超えて“同期”のストーリーが強調されたような、そんな卒業セレモニーであった。

 掛橋は最後の1曲として、自身のセンター曲「図書室の君へ」を選び、「最後にひとつだけわがままをいうのであれば、いまから歌う曲を、私がいなくなってからも歌い継いでいってもらうことだと思っています」としたうえで披露した。
 この日から約半年、まだ「図書室の君へ」はライブでの披露機会を得ていない。掛橋が明確に残したメッセージに、グループは、あるいは“同期”はどのように応えるのか。その行く先を見守っていたいと思う。

【「掛橋沙耶香卒業セレモニー」セットリスト】
①4番目の光(イントロ・落ちサビ〜ラスサビC掛橋、落ちサビ歌唱掛橋)
②ジャンピングジョーカーフラッシュ(イントロ・ラスサビC掛橋・筒井)
 MC(挨拶掛橋「乃木坂46・4期生です!」)
③I see…(イントロ・1サビ終盤・落ちサビ以降C賀喜・掛橋、間奏掛橋が全員とハイタッチ)
④猫舌カモミールティー(冒頭・1サビ・間奏・ラスサビC掛橋・田村)
⑤Out of the blue(C掛橋)
 MC
⑥キスの手裏剣(イントロ・CメロC掛橋、ラスサビC遠藤・掛橋)
 MC・掛橋スピーチ
⑦図書室の君へ(フル)
 〆(掛橋、璃果から花束)

 掛橋は「11th YEAR BIRTHDAY LIVE」で、自らのセンターポジションを空ける形で披露された「図書室の君へ」は、「まだ皆に会っていない」状態で、配信で見届けていたのだという。そのときのことを、彼女は「みんなのおかげで、4期生と4期生のファンの方々に大切に思ってもらえるような楽曲に育ててもらったなって感じました」、そのうえで「1つ完成したな、って思って。乃木坂46での活動に未練はないなって、思うきっかけにもなったかもしれません日刊スポーツと振り返った。
 翌年の「12th YEAR BIRTHDAY LIVE」では会場を訪れ、「休業してから初めてライブを見に行きました。みんなと会って話しました。『戻って来て』って言ってもらって…」というが、そののち「私自身活動を振り返ってみて、もう未練はないなって思えたので。卒業を決めました(同上)という。そのうえでひととき“復帰”の形をとったところまで含めて、いかにも彼女らしい選択だったな、といまは思う。

——周りからは活動に復帰して欲しいという声も多かったのですね。
掛橋:はい。説得してもらうような場面もあったんです。休業中は、私も復帰できるようにと考えていたのですが、最終的には私の意思で卒業を決めました。完全に治療を終える前に、顔を出さないまま卒業するという方法もあったとは思うのですが、やはり最後にファンの皆さんに元気な姿を見せられたら良いなと思って、ほぼ最後まで治療して、こういった形で取材していただくことを決めました。

(モデルプレス「【乃木坂46卒業&芸能界引退を決意 掛橋沙耶香インタビュー】休養中の想い、心の変化などを赤裸々に語る「もう少し頑張れる」と思えた理由に先輩・与田祐希の存在」[2024年8月11日])

 掛橋の卒業に際して筆者がいちばん驚いたのは、そうした選択そのものや、スケジュールのスピード感以上に、この間ずっと、プライベートではメンバーともよく会っていたし、周囲はみな復帰を望んでいたともいう一方で、「11th YEAR BIRTHDAY LIVE」での演出のほかは、誰もそれを公然とアピールすることはなかったということだ。正直、こうした状況であることはあまり想像できておらず、“乃木坂46”を見くびっていたな、とさえ思ったことを覚えている。
 自身の身の振り方についてどのような針路をとるかも、けがの状態や自身の近況をどのように発信するかも、少なくとも最終的には本人に任せ、周囲から外堀を埋めていくようなことをしなかったのは、グループの良心であり、胆力であったというほかない。彼女のことを心配するファンの思いが、誰も望まないような形をとってぶつけられることもあっただろう。それでも静かに、マネジメントの側は治療をサポートするとともに、不在期間の制服衣装を制作し、ライブがあればのぼりを立てて9掛橋の判断を待ち、メンバーもプライベートな関係を続けながら沈黙を守った。掛橋がメンバーとして走りきった“あれから”の2年間は、グループの結束と安定の象徴でもあったように思う。

—— メンバーさんなどからも言葉をかけてもらえる場面も多かったと思いますが、印象に残っていることはありますか?
掛橋:みなさんが、いつでもグループに戻れる雰囲気や居場所を作ってくれていたのが嬉しかったです。齋藤飛鳥さんや秋元真夏さんは、ご卒業される時にメッセージやお手紙をくださったり、「大丈夫だよ」と言ってくださったりしました。その中でも1番は与田祐希さんの存在が大きいかもしれないです。すごくマメに誘ってくださって、2人でご飯を食べたり、カラオケに行ったりして、友だちみたいに接してくださるようになったので、卒業についても相談させていただきましたし、与田さんがいるならもう少し卒業までの活動も頑張れるなと思いました。

(モデルプレス「【乃木坂46卒業&芸能界引退を決意 掛橋沙耶香インタビュー】休養中の想い、心の変化などを赤裸々に語る「もう少し頑張れる」と思えた理由に先輩・与田祐希の存在」[2024年8月11日])

 そのうえで、インタビュー取材を受け、セレモニーでスピーチをするという形で、グループ卒業に向かうまでの心の動きと、決断してからの心情、および今後の生き方への言及についてまで、すべて掛橋本人にゆだねられ、掛橋もそれに「今回卒業を決めて、この取材や、撮影も、全部私のしたかったことで、スタッフさんに相談してかなったことなので。悔いなく、幸せな気持ちです」「考え方も性格もすごく変わりました。明るくなったし…。けがをしたことで心配してもらうこともあるんですけど、むしろ私にとっては必要な過程で、もっと成長するための1つの機会だったと思っています日刊スポーツという語りで応えた。
 先ほど掲げた3類型でいえば、掛橋の語りは「Ⓒグループ卒業をめぐる“物語”」である以上に、あまりにも純度の高い「Ⓐメンバー本人によるナラティブ=“物語”」であったと思う。わずか9日間で、その向こうの“2年間”で生じたグループとファンとのギャップを埋めきって、掛橋はわれわれの前から、笑顔で姿を消した。こうした状況全体が“乃木坂46の矜持”とでもいうべきもののあらわれであったと思うし、そしてもちろん彼女自身も、乃木坂46の一員としてそれを形づくっていたのである。

[39]ライブに流れる“大きな河”
——誰のものでもない光、ないし“物語”

 悪天候の予報を跳ね返して完遂された「真夏の全国ツアー2024」明治神宮野球場公演。千秋楽・9月4日のセットリストには、グループが“神宮”において、そしてライブにおいてつむいできたいくつもの物語が込められていた。
 筆者としてはツアーのセットリスト表を公演ごとに更新するようになって2年目の夏であったが、そこまでの流れをくむならば、千秋楽公演がそうした色彩を帯びる公演になることはあらかじめ明らかであったといってよい。構えたところにボールがくるような、しかしそのボールのキレは必ず予想を超えてくるような、そんな心地よさと安心感が、そこにはあった。

「真夏の全国ツアー2024」セットリストまとめ
 

 地方公演では2パターン(「バンドエイド剥がすような別れ方」「I see…」「三番目の風」/「17分間」「ジャンピングジョーカーフラッシュ」「トキトキメキメキ」)で展開されていた序盤の期別曲ブロックは、3日間の明治神宮野球場公演では組み合わせが変えられる形となった。1日目に初披露となった新曲「熱狂の捌け口」が演じられた上で、地方公演も演じられてきた「ジャンピングジョーカーフラッシュ」が連ねられた時点でそれは明らかであり、さらにこれに続いたのが、このツアー初披露となる「僕の衝動」であった。伊藤理々杏のアウトロでのパフォーマンスが“名物”のようになるなかで、“真夏”の終わりにグループはまたしても10客席の期待に応えた。
 そして2日目には、同様にこのツアー初披露となった「キスの手裏剣」11とともに、地方公演の流れをくむ「バンドエイド剥がすような別れ方」「トキトキメキメキ」が演じられ、これをもって千秋楽公演の3曲は確定したような形となった。
 前年は足のけがで明治神宮野球場公演への出演がかなわなかった川﨑桜のセンター曲である「17分間」を、3年目にして初めて“神宮”のステージに全員が揃うことになった5期生12が演じる。「真夏の全国ツアー2023」や「12th YEAR BIRTHDAY LIVE」では全メンバーが参加して演じられるとともに、「新参者 LIVE at THEATER MILANO-Za」の千秋楽公演ダブルアンコールでは5期生が演じるなど新たな展開もみせていた「I see…」は、このときは改めて4期生によって披露された。そしてこのブロックの最後に演じられたのは「三番目の風」。この日にグループへの加入から8周年を迎えた3期生が、間奏でひとりずつ観客へメッセージを送る。それは12人で初めて“神宮”のステージを踏んだ「真夏の全国ツアー2017」を思い出させる演出でもあった。

 これに続く「Threefold choice」でコント含みで開催された「プリンセスバトル」では、地方公演ではドローが“お約束”であった一方、明治神宮野球場公演ではここまで5期生の勝利・4期生の勝利と明確に流れがつくられてきていた通り、千秋楽公演では3期生の勝利で丸くまとめられる。
 一方で曲中のカメラアピールメンバーには、ここまで小川彩・筒井あやめ・与田祐希/一ノ瀬美空・田村真佑・岩本蓮加の組が交代で登場してきていたが13、千秋楽公演では井上和・遠藤さくら・梅澤美波が登場し、これもやはり、はっきりとつくられたスペースにクロスが上がってシュートが決まったような、そんな印象のある展開であった。

 そして何より、これに続くユニットブロックである。ともすれば逆に1日目と同じ「ぶんぶくちゃがま」のパターンを繰り返すこともあり得たような流れのなかで、4曲すべてが千秋楽公演だけの特別な形でパフォーマンスされた。
 1曲目は久保史緒里・林瑠奈・奥田いろはという、各期で歌唱力に定評のあるメンバーが歌った「設定温度」。前年の「真夏の全国ツアー2023」明治神宮野球場公演において、“3・4・5期”の全メンバー体制で演じられた曲であり、もとは“1・2・3期”の体制での全メンバー楽曲として、3期生初の明治神宮野球場公演やグループ初の東京ドーム公演を含む「真夏の全国ツアー2017」で演じられた背景をもつ曲でもある。3人が身を包んでいたのは、「真夏の全国ツアー2021 FINAL!」の終盤で着用された、パンジーの花があしらわれた紫色の衣装である。あのとき全メンバーで歌いつないだ、そしてそれを客席から見届けた5期生も同じように歌いつないできた「きっかけ」の記憶がよみがえる。“神宮”の夜空の下に響く三者三様の伸びやかな歌唱は、グループの13年間の歴史そのものであった。
 2曲目は「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」。初期アンダーライブの象徴ともいえる楽曲であり、近年でもストレートな演出でアンダーライブのセットリストに加えられることが多い。演じたメンバーは伊藤理々杏・中村麗乃・吉田綾乃クリスティーという、現メンバーではかなりアンダーライブを負ってきた経緯の色濃い3期生3人に、直前の「35thSGアンダーライブ」で7作ぶり2回目のアンダーライブのステージに立った柴田柚菜と初のアンダーライブにして“座長”を務めた筒井あやめという4期生2人という編成であった。原曲をもとにしながらもロック調のサウンドを引き算してメロディを際立たせたようなアレンジで、センターステージでのダンスパフォーマンスとともに歌声も印象に強く残った。センターに立ったのは筒井で、それはこの夏に至るまでの経緯がなければ成立し得ない演出でもあったとともに、さらに新たなチャレンジでもあっただろうか14。2021年の「紅白歌合戦」のオープニングで着用された赤いドレスが、しなやかなダンスになびく。「設定温度」がライブを流れるグループの“大きな河”の長さであったとするならば、「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」はその河の幅広さ(=「Ⓑグループがもつ“物語”の多様化」)であっただろう。
 3曲目の「ごめんね ずっと…」は、与田祐希のソロ歌唱で始まった。“ソロ曲の女王”とよばれた西野七瀬にとって2曲目のソロ曲である。西野と与田の紐帯はいまさら語るまでもないほどであり、与田はこのツアーのユニットブロックで披露された「他の星から」でもオリジナルの衣装を着用し、西野のポジションであるセンターを務めていた15。西野本人による歌唱は全国握手会のミニライブと、“全曲披露”のバースデーライブ(4th・5th・7th)のみであった曲でもあり、直前にライブで披露されたのは、ほかならぬ与田がソロで歌唱した「8th YEAR BIRTHDAY LIVE」であった。与田に続き、賀喜遥香・五百城茉央・小川彩も歌唱に加わる。4人が着用していたのは「西野七瀬卒業コンサート」のオープニング衣装という、あまりにもストレートなチョイスでもあった(西野が最後にこの曲を歌唱した際の衣装である)。この日のMCでは「こういうこというと『卒業だ』とかいわれるかもしれないけど」と少し茶化しつつ「私がいつの日か報告するまでは考えずにいて」と呼びかけるような場面もあった与田だったが、卒業発表を経たいまとなってはやはり、最後の“神宮”、そして終わりゆくグループでの日々への思いをふまえての演出であったことは明らかだ。グループ全体のみならず、そこに加わり、やがて離れていく個々のメンバーの歩みにも、“大きな河”が流れていることが実感される(「Ⓒグループ卒業をめぐる“物語”」)。
 このブロックの最後となる4曲目は、井上和と中西アルノによる「絶望の一秒前」であった。ここまでの公演ではストリングスの演奏に乗せた歌唱(「ここにはないもの」[井上]/「僕が行かなきゃ誰が行くんだ?」[池田瑛紗・遠藤さくら・小川彩・賀喜遥香])であった枠だったがそこからは変化がつけられ、ふたりのみがステージに立つ形でのパフォーマンスとなった。加入当初から高い歌唱力に定評のあった両名が、楽曲のオリジナル衣装でもある加入当初の“5期生制服”に身を包み、この間にさらにレベルアップした歌唱で、ハモりを取り入れつつ“始まりの曲”を歌い上げる。中西と井上は、“フォーメーション史”における機微はやや異なるものの、誰よりも多くの目線が向けられる表題曲のセンターポジションに、震えながら立つ経験をしてきたという点においては、同期のなかでも文脈を強く共有しているといえる。最後のフレーズである「結局は君自身 どうしたいか聞こう」は、「和が直前に、『ここ、セリフみたいに言おう』って言ってきた(中西、「のぎおび」2024年9月20日)ものだったという。向き合う形で歌唱を終えて、ふたりが歩み寄っていく。こらえきれずにあふれた中西の涙を、井上が優しくぬぐって微笑む。他の誰のものでもない、現在進行形の“物語”が、そこにあった。

——『真夏の全国ツアー2024』の最終公演では、中西さんと井上さんが『絶望の一秒前』をデュエットで披露して、話題になりました。
中西 なかなか忘れられない空間だったと思います。いままで、なぎがセンターになったときは私が頻繁に連絡をしたり、私がアンダーのセンターになったときは、なぎがよろこんで応援してくれました。そんな私たちが明治神宮野球場という場所で、2人で一緒に歌えたのは、すごく意味があったし、だからこそ自分の胸にも響いたのかなと思います。
——曲の最後に中西さんが涙を流し、井上さんが優しく拭うシーンもありました。
中西 リハーサルでは、なぎと私が向き合うところで二人とも笑ってしまって、お互いに「おい!」ってツッコんでいたんです。「本番では、お互いの顔を見ても笑わないようにしようね」って話をしていました。それと、曲の最後の『結局は君自身 どうしたいか聞こう』という歌詞を、なぎが「ちょっと語りかけるように歌ってみない?」って本番直前に言ってくれました。
——二人の間でそんなやりとりがあったんですね。
中西 そんなことを笑いながら話していたんですけど、本番でお互いが向き合った瞬間、神宮球場が私たち二人だけの世界みたいになって……。それと、なぎの『どうしたいか聞こう』という言葉が、自分自身に問いかけられているように感じて、胸がいっぱいになりました。あの空間はすごく特別なものだったな、と思います。
——美しい光景でした。「いつか二人のダブルセンターが見たい」と思った人も多かったのではないでしょうか?
中西 そう言ってくださる方もいました。ただ、いまはなぎが5期生の先頭に立って、いろんなものを背負って頑張っているので、私はなぎの背負っているものを少しでも軽くできる人になれたらなと思っています。

(『BRODY』2025年2月号 p.18-19)

 この日のこのブロックが好きすぎて長く書きすぎてしまったが、乃木坂46がグループの“物語”(ここでは“歴史”といったほうがしっくりくる方も多いかもしれない)に対して傾ける情熱には並々ならぬものがあり、ファンとしてそれを眼差してきた時間が長くなればなるほど、こちらの熱も上がってくるようなところがある。
 しかし心に留めておきたいのは、ただ古い時期の曲をかいつまんで披露するだけのような態度では、絶対にそのような熱は生まれないということだ。メンバーが入れかわるサイクルが回り始めた時期以降のバースデーライブについて想起すれば、長くなり続けるグループの歴史を現在の視点から振り返り続ける執念が新たなシーンをつくり出してきた場であったわけだし、あるいは「真夏の全国ツアー2024」についても、ユニットブロックでいえばそこまでの公演で全員が出演して16「全国ツアー」をつくりあげてきたからこそ、出演メンバーを絞り込んで“急所を突く”ような千秋楽の選曲と演出が成立し得たのである。

 千秋楽公演のアンコールは、ツアー最初の京セラドーム大阪公演では本編序盤で演じられた「僕だけの光」でスタートした。2016年夏の15thシングルカップリング曲であるが、リリース直後の時期を除けば、むしろ近年になるにしたがって印象深く、しかし大きく振りかぶることもなく、セットリストに加えられているような印象をもつ。
 太陽のまぶしさを羨み、自分の存在意義を見いだせなくなりそうなところから、「未来照らすのは自分自身」「いつだって夢は眩しいだろう」として、内面から輝くことによって「僕だけの光」を手に入れるという過程を描いた歌詞。個々すべてのメンバーの“物語”がフォーカス、ないし尊重される向きが強まってきたからこそ、より大切にされるようになっているのかもしれない。
 前年にはなかったダブルアンコール、この夏最後の「チートデイ」。“2年目の夏曲センター”を務め上げた井上和は、「ごめんなさい」ではなく「ありがとう」を叫ぶ。終演は20時59分17、ギリギリまでステージに立っていられるのはグループの力があってこそだと思うし、それはおそらく、“3・4・5期”体制のグループがある種の落ち着きとともに、過去・現在・未来の乃木坂46に向き合った所産であっただろう。

[40]2年ぶりのZeppツアー
——「人は必要なときに、必要な人と出会う」

 「史上最大規模」と称された「33rdSGアンダーライブ」以降、“アリーナクラス・3DAYS”の形が3作続いていたアンダーライブであるが、これに続いて行われた「36thSGアンダーライブ」はその形態を大きく変え、2024年10月に地方公演を4都市8公演、少し間があいて神奈川公演を3公演、という全国Zeppツアーの形式で行われた。「真夏の全国ツアー2024」を終えた36thシングルアンダーメンバーは、少しの夏休みを挟み、アンダーライブの期間へと移っていくことになる。
 36thシングルのフォーメーションについては、前作から「フォーメーションの秩序がやや差し戻されたようにも見える」と前述した。ここで改めて、アンダーメンバーのフォーメーションを振り返っておきたい。

【36thシングルアンダー曲「落とし物」】
吉田 岡本 璃果 楓 矢久保 中村
松尾 向井 理々杏 柴田
林 奥田 黒見

 アンダーライブという切り口からみると、同じく全国Zeppツアーの形式で行われた「31stSGアンダーライブ」の際の10人から、2023年6月にグループを卒業した北川悠理を除く9人が全員名を連ね、ここに5期生の岡本姫奈・奥田いろは、そして4期生の柴田柚菜・林瑠奈を加えた形となる。
 ただし、3列目両端の中村麗乃・吉田綾乃クリスティーは、舞台出演のスケジュールの都合から神奈川公演のみの出演となることがアナウンスされてもいた。アンダー曲「落とし物」は、「真夏の全国ツアー2024」でも2会場目となるバンテリンドーム ナゴヤ公演からセットリストに加えられて披露されていたが、このときより少ない11人という人数で「36thSGアンダーライブ」はスタートすることになる。

 5期生のアンダーメンバーへの合流からも約1年半が経過しており、ともすれば従前のライブのフォーマットを踏襲しながらレベルアップを目指すような形になりそうなところであったが、しかしこのときのアンダーライブは、人数の少なさや会場の規模、公演数などをふまえてか、かなり大胆な形のセットリストがとられる。
 冒頭でフルサイズの「日常」を披露したのちは、各メンバーに3曲ずつのステージが与えられ、1曲目は本人の選曲によって「思い入れ」を表現し、2曲目は「新たな一面」を見せるためのパフォーマンス、3曲目は「個としての魅力」をコンセプトにソロでのパフォーマンス、という枠組みがとられ、これが会場ごと2公演の日替わりの形となる。セットリストでいえば半分以上が日替わりの形であり、各メンバーの1曲目・2曲目はほかにもメンバー数人が入れかわり立ちかわり出演し、人数の少なさもあいまって“総力戦”の様相を呈していた(アンダーライブのユニットコーナーはおおむねいつもそのような色彩があるといえばあるが)。

 松尾美佑によれば、こうしたライブの構成に、メンバーはオリエンテーションでセットリストを受け取った際「初めて見るセトリすぎて、最初見たときにみんなポカーンってしてた(2024年10月11日「ベルク presents 乃木坂46の乃木坂に相談だ!」)という。また、2曲目の「新たな一面」については、裏を返せばそれは「得意としないジャンルのパフォーマンス」であるということを、メンバーは公演を重ねるごとに、MCで隠さず語るようになっていく。
 公演数の多さによって、こうした個人にフィーチャーされたステージにトライできる回数は増えることになるし、あるいは平日中心の日程+神奈川公演は2日目・3日目が配信に供される、という構成により、両方のパターンを見届けることのできたファンも多かっただろう。こうした面もふまえて選択された形であったようにも感じられるし、その一方で各メンバー1曲目・3曲目についてはアンダー曲から選曲され、再び全員でのパフォーマンスに戻った後半のブロックからはさらにアンダー曲がたたみかけられるなど、アンダーライブとしての色彩はむしろいつも以上に濃厚に感じられるライブであった。
 3期生のキャリアは9年目に突入し、最も後輩である5期生も2年半ほどのキャリアを重ねている。「思い入れ」のみではなく、「得意」も「苦手」も、すでに個人の特性をこえ、ひとつの“物語”となっている。選曲理由の一部はパフォーマンスのなかで本人の口から語られる形もとられており(「Ⓐメンバー本人によるナラティブ=“物語”」)、それ自体が今回のライブのコンセプトであることも明確に示されていた。

 “物語”はもちろんそうした側面のみにとどまるものではなく、よりわかりやすく個々の“乃木坂人生”に沿った演出がなされたり、あるいはそのように本人から語られることもあった。
 「その女」に乗せて剣術のパフォーマンスを披露した黒見明香は、Zepp Osaka BaysideとZepp Nagoyaでの公演においては「坂道研修生時代のツアーでも、まさにこの会場で剣術を披露した」と語って客席を沸かせた。グループ卒業を目前に控えた状態での1年ぶりのアンダーライブであった向井葉月は、「Threefold choice」において最も敬愛する先輩メンバーである星野みなみの衣装カラーであるオレンジのリボンを着用した。
 林瑠奈による「さ〜ゆ〜Ready?」、松尾美佑による「もう少しの夢」と、長らく披露機会のなかった卒業メンバーのソロ曲が演じられる場面もあった(公式のコール動画が作成された「さ〜ゆ〜Ready?」だが、コロナ禍で“声出し”がかなわない状況での披露のみであったため、コールありの状況で初めて披露された形にもなった)。そしてもうひとつ印象深かった“物語”は、「日常」に加えて奥田いろはがセンターに立つ形で、658日ぶりに「アンダー」が披露されたことであった。

 いまさら語るまでもなく、「日常」および「アンダー」は、北野日奈子がオリジナルのセンターとして披露してきた曲である。そして奥田は、北野と同郷であるのみならず、活動期間はほぼ重ならないながら加入当初から彼女を“推しメン”と公言しており、ピンク×黄緑のサイリウムカラーを継承してもいる18。「11th YEAR BIRTHDAY LIVE」(5期生ライブ)では奥田がセンターに立って「日常」を披露したのみならず、直前の奥田へのインタビューVTRでは北野について語られたうえ、北野が「日常」を披露する映像まで用いられていた。卒業メンバーについてここまで直接的な言及が繰り返されることは、かなりまれなことであるといってよい。
 北野は新加入の後輩から「加入前から憧れのメンバーだった」というようによく言われるタイプではなかった(久保史緒里が「アンダーライブ東北シリーズに行ったことがオーディションを受けたきっかけで、そのとき買ったグッズは日奈子さんのものだった」と言っていたくらいだろうか)。そんな北野がグループでのキャリアの最終盤で出会ったのが奥田だったと考えると、巡りあわせの妙としか言いようがない。

「うちの親は、私が決めたことをなんでも許してくれて。子役を始めるときもやめるときも、ギターを始めたいと言い出したときも自由にさせてくれました。常に私の意思を一番に考えてくれた家族にはすごく感謝してます」
 そう語る彼女が次に気になったのは、北野日奈子(卒業生)。
「高校1年のある日。テレビで見た北野さんを、『すごくかわいい!』って好きになっちゃったんです。その日はひと晩中ネットで乃木坂46について調べていました。
で、次の日。朝起きてSNSを見ていたら、五期生オーデションの広告が流れてきて。夢かと思いました。私、オーディション募集の前日に夢中になって調べてたんだって……。
『これは運命だ。受けなきゃ!』って思いました」

(週プレNEWS「岡本姫奈・五百城茉央・奥田いろはの世界を変えた”決心” 『乃木坂46物語~ほんの一歩で変わる世界~』」[2024年4月5日])

 きわめてシンプルにいえば、「アンダー」は披露するタイミングを選ぶ必要のある曲である。直前の披露機会は「31stSGアンダーライブ」であり、それは今回と同じく全国Zeppツアーの形であったとともに、“1・2期生”が全員アンダーライブを離れたのちの、新体制での船出のタイミングであった。
 そのときからはすでに2年近く。卒業生のソロ曲が今回も演じられたように、“全曲披露”後の時代にあって、オリジナルの楽曲が100曲近く増えたなかでも、グループはすべての楽曲への等しいまなざしを捨て置いているわけではなく、それを歌い継ごうとすることをやめていない。
 そうした息づかいのなかで、「アンダー」にも次に演じられる機会がきっとあるとするならば、そこにはおそらく5期生が加わっていることだろう。そしてそこにはきっと、奥田いろはがいるのではないか。予感というより、祈りのようなものであったかもしれないが、しかしそれはこのときのライブで確かに叶うことになった。

 グループはメンバーを入れかえながら未来へと進んでいくが、現役メンバーと卒業メンバーの総体として、“乃木坂46”をとらえるとするならば(それはグループの実体ではなく、やはり“物語”ということになるだろう)、それは小さくなることは永遠になく、グループが続く限り拡大していく。そうしてグループが続いていくことによって連綿と紡がれる“物語”もあれば、あの日には乃木坂46にいなかったメンバーたちが、“あの日にはいなかった”ことによって、グループに増し加える“物語”もある。
 宇宙が膨張するように“物語”が拡大していく一方で、それを形づくるひとつひとつの記憶の輝きは変わらない。時間のベールの向こうでともすれば見えにくくなっていくそれをたぐり寄せるのが“物語”であり、グループは決して一様ではない“物語”の束として存在する。個人に、あるいは楽曲に、ときには場所に、衣装にと、繊細にフィーチャーし続けることにより、グループの拡大があるのかもしれない、と思う(「Ⓑグループがもつ“物語”の多様化」)。

 「人は必要なときに、必要な人と出会う」という言葉を思い出す。グループと芸能界に別れを告げて去っていった橋本奈々未が、最後の最後にわれわれに言い残した言葉である(「GIRLS LOCKS!」最終出演回、2017年2月23日)。出会いと別れがわかりやすく連なるグループの歩み。そうした構造がはっきりと成立し始めたくらいのタイミングで発されたそれは、ずっと印象深いフレーズであり、北野も卒業写真集のインタビューの最後で引用していた。

——そうかもしれませんね。それでは最後の質問です。乃木坂46はどんな場所でしたか?
北野 答えになっていないかもしれないですけど、奈々未さんが「人は必要な時に必要な人と出会う」と言い残して、卒業していきましたよね。それが今になってすごく響いています。私はここに入らなかったら人間として弱いままだったんじゃないかなって思うんです。他のメンバーを見ていてもそうで、プレッシャーに押しつぶされそうになっている子たちを見ても、「今は大変かもしれないけど、ちゃんとここに入った意味はあるんだよ。だから、頑張るんだよ」って思います。わたしの場合はたまたま入った場所ではありましたし、他にもそういうメンバーはいると思うけど、それでも私は人生観がいい方向に変わりましたし、出会うべくして出会った方ばかりでした。みんな、きっと来世も乃木坂46なんだろうな(笑)。

(『希望の方角』北野日奈子インタビュー)

 そこにある、あらゆるものを“物語”ととらえるならば、その糸に結ばれて生まれる、すべての出会いは必要かつ必然であるということになる。“物語”に回収され得ないものについても思いを致す必要がある一方で(一定のストーリーのみに沿って、人格や世界を把握しようとすることの暴力性についてはつねに再確認されるべきだろう)、彼女たちはあくまでエンターテインメントの彼岸にいるのだから、われわれはそれに触れることはできないし、できるとしてもすべきではない。
 乃木坂46は、その“物語”のはらむ暴力性を、むしろその“物語”を大きく・きめ細かくすることによって、軽減させているのではないか。重ねられていく「36thSGアンダーライブ」の公演を見ながら、そんなことを考えていた。

[41]菅原咲月にしかできないこと
——完成をみた“3・4・5期”体制

 37thシングルの選抜メンバーがアナウンスされたのは2024年11月9日のことであり、YouTubeチャンネルでの表題曲「歩道橋」の初披露生配信内のVTRで発表という形がとられた(翌日の「乃木坂工事中」#488で従来の形式での選抜発表の模様の放送もあり)。この時期のシングルは次の大きなライブまで間が空いてしまうという事情もあってか、生配信での初披露の形がとられるのは31stシングルの「ここにはないもの」、34thシングルの「Monopoly」に続いて3年連続となったが、選抜メンバーの発表と明確にアナウンスされるのは初めてであった19
 YouTubeチャンネル「乃木坂配信中」での「乃木坂工事中」の配信スタートからはすでに3年半ほどが経過していたが、地上波での番組オンエア内での“選抜発表の放送”という形は維持され続けている。そうしたなかで、場所を問わずリアルタイムで視聴できる形で最初の選抜発表がなされたこと、そしてそれがバラエティ番組の体裁をとらず、個々のメンバーのハイライトシーンをシリアスかつスタイリッシュに編集したものであったことには新規性があった。

【37thシングル表題曲「歩道橋」】
奥田 金川 弓木 小川 筒井 田村 岩本 林
五百城 川﨑 久保 与田 一ノ瀬 中西
梅澤 井上 遠藤 池田 賀喜

【37thシングルアンダー曲「それまでの猶予」】
吉田 黒見 松尾 矢久保 理々杏
中村 璃果 岡本 楓
菅原 冨里 柴田

 フォーメーションそのものに目を移すと、前シングルからの変動は小幅であったといってよい。選抜メンバーのフォーメーションは前作と同じ5-6-8の19人体制で、奥田いろはが初めて、林瑠奈が6作ぶりに選抜メンバーに加わった。グループ卒業にともなう選抜メンバーの出入りはなく、菅原咲月・冨里奈央がアンダーに移る形となった。
 センターは遠藤さくらで、フロントの5人は小川彩と梅澤美波が入れかわった以外、ほか4人は続投の形。小川彩は3列目に移り、川﨑桜と中西アルノは3列目から2列目へ、岩本蓮加が2列目から3列目へ。こうして列挙してみると、固定したままの印象もそこまで受けないのだが、そのようななかで小幅な変動と感じさせる安定感をグループがもっていたともいえるかもしれない。
 単独の表題曲センターとしては約3年半ぶりとなる遠藤であったが、前年の34thシングルでダブルセンターを務めていたことを差し引いても、そうは思えないほどの存在感と風格が感じられた(「すごい先頭に立てるわけではないので(「乃木坂工事中」#488)と彼女はいうけれど、2年以上のあいだ、文字通りグループのフロントラインに立ち続けてきたのである)。この年10年連続10回目の出場となる「NHK紅白歌合戦」でも、「きっかけ」でセンターポジションに立っている。

 シングルの発売は年の瀬に差しかかる2024年12月11日であった。直後の「大感謝祭2024」2日目(12月15日)には、このシングルには不参加の形となった向井葉月の卒業セレモニーが行われ、少し時系列を進めれば、年始の2025年1月5日には与田祐希がグループからの卒業を発表することになる。
 長らくアンダーライブで存在感を発揮し、ステージを支えてきた向井を送り出す(アンダーライブの)ステージは、選抜発表直後に開催された「36thSGアンダーライブ」神奈川公演となり、2期生以下では最多となる19枚のシングルで選抜メンバーを務めていた与田の“卒業センター”と“卒業ソロ曲”は、のちに配信リリースされる「懐かしさの先」と「100日目」とされた。その端境期にあって、“誰にとっても最後のシングルではない”といえる形で本作は制作され20、表題曲「歩道橋」は杉山勝彦による作曲のもと、新たなスタンダードナンバーとなるような、“ど真ん中の乃木坂46”といえるような作品に仕立てられていた。

 そうしたなか、このシングル期でグループに訪れた最も大きな画期は、「大感謝祭2024」1日目(12月14日)に、菅原咲月の副キャプテン就任が発表されたことであろう。直前には「13th YEAR BIRTHDAY LIVE」の開催も発表され、グループの時計の針が進んでいることが改めて実感させられていたなか、それはイベント終盤のライブパートのなかで、キャプテンの梅澤美波からアナウンスされた。
 ライブ内では37thシングルアンダー曲「それまでの猶予」を凜々しく初披露し、発表直前まで笑顔でステージに立っていた菅原であったが、発表にあたって梅澤から呼び込まれると、途端に涙が止まらなくなった。「今日みなさんにお伝えするときまでに、しっかり自分の気持ちを固めてお話ししようと思っていたんですけど、ものすごく怖くて、不安で……」。揺れる内心をそう吐露しながらも、しかし最後には「長く愛されているグループの副キャプテンに選んでいただいたからには、なってよかったなって思っていただけるように、認めていただけるように、少しずつ自分なりに精いっぱい頑張っていきたいと思います」と、客席へ向けて力強く就任の挨拶をした。

 安易にこういう言い方をするのは好みでない(というより憎んですらおり、だからこそこんなに長大な文章を書いている)のだが、彼女に関してはそう表現することに意味があると思うからこそいえば、少なくともかつての乃木坂46であったならば、菅原はアンダーにいるような存在感のメンバーではない。
 2曲目の5期生曲である「バンドエイド剥がすような別れ方」(30thシングル所収)ではセンターを務め、5期生がフォーメーションに合流した32ndシングルでは2列目で選抜入りした。5期生のなかでもやや年少組に属しながらも、同期のまとめ役となり、先輩メンバーとも積極的にコミュニケーションをとりながら、グループのなかで立ち位置を確立していった。
 しかし高校を卒業することになる2024年春から、菅原はグループにおいて独特の動きを見せていく。前稿でも長く書いてきた通り、菅原は35thシングルの期間をアンダーメンバーとして活動することになる。福神を経験したメンバーがアンダーに移ること自体がまれな現象といってよい。新たなポジションに立つことになる菅原に何が期待されていたかとは別に、そのラインをまたいで彼女が動くことになったことは、山下美月が“卒業センター”として大々的な形で卒業していったことをてこにしていたように(そして、そうしなければなし得なかったことのようにも)見えた。

 アンダーメンバーには握手会しか仕事がなく、音楽番組で表題曲を演じる選抜メンバーをテレビで見ていた。そこに生まれた“逆境から生まれたコンテンツ”がアンダーライブであった——グループが歩んできたそのようなストーリーとは真逆の道を、しかし菅原は歩み始めたように思う。高校卒業直後の4月クールには「ラヴィット!」の金曜シーズンレギュラーを務め、時同じくして4月7日の#574より、「乃木坂46の『の』」の17代目MCに就任した。4月12日から上演がスタートした「乃木坂46“5期生”版ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』2024」では、井上和との“なぎさつ”コンビで月野うさぎ役を務めた21
 6月7-9日に有明アリーナで開催された「35thSGアンダーライブ」では、同じくこのとき初めてのアンダーであった筒井あやめの「ジャンピングジョーカーフラッシュ」とともに、「バンドエイド剥がすような別れ方」をライブの冒頭でフル尺でぶつけた。全体としてはアンダーライブらしいトーンを維持しつつ、このときのメンバーだからこそできる形のパフォーマンスを展開したといえる。
 そしてそれ以上に筆者が印象深く記憶にとどめているのは、このあとの時期にあたる6月28日に行われた「NOGIZAKA46 Live in Hong Kong 2024」の日のことだ。35thシングル期も終わりが近づくなか、このシングルの選抜メンバーに香港生まれの黒見明香を加えた編成でライブが行われるなかで、金曜日だったこの日に、菅原は通常通り「ラヴィット!」に出演する。さらに「沈黙の金曜日」には弓木奈於の代打に筒井が送られ、生配信番組「乃木フラ presents 矢久保の部屋」も、矢久保美緒がゲストメンバーに小川彩を迎える形で通常通り配信された。乃木坂46としての単独主催公演を海外で開催する一方で、グループはメンバー個人のレギュラー仕事もまったく止めなかったのである。それはあまりにも、乃木坂46というグループが選抜制とともに歩いてきた長年の日々が生み出した、ひとつの答えであったように思えた。

 菅原は明るい性格で、自他ともに認めるおしゃべりなタイプだ。飄々としているようで、感情が表に出やすくもあり、リアクションも大きい。ハッピーで、ポジティブで、そして熱い。
 36thシングルの期間を選抜メンバーとして過ごしたのち、37thシングルでアンダーメンバーとして活動することが明らかとなった翌日のブログでは、このように綴っていた。

12月11日に37thシングル「歩道橋」をリリースさせていただきます💿

先日の生配信で選抜メンバーの発表がありました。
今回私はアンダーメンバーとして活動させて頂きます!よろしくお願いします。

今シングルは、自分にとってすごく大事なシングルだと思っています。
少し前に選抜発表は聞いていて、その間ファンの皆様が次のシングルでも選抜で輝いてる姿を、とたくさんお話ししてくださっていました。
期待に応えられず、申し訳ない気持ちで心が苦しかったです。ごめんね。

もしかしたら、応援してくださっている方の中で咲月ちゃんはこう思っているのかも…と私の気持ちに寄り添って考えてくださっている方もいらっしゃるのかな、、ありがとう。☺️
乃木メでもお話しさせてもらったけれど、私がどこかでこんな発言していました!と捉えられてしまうような事は言わずに、どうか心にしまっておいてくださると嬉しいです。
今回だけに限らず、色んな場面でも。
私だけじゃなくて他の人でもです☺︎
推しメンには、嬉しい言葉をたくさん届けてください💌

私はマイナスに、ネガティブに考えてはいません
なぜだろう、と考えたけれど、、、
毎シングル今この瞬間が一番楽しい!!を更新していっているからかも。

綺麗事と思われてしまうかもしれないですが、これが本音です。
37thシングルは、自分にとって何事も怖がらず挑戦するシングルにしていきたいです

菅原咲月公式ブログ 2024年11月10日「今、この瞬間を大切に」

 筆者は前稿で、「突きつめて考えていくと、どうやらやはりこの規模のグループに外形上の“分断”(ここではもう「選抜制」と言い換えてよい)を生じさせないのは無理なことであり、それがもたらす効用を享受しつつ、それとは異なる次元で“分断”の弊害を克服するしかないように思える。」と書いた。フォーメーションの形式面では、そのための試みを「①選抜人数の増加」「②選抜から外すメンバーを生じさせるシングルを減らす」「③選抜から外す場合は何人かを一度に外す」「④新メンバーのセンター抜擢の定番化」「⑤『同期』の枠組みを重視する」の5つの観点で切り分けてきたが、しかしそれは外形的で、副次的なものにすぎない。「“分断”の弊害を克服するものは、究極にはチームの力である」。その“チームの力”は、メンバー自身が発揮するよりほかないものだ。

 このシングルでの奥田いろはの選抜入りをもって、現役の選抜未経験のメンバーは矢久保美緒と岡本姫奈の2人のみとなり、6期生の加入を目前に控えてさらに過去最少を更新した。6期生の加入を加味してもグループの人数規模もかつてよりやや縮小しているといえるなかで、選抜/アンダー間の距離もかつてとは異なるし、“かつて”にどの時期をとるかは難しいところではあるものの、3年のキャリアを積み重ねてきた5期生は、しかしその“かつて”の時代を身をもって経験しているとはいえないように思う。
 それ(=5期生が“かつて”の時代と離れてグループの日々を歩んでいること)はおそらく、グループが約13年に積み重ねてきたフォーメーションの試みの所産そのものである。もちろん彼女自身の能力やパーソナリティがあってこそであるが、それに加えて5期生という立ち位置である菅原だからこそ発揮できるパワーがあるのだと思うし、グループが経験してきたのが望ましい方向の変化であるとするならば、それを加速させる役割を彼女は託されたのだ。

 あえて有り体にいえば、副キャプテンとなった菅原は、この先キャプテンである梅澤がグループを離れるタイミングがきたときには、当然にキャプテンへの就任が期待される。菅原自身も、「少しでも梅さんを支えて、乃木坂を背負っていきたいです。すごく重くて、まだ肩の端っこを貸すくらいしかできていないかもしれませんが、いずれ一緒に背負えるくらいになりたいです22と語る。
 おそらくずっとこの先も選抜/アンダー制をとり続け、フォーメーションのしくみと対峙し続けることになる乃木坂46にあって、菅原が選抜とアンダーを行き来しながら過ごしたこの約1年間は、きっと重要な意味をもつことになる。そう確信ができるだけのものを、彼女はすでにわれわれに見せている。

[42]5期生11人目のセンター
——未来を見通すための形として

 37thシングルについてもうひとつ、ここで取り扱わなければならない重要なトピックがある。このシングルのカップリング曲として制作された5期生曲「相対性理論に異議を唱える」において、岡本姫奈がセンターを務めたことだ。
 乃木坂46における期別楽曲は2ndアルバム「それぞれの椅子」所収の2期生曲「かき氷の片想い」に始まり、3期生の加入以降からはコンスタントに制作されるようになる。前稿[24]でみたように、「期別」の構造がはっきりとし始め、期ごとのストーリーでグループをとらえていく目線が浸透していく時期であった4期生加入の前後までは各期横並びで制作されるようなシングルもみられたものの、しだいに期別曲はおおむね最も後輩の期に毎シングルあてがわれるものとして定着していく(これに該当しない期別曲は30thシングルで制作された「僕が手を叩く方へ」と「ジャンピングジョーカーフラッシュ」が現状最後となっている)。

 こうした期別曲のあり方について、ここで着目したいポイントはいくつもある。「最も後輩の期に積極的に楽曲をあてがう」ことは、新メンバーをグループに迎えるならばごく自然な振る舞いであるといえそうだが、加入から9シングルにわたって、次に新メンバーが合流するまで途切れることなく制作され続けたこと、そしてそのすべてについてMVが制作されたことは、“自然な振る舞い”をこえて、シングル制作にあたっての明確な形式として意識されているといえるだろう。そして、その9曲について、全曲センターが代えられていることも特徴的である。
 期別曲については過去からずっと、アルバム曲を除いてMVが制作されることがほぼ原則となっているといってよいし23、期別曲のセンターを固定していたのは2期生のみでもある。だからこれらは5期生において特有の現象とまではいえないが、しかし1・2期生の時代→3・4期生の時代、を経て涵養されてきた期別曲のあり方が、5期生加入以降で徹底されたとはいえそうだ24

 また、少し話がそれてしまうが、こうして徹底的に5期生曲が制作されてきた近年の時期において、その傍らでユニット曲のMVがぱたりと制作されなくなったことからも、そこに何かしらの方針が定められたような印象を受ける。
 MVがシングルの特典映像として収録されなくなったのは2022年夏の30thシングルからであるが、それまでは初回限定盤のType別に、表題曲+カップリング曲、という形でMVを収録するという形式から、(初回限定盤が4タイプ構成となって以降でいえば)表題曲+アンダー曲+ほかカップリング3曲の制作が要請され、これにともないユニット曲のMV制作も多かった。
 30thシングル以降でMVが制作されたユニット曲は31stシングル所収の「アトノマツリ」と33rdシングル所収「マグカップとシンク」のみであり、このうち「アトノマツリ」はメンバー自身が編集し、林瑠奈が編集するという形で制作されたものである。ほか、「銭湯ラプソディー」や「ぶんぶくちゃがま」はダンス動画が制作されてTikTokで配信されるなどの形がとられているが、ともあれMVが制作されていないことには変わりない。
 現在においてMVが制作されるのは、表題曲・アンダー曲・期別曲のシングルごと3曲を原則としたうえで、メンバーの卒業に際して制作される曲には必ずMVがある25、という形が徹底されているといえる。

 これほどまでにコンスタントに期別曲の制作が続けられると、そこには選抜/アンダーの枠組みとは異なるフォーメーションの秩序が生まれる。前稿も含めて、ここまであまり詳しく触れられてこなかったポイントなので、期別曲のフォーメーションについて、ここで概観していくことにしたい(本項の趣旨により、3期生以降について記載する。公式発表されたフォーメーションではなく筆者が作成したもので、推定を含むことに注意されたい)。

■ 歴代3期生楽曲フォーメーション一覧

【17thシングル所収「三番目の風」・3rdアルバム所収「思い出ファースト」】
梅澤 向井 中村 楓 吉田
阪口 与田 理々杏 岩本
久保 大園 山下

【18thシングル所収「未来の答え」】
中村 向井 吉田 楓
岩本 大園 与田 阪口
梅澤 山下 久保 理々杏

【19thシングル所収「僕の衝動」】
阪口 山下 向井 久保 岩本
吉田 梅澤 楓 中村
大園 理々杏 与田

【20thシングル所収「トキトキメキメキ」】
吉田 向井 理々杏 楓
梅澤 与田 山下 大園 久保
中村 岩本 阪口

【21stシングル所収「自分じゃない感じ」】
吉田 向井 理々杏 楓
梅澤 阪口 岩本 中村
与田 山下 大園

【25thシングル所収「毎日がBrand new day」】
楓 中村 阪口 岩本 向井 理々杏 吉田
梅澤 山下 久保 与田 大園

【27thシングル所収「大人たちには指示されない」】
楓 向井 阪口 理々杏 吉田
久保 与田 山下 梅澤
大園 岩本 中村

【30thシングル所収「僕が手を叩く方へ」】
中村 理々杏 阪口 楓 向井 吉田
岩本 与田 久保 山下 梅澤

※「思い出ファースト」は「真夏の全国ツアー2017」明治神宮野球場公演の模様から、「自分じゃない感じ」は「真夏の全国ツアー2018」ひとめぼれスタジアム宮城公演の模様から、「毎日がBrand new day」は「乃木坂46時間TV」(第3弾)スペシャルライブの模様から、「大人たちには指示されない」は「9th YEAR BIRTHDAY LIVE〜3期生ライブ〜」の模様から作成。これら以外はMVのダンスシーンより作成。
※久保は「自分じゃない感じ」に不在(活動休止にともなうシングル不参加、「3・4期生ライブ」では向井と理々杏の間のやや後ろの位置で披露)大園は27thシングルの活動限りでグループを卒業。

■ 歴代4期生楽曲フォーメーション一覧

【4thアルバム所収「キスの手裏剣」】
田村 矢久保 早川 金川 掛橋 北川
筒井 清宮 遠藤 柴田 賀喜

【23rdシングル所収「4番目の光」】
早川 北川 清宮 柴田 矢久保 金川
田村 掛橋 遠藤 筒井 賀喜

【24thシングル所収「図書室の君へ」】
賀喜 清宮 矢久保 北川 柴田 早川
遠藤 田村 掛橋 金川 筒井

【25thシングル所収「I see…」】
柴田 清宮 金川 早川 矢久保 北川
田村 掛橋 賀喜 遠藤 筒井

【26thシングル所収「Out of the blue」】
松尾 矢久保 黒見 柴田 林 北川 弓木
清宮 筒井 金川 遠藤 掛橋 璃果
賀喜 早川 田村

【27thシングル所収「猫舌カモミールティー」】
北川 掛橋 黒見 柴田 林 璃果 矢久保 金川
筒井 賀喜 遠藤 早川 清宮
松尾 田村 弓木

【30thシングル所収「ジャンピングジョーカーフラッシュ」】
柴田 掛橋 弓木 松尾 田村 黒見 清宮 金川  
北川 璃果 林 矢久保
賀喜 筒井 遠藤

※「キスの手裏剣」は「23rdシングル『Sing Out!』発売記念ライブ〜4期生ライブ〜」の模様から、「I see…」は「乃木坂46時間TV」(第3弾)スペシャルライブの模様から、「猫舌カモミールティー」は「9th YEAR BIRTHDAY LIVE〜4期生ライブ〜」の模様から作成。これら以外はMVのダンスシーンより作成(「Out of the blue」はエンドロール部)。
※坂道研修生としての活動を経て2020年2月に加入した、いわゆる“新4期生”5人は、26thシングルより4期生として制作に参加。
※早川は「ジャンピングジョーカーフラッシュ」に不在(活動休止にともなうシングル不参加)。早川を含めた16人で「ジャンピングジョーカーフラッシュ」が披露されたことはなく、早川は「11th YEAR BIRTHDAY LIVE」での披露の際には掛橋のポジションに入った。

■ 歴代5期生楽曲フォーメーション一覧

【29thシングル所収「絶望の一秒前」】
冨里 小川 中西 岡本 菅原 五百城
川﨑 奥田 井上 一ノ瀬 池田

【30thシングル所収「バンドエイド剥がすような別れ方」】
奥田 小川 中西 一ノ瀬 池田 岡本
五百城 井上 菅原 川﨑 冨里

【31stシングル所収「17分間」】
中西 小川 井上 菅原 岡本 奥田
一ノ瀬 五百城 川﨑 冨里 池田

【32ndシングル所収「心にもないこと」】
岡本 五百城 菅原 中西 冨里 奥田
井上 一ノ瀬 池田 小川 川﨑

【33rdシングル所収「考えないようにする」】
小川 奥田 五百城 菅原 川﨑
一ノ瀬 井上 冨里 池田 中西

【34thシングル所収「いつの日にか、あの歌を・・・」】
池田 中西 川﨑 井上 岡本 奥田
冨里 一ノ瀬 小川 菅原 五百城

【35thシングル所収「『じゃあね』が切ない」】
小川 池田 中西 井上 川﨑 菅原
岡本 奥田 五百城 一ノ瀬 冨里

【36thシングル所収「熱狂の捌け口」】
池田 五百城 小川 奥田 冨里 岡本
菅原 中西 一ノ瀬 井上 川﨑

【37thシングル所収「相対性理論に異議を唱える」】
中西 奥田 一ノ瀬 小川 川﨑 井上
池田 冨里 岡本 五百城 菅原

※やや判然としないものもあるが、全曲2列編成のフォーメーションであることは前提としたうえで、MVのダンスシーンより作成している。
※岡本は「考えないようにする」に不在(活動休止にともなうシングル不参加)。復帰以降の披露時には、2列目上手端(川﨑の左手側隣)のポジションで参加している。

 センターが代わっていくこと自体は当たり前のように見てしまうが、2期生曲は一貫して堀未央奈がセンターを務めていた26ことを思い出せば、それはグループがその歩みのなかで手に入れてきた、“センターは代わるもの”というカルチャーの所産であるようにも感じられる。3期生は岩本蓮加・久保史緒里・山下美月で“ふた回し”しているような格好だが、4・5期生は楽曲ごとにバトンを渡していくような形で、(「キスの手裏剣」がアルバム曲だった遠藤さくらを除いて)複数回センターを務めているメンバーはいない。
 各フォーメーションの全体に目を移すと、5期生のフォーメーションには(センターが全曲異なるのみならず)全体として定型がないことが印象的である。シンメトリーのポジションがかなり意識されている27ことは表題曲/アンダー曲と共通するものの、例えば3期生でいえば大園桃子、4期生でいえば遠藤さくらが後列のポジションを得たことがない、というような現象は生じていない。もちろん全曲2列編成としている(と、ここではみなしている)ことも作用しているだろうが、かなり柔軟なフォーメーションがとられているという印象を受ける。

 ここでようやく本項冒頭の話に戻ってくるのだが、37thシングル所収の「相対性理論に異議を唱える」で岡本姫奈がセンターポジションに立ったことは、「これをもって5期生全員がオリジナルのセンター曲を得たことになる」として広くとらえられ、話題となった。5期生楽曲でセンターを務めた9人に加え(このうち、井上和は表題曲のセンター、冨里奈央はアンダーセンターを経験している)、中西アルノは表題曲のセンターとアンダーセンター、奥田いろははアンダーセンターを経験している。
 前シングルで一ノ瀬・奥田がセンター曲を得たことで、岡本は最後のひとりになっていた格好でもあった。次シングルでは6期生の合流(それはつまり、6期生曲が制作されるということとほぼ同義)も予測されるなかで、岡本にセンター曲があてがわれる期待感は高かったといってよい。2024年12月8日0時のMV公開の直前には、全5期生楽曲とともにメンバーが思い出コメントを寄せる動画が配信されたが、リレー形式でひとりずつコメントが流れるなかで、岡本はその最後に配され、コメント内で自らが「相対性理論に異議を唱える」のセンターを務めることを明かした。ファンも、メンバーも(そしてマネジメントの側も)、それを重要なトピックとみなしていたのである。

 「乃木坂46として活動していくなかで、自分にセンター曲がいただけるなんて、夢にも思っていなかった」と、岡本は口にした。同期から遅れての活動スタートがあり、体調不良による長期の活動休止も経験した岡本は、明確にポジションを求めるような思いを抑えがちな部分もあったかもしれない。
 あるいは、表題曲・アンダー曲と並ぶ形で、期別曲についても“センター”とカウントされる(ユニット曲よりは扱いが明確に上といえるだろう)ような現象からは、「Ⓑグループがもつ“物語”の多様化」が明確にみてとれる。(このことには後ほど改めて言及するが、)現状のグループ運営からいって、このような形でなければオリジナルのセンター曲を得にくいと思われるメンバーも少なくない。
 一方で、あえていえば、“新メンバー”がやがてグループと一体化し、そのなかでセットリストにおける特別な取り扱いや期別の稼働も徐々に減じていくなかで、期別曲のライブでの披露機会も限られていく。そうしたなかでどうしても、期別曲のなかでも“ライブで演じられやすい曲”と“演じられにくい曲”が生じてくる。しかし、一貫して期別曲を制作し続けることからは「それでもいいから」という姿勢も透けて見えるようにも思う。
 演じられる機会が少ないとしても、グループの作品として楽曲が制作されれば、それはグループの歩みとともにずっと残っていく。センター曲はやはり特別な存在だ。大園桃子が、早川聖来が、掛橋沙耶香が、どのようにしてグループを卒業していったかを思い出せば、メンバー個々の物語のなかで再びかえりみられ、得難い輝きを放つだろうということがわかる。

 そして、これに続く38thシングルでは、実際に6期生がグループに加入、シングルに参加し、6期生曲が制作されることとなった。この状況を前に、5期生11人全員を“センター”にしたことには意味があったのだと思うし、そういうものとしてアレンジされてきたのだろうとも思う。
 大規模なオーディションを繰り返し、メンバーの加入と卒業のサイクルを回しながらグループが運営されていくなかで、新たに加わるメンバーがどのような形で加入し、どのようにキャリアをスタートさせ、どのくらいの期間、どのようにグループでの日々を歩み、どのような形でメンバーとしてのキャリアを終えるのか、おおむね見通せるようになってきたような状況である。
 予定調和でつまらない、ドラマがない。ただ口を開けて待っているだけのファンがそんなふうにいうのは簡単だけれども、アイドルのベールの向こうにいるメンバーとてもちろん架空の存在ではなく、当たり前に生身の人生を生きている。
 「何もかも捨ててグループに飛び込みました」のような語りをはっきりとしていたのは、乃木坂46でいえばおおむね3期生までだっただろうか。それはどちらかというと、そのようなストーリーをあえて退けるようにしているというだけなのかもしれないが、しかし長くメジャーであり続けているグループが、安定したサイクルを目に見える形にして運営されていることが、オーディションの間口を確実に広げている部分もあるだろう。

 この37thシングル期の途中には、与田祐希がグループからの卒業を発表する。
 本項でみてきたものを「どのように“乃木坂46”になっていくのか、の現在」と表現するとしたら、次稿では「そこからどのように“卒業”していくのか、の現在」をみていくことにしたい。

[43]与田祐希の“3093日目”
——2025年、“卒業”と“卒業センター”の現在地

 与田祐希の卒業発表は年明け間もない2025年1月5日であった。過去に年明け間もない時期にグループからの卒業を発表したメンバーは過去にも深川麻衣・白石麻衣・秋元真夏とおり、恒例とまではいえないけれど、年始のまだふわふわした気分のなかでの発表にひっくり返ってしまった、というような記憶はどうしても色濃い。
 卒業日は2月23日に設定され、グループのデビュー日である2月22日との2DAYSで、みずほPayPayドーム福岡において卒業コンサートが開催されることも同時にアナウンスされた。発表から卒業日までひと月半という期間は短い部類に入り、卒業コンサートの規模も考えあわせれば、相当なスピード感であったといえる。

 与田についていえば、噂好きで事情通ぶりたいファンがネットに書き立てているようなレベルをこえて、どことなくずっと、卒業の噂がただよっていたように思う。2024年夏に主演ドラマ「量産型リコ」の第3作が、「最後のプラモ女子の人生組み立て記」というサブタイトルを付されて放送されたあたりでそれがいっそう強まったような雰囲気だっただろうか。「真夏の全国ツアー2024」の千秋楽公演では、与田本人がそうした雰囲気を、茶化しながらたしなめるような発言もあったことは前述した通りだ。
 彼女のグループ卒業について、「私がいつの日か報告するまでは考えずにいて」と与田は口にした。メンバーの卒業については、かなり早い段階から「本人の選択によって行われる」ものというストーリーが堅持され、「本人からの発信により発表される」という形が定着している。発表の場はブログを原則として、レギュラーのラジオ番組や配信などのなかでなされるパターンもあるが、グループアイドルのパブリックイメージとしてもたれがちな「ライブ内での発表」が行われるケースはほぼなく28、それは発表そのものを慎重かつていねいに行おうとするとともに、クローズドな場(=チケットを手に入れないと立ち会えない)で発表せず、ファンに対しては横並びで知らせようとする姿勢であるようにも見える。
 卒業公演扱いのライブ29を行わないメンバーもいるがその数は多くなく、そのライブは「生駒里奈卒業コンサート」について全国の映画館でライブビューイングが行われたことを端緒に、コロナ禍を経た現在では30原則として配信に供されるという形で、少なくともチケットの当落は問わずに立ち会える形となっている31

 与田の卒業発表は37thシングル期の半ばにあたり、シングルでの“卒業センター”の形はとられなかった(直前の卒業メンバーであった向井葉月はこのシングルに参加しておらず、37thシングルは誰の卒業シングルとも設定されなかったことになる)。
 しかし「37thSGアンダーライブ」が完遂され、いよいよ卒業コンサートが近づいてきた2月1日夜、与田をセンターとする楽曲「懐かしさの先」が、配信シングルの扱いでリリースされることが発表され、2月3日0時よりストリーミングサービスでの配信がスタート、2月11日にはMVが公開された。「懐かしさの先」は3・4・5期生による全員参加の形がとられ、MV内ではメンバーが与田のチョイスにより、かつて与田が着用したそれぞれ違う衣装を着用する場面も設けられた。

【「懐かしさの先」推定フォーメーション】
菅原 中西 小川 井上 五百城 川﨑 池田 奥田 一ノ瀬 岡本
柴田 矢久保 筒井 松尾 田村 遠藤 賀喜 金川 弓木 璃果 林 黒見
中村 岩本 理々杏 梅澤 久保 楓 吉田
与田

※「懐かしさの先」の披露は、2025年2月4日の「うたコン」と「与田祐希卒業コンサート」での各日1回のみであり、「うたコン」には五百城・岩本・冨里・松尾が不在、卒業コンサートには中村・冨里が不在(1日目には岩本も不参加)、MVには岩本が不在(1サビのダンスシーンには一ノ瀬・小川・松尾も不在)であり、全員が揃った形でパフォーマンスされたことはない。
 上掲のフォーメーションは「うたコン」での披露の模様をもとに、楽曲の趣旨および歌割りから期別のフォーメーションと判断したうえで、MVの模様から五百城・冨里・松尾の位置を推定して作成している。岩本については、「与田祐希卒業コンサート」では中村のポジションに入った形(だったはず)であり、オリジナルのポジションがあったとして上手側・下手側かも判断できない状況であるが、総合的に判断した。確定したものでは一切なく、フォーメーション全体の趣旨をとらえるために作成したものであるとご理解いただきたい。

 かくして訪れた卒業コンサートでは、与田の自由奔放なキャラクターがいかんなく発揮された演出や、ゲストとして出演したブラックマヨネーズ・小杉竜一、千鳥・大悟(ヤギの声で出演)が話題をさらった。そして2日目の23曲目、この2日間で3回目の披露となる「逃げ水」では、グループ卒業から約3年半の時間を経て、大園桃子がステージに登場する。
 大園は披露後のMCにおいて、相変わらずの素朴な語り口で「与田にとって最後の『逃げ水』を一緒にできてよかった」と口にした。「『逃げ水』を守ってくれてありがとう」とも声をかけていたという。卒業コンサートでいえば、山下美月が齋藤飛鳥の翌年に東京ドームに立ち、ドームでの“地元凱旋”を果たした与田は西野七瀬に続いた。1期生が打ち立てたマイルストーンをグループとともに確実に引き継いできた3期生が、今度は「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」に続いて、卒業生をステージに迎えて会場を歓喜の渦に巻き込むことも成し遂げたのである32

 そしてもうひとつ、本稿の文脈において特に大きなトピックとして取り扱わなければならないのが、与田の“卒業ソロ曲”である「100日目」である。制作されていることも含めて伏せられた状態であったなかで、卒業コンサート1日目の終演後にあたる2月22日の22時ごろにMVが公開され、卒業日となる2月23日の0時より楽曲の配信がスタートした。
 卒業コンサート1日目のなかでも特段の言及や“匂わせ”もなく、アンコールの1曲目には「誰かの肩」がチョイスされていた。「これからグループに残って引っ張っていくメンバーに向けて2番を歌いたい」と説明されたうえでのフルサイズの披露。1番は与田のソロ歌唱の形であったが、2番からはメンバーも合流し、「いつか私も 肩を貸したい/そう あなたが打ちひしがれて/立ち上がれないなら」「足を踏ん張って 重みに耐える/お互い気づかないふりをしながら/今日と同じ体勢で 支えてあげる」と歌われた。
 いよいよ卒業となった2日目のアンコール、純白のドレスに身を包んだ与田は「100日目」を歌唱する。前夜の「誰かの肩」では、メンバーに囲まれながらの歌唱で最後には涙がこらえきれなくなった与田だったが、グループで過ごした“3093日目”のステージでは、別れの寂しさや時間の流れの冷たさを描いた歌詞を、最後までおだやかな表情のまま歌い上げた。

 「懐かしさの先」および「100日目」は、その後38thシングルへの収録がアナウンスされるとともに、シングルの「与田祐希特別仕様盤」も発売されることになる。全体的なスケジュールのとり方も含め、MVを特典映像として収録しない形としてきたこともふまえた上手な落としどころだと感じたが、こうした形をとり、37thシングルを与田の“卒業シングル”としなかったことに、大きな意味があったのではないかと思う。
 前述したような、遠藤さくらをセンターに据えて、“ど真ん中の乃木坂46”といえる作品に仕立てた、という点のみではない。この形で進行したことで、向井葉月が卒業に向かう時期と混線せず33、メンバーもファンも、それぞれの卒業にしっかりと対峙する時間をつくることができた。それは個々のメンバーの「Ⓒグループ卒業をめぐる“物語”」を大切にするトレンドのあらわれのようにも感じるし、またそれができるだけのグループの大きさということでもあるだろう。

 その後、2月28日に中村麗乃が、3月7日には佐藤楓が、相次いでグループからの卒業を発表する。中村は38thシングルには不参加、具体的な卒業時期は未定とされる一方、楓は38thシングルを最後の参加作品として、「38thSGアンダーライブ」での卒業セレモニーの開催、および5月6日に地元愛知県で開催される「リアルミート&グリート」34をもって卒業となることがアナウンスされた。ファンとしては、恒常的に誰かが卒業していくような印象をもってしまうが、メンバーの特性をふまえてうまくスケジュールを整理しているな、と膝を打つような思いにもなる。
 大々的なオーディションを経て、10人強の規模で一度にグループに加入してくる「同期」が、ひとりずつ卒業という出口に向かい、それぞれの道へ進む。グループアイドルのたたずまいを象徴するようなそんな現象にも、ていねいに向き合うことができるのは、しあわせなことだと思う。

[44]中西アルノの3年間
——38thシングルのフォーメーションを見て

 2024年に春組・夏組という2段階の形式で行われたオーディションを経てグループに加入した6期生は、2025年2月5日に11人の加入がアナウンスされ、翌2月6日からひとりずつ、5期生とほぼ同形式で、YouTube動画での発表がスタートした35。与田祐希の卒業に向かっていく時期と並行する形であったとともに、この只中であった2月17日には38thシングルのリリースが発表され、時間の流れが幾重にも感じられるタイミングとなった。
 与田の卒業コンサート当日、2月23日深夜の放送であった「乃木坂工事中」#502では、与田からのラストメッセージが放送されるとともに、38thシングルのタイトルが「ネーブルオレンジ」であること、そして翌週の放送回で選抜メンバーが発表されることが告知される。6期生の「初披露の会」のチケットの先行受付はすでに始まっており、「13th YEAR BIRTHDAY LIVE」についてもこのときスタート、という形であった。光陰矢のごとし、である。

【38thシングル表題曲「ネーブルオレンジ」】
金川 冨里 弓木 菅原 筒井 田村 奥田 林
小川 川﨑 久保 池田 梅澤 五百城 一ノ瀬
賀喜 井上 中西 遠藤

 かくして発表された選抜メンバーのフォーメーション。人数は前作と同じ19人で、ダブルセンターの形がとられた。入れかわりとしては、グループを卒業した与田と、この間に活動自粛の期間を挟んだ岩本蓮加が選抜メンバーから外れ、1作での選抜復帰となった菅原咲月と冨里奈央が加わった。前作初選抜であった奥田いろはや、6作ぶりの選抜復帰であった林瑠奈も含めて16人が選抜メンバーとして続投するという、小幅な変動となった。
 そしてダブルセンターとして名前が呼ばれたのは、井上和と中西アルノであった。

 あけすけにいえば、6期生の抜擢を予想(ないしは、期待)していたファンも多かったのではないか、と思う。5期生加入のシングルであった29thシングルでは、2022年2月20日の「乃木坂工事中」#348で選抜メンバーが発表されたものの、センターは「5期生」とのみ発表された。翌日から配信がスタートした「乃木坂46時間TV」(第5弾)内で、まずは「5期生お見立て会」が行われたのち、最終日の「46時間TVスペシャルライブ」で、「Actually…」の初解禁・初披露とともに、中西のセンターが発表された、という流れであった。
 筆者とて、あまりにもインパクトが強かったあのときのことを思い出さなかったといえば嘘になる。グループが新しいシングルに進むと宣言された2025年2月23日、それは“あの日”からちょうど3年というタイミングでもあった。

 結果として選抜メンバーとして6期生の名前が呼ばれることはなく、期別曲「タイムリミット片想い」でシングルに参加するという形で、6期生はグループに合流してくることになった。次のシングルでどのような形がとられるのか(「④新メンバーのセンター抜擢の定番化」は継続されるのか)はまだわからないが、期別曲のみでリリース作品に加わるというのは3期生・4期生のときと同じ形であり、スピード感としてはやや差し戻された形となったといえる。
 発表直後のインタビューで、中西はあの日と同じように身体を小さく丸めながら、「『どうして私?』って思ってしまってるんですけど」と口にする。センターという場所を「すごく特別な場所だと思う」としたうえで、「『このシングルが私と和のセンターでよかった』って、結果的に思ってもらえるようにとにかく頑張ります」と目を伏したままで語った。

 ステージに立てば伸びやかに歌い、ソロで歌う仕事も獲得してきた。「Actually…」はグループ全体のライブでも定番曲となり、彼女のパフォーマンスに対して上がり続けていくハードルにも、つまずくような気配ももうない。ワードセンスも固有のものがあり、自分の言葉を持っているタイプで、文章でもMCでも雄弁に語るほうだ。一方でキャラクターはおちゃめで親しみやすいことでも知られ、「どんくさ」とイジられながらも、それを受け入れて笑いに変えるようにもなった。
 “乃木坂46”になじみ、その強みを確実に形成し、グループを牽引してきたこの3年間。しかし、“ポジション”の機微にさらされたとき、中西はずっと小さな身体を震わせていたような、そんなふうに感じる部分もある。

そして、昨日『乃木坂工事中』にて選抜発表がありました。

私たち5期生は、32枚目のシングルから選抜とアンダーに別れて活動します。
わたしは今回アンダーメンバーとして活動させていただきます!

アンダーライブに足を運んでいるから強さを知っているし、ダンスも歌ももっともっと磨けるんだ!!
と思うと今はすごくワクワクしています。

選抜とかアンダーとかセンターとか端っことか
そんなものも全て吹き飛ばせるくらい
どこでだって輝ける人になりたいです。わたしは☺︎

どのポジションでも、誰かの1番なことを忘れないで、大切に☺︎

中西アルノ公式ブログ 2023年2月20日「ねこを抱き君を連れて青を駆ける」

「選抜に選ばれる」ということが乃木坂46にとって、応援してくださる皆さんにとって、どれほど重みのあることなのか
32枚目期間でよくわかったような気がします。

以前のブログで私は
どのポジションでだって輝ける人になりたい。
どこでだって誰かの1番なのを忘れたくない。
と書きました。
そこは今も何も変わっていません。

私は
選抜に入りたいと思うことも烏滸がましいと思っているし、どこの場所でも私は私のペースで頑張ればいいと思っていました。

でも
大好きな人の最後を近くで送ることが出来なかったり
大好きな人の初センター、楽曲披露の前に手を握ることも出来ない
その無力さを痛感しています。

皆さんの声を沢山聞きました。
いつか
ちゃんと皆さんの期待に応えたいし
沢山支えてくれるあなたに恩返ししたい。

これは今のわたしの精一杯です。

中西アルノ公式ブログ 2023年6月26日「それぞれの夏がくるね」

寒い日が続いていますがお元気ですか?

この度
34枚目シングルのアンダーセンターを務めさせていただくことになりました。
中西アルノです。

本当はどうしようもないくらい心配で、不安で。

フォーメーションが発表されてから昨日までずっと
私なんかに務まらない
なんで私なんだろう
どう思われてしまうか怖い
そんな考えがずっと頭をぐるぐるしていました。

でも昨日の生配信で14人集まったとき
このメンバーと一緒なら絶対に大丈夫だと思えました。

そして
たくさん支えてくださっているみなさん
私に頑張れる力を分けてくれて
ありがとう。

中西アルノ公式ブログ 2023年12月5日「思い出が止まらなくなる よろしくおねがいします。」

そして35枚目の選抜発表がありました。
私は今作もアンダーメンバーとして活動します。

今までの3作よりずっと心が痛む音がして
沢山ネガティブなことを考えたりもしたのですが

きっと前作の期間自分がそれだけ一生懸命だったからなのかなと思ったり。

心が折れそうになる時は皆さんからのレターを読んだりします。
私は思ってるより強くはないけど
皆さんがいればちゃんと前を向くことができます。
だから今はちゃんと前を向けています!

アンダーは最強を更新し続けるので!
悔いのないように今作も頑張ります!

だから一緒に坂を駆け上がってくれたら嬉しいです。
今作もよろしくね

中西アルノ公式ブログ 2024年2月21日「あのことも、このことも」

先ほど乃木坂工事中でも発表があったとおり
36枚目シングルは選抜メンバーとして活動させていただくことになりました。

ありがとうございます。

名前を呼ばれた時
どんな顔してたのか、そのあとどんなコメントしたのかあまり覚えていません。 

ただ
皆さんとの記憶が走馬灯のように流れていました。

ライブで見えるペンライト
掲げてくれたタオル
私を呼ぶ声
あたたかい拍手
救ってくれた言葉
ミーグリで一緒に笑ったこと
大切に書かれたお手紙

その全てが、私をこのポジションに連れてきてくれました。

本当に、本当にありがとうございます。
皆さんの力です。

……(中略)……

長くなりましたが

いま、私は感謝の気持ちでいっぱいです。

肯定的な言葉ばかりじゃないことは自分が1番わかっているけれど
あなたとここまで一緒に来れたことがなにより幸せです。

これからも一緒に坂をのぼろうね


本当にありがとう。

中西アルノ公式ブログ 2024年7月15日「大丈夫、だってあなたがいる」

昨日の21時にyoutube生配信にて、選抜発表と37枚目シングル「歩道橋」の初披露がありました。

私は今シングル、選抜メンバーに選んでいただきました。
ありがとうございます。

発表後、様々な意見が飛び交うのを感じています
正直この場所に立つこと、自分自身が1番戸惑っていました。

でも
皆さんの言葉を全て、全て受け止めたうえで私は前を向きます。

なにがあっても隣にいてくれるあなたが、私をこの場所まで導いてくれたんです。
あなたのおかげで約3年間、踏ん張ってこれたんです。
それを無駄にはできない。その気持ちに全身全霊で応えよう。
いま、強い気持ちで前を向いています。
それが今の私にできる全てです。

好きになってよかった。この子を応援していて良かった。そう思えるようなアイドルでいます。

このシングル期間もどうか一緒についてきてください
後悔させないです。

よろしくお願いします。

中西アルノ公式ブログ 2024年11月10日「ひたむきに」

 そして今回も、「乃木坂工事中」の放送直後に更新されたブログにおいて、中西は今作で井上とともにダブルセンターを務めることになったことを報告したのち、井上について「2年連続、夏のシングルのセンターを務めて かっこよくて、頼もしくって、すごく尊敬していました。」「そんな和を支えたいと思っていたし 乃木坂に貢献できる人でいたい そう思い続けて今日まできました。」とした。しかし、いざそのときがきたら「足がすくんで手も足も震えて頭が真っ白になりました。」「支えたいなんて言いながら、私はなんの覚悟も伴ってなかったんです。 そんなずるい自分に腹が立って悲しくなりました。」と吐露した。

どうしても良く思えない人もたくさんいるだろうし
これからの乃木坂を心配する人もいると思います。

そして
この場所に立つには、私には伴っていないことが多すぎることもわかっています。

それでも
私は、自分を変えてくれたこのグループが大好きなんです。

皆さまからちゃんと認めてもらえるように
この気持ちがちゃんと伝わるように

どんな言葉も受け止めて
真摯にこのシングルに向き合っていきます。

そして、私を信じて応援し続けてくれた皆さんに返したいんです。
ずっとずっと味方でいてくれてありがとうございます。
そして、私自身が1番この場所を喜べていなくてごめんなさい。
自分がとても恵まれていることも
期待してくれてる方がいることもわかっています。
それなのに、ネガティブなことばっかり口をついて出る自分にも嫌気がさしてしまうけど
私には皆さんとの3年間があります。
これが本当に大きな心の支えなんです。

怖いです。
でも、死ぬ気で頑張ります。

38枚目シングル、どうか、よろしくおねがいします。

中西アルノ公式ブログ 2025年3月3日「38枚目シングル」

 この間の中西の語りに共通するのは、「自分に自信がもてない」ということ、その一方で自分を支えてくれるファンへの感謝、そしてもうひとつ、「(目に見えない場所にも、ひょっとしたら目に見える場所にも)自分のことをよく思っていない人々がいる」という不安感である。
 思い返せば3年前、「Actually…」の初披露を終えたのちにも「私がこの場所に立つことに不安を思う人がたくさんいるかと思います」と口にし、「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」の終演後にも、「自分にはあの場所に、この曲(「Actually…」)で立つ資格がないと思っていた」としていた(DVD/ブルーレイ特典映像)。「真夏の全国ツアー2022」では「いま目があってる人たちも、私の事をよく思っていなかったらどうしよう」という感覚に苦しめられたといい公式ブログ 2023年8月30日「良い夏だったな」、それを乗り越えた「11th YEAR BIRTHDAY LIVE」においてさえ、「今日までの1年間、私にはこの歌を伝える権利はないと思っていたし、今でもそれを完全に払拭しているとは思っていません」と語った。
 そうした“人々”の目は、自分への自信のなさからくる幻ではないだろう。むしろ、その“自信のなさ”のほうが、そうした“人々”からもたらされているのではないかと、そんなふうに思うこともある。

 翌日夜には「真夏の全国ツアー2024」千秋楽公演において井上と中西がふたりで歌唱した「絶望の一秒前」の模様がYouTubeチャンネルにて期間限定で公開された。彼女が歩んできた時間は現在まで続く一本道だし、経験してきたすべてが現在の彼女の立ち位置を、そして彼女自身をつくっているのだな、と感じさせられる。そしてそれは他のメンバーとて同じだろうし、人間誰しも同じだ、ともいえるかもしれない。
 5期生の加入から3年、そしてあのとき中西が、震えながらセンターに立ってから3年。加入してきた6期生ではなく、あの日その場所がもたらす重圧を背負った中西が再度センターに立つ。しかしその隣には、あふれる涙を拭いてくれる井上がいて、肩を貸し合いながら歩むことができる。そのことは、あえてピュアにとらえれば運命だったのだと思うし、それがすべて丹念につくりこまれたシナリオだったとしても、この日に至るまでの道のりを一歩ずつ地面を踏みしめて歩いてきたのは、ほかでもない中西自身なのである。

 翌日の3月4日には「38thSGアンダーライブ」(2025年4月5日)の開催発表とともに、Xに動画がアップロードされる形でアンダーメンバーのフォーメーションが発表される。

【38thシングルアンダー曲「交感神経優位」】
岩本 璃果 黒見 矢久保 吉田
松尾 岡本 柴田 楓 理々杏

 柴田柚菜が初めてアンダーセンターを務め、これが柴田にとって初めてのオリジナルでのセンター曲という形になる。今作は10人での2列編成というフォーメーションとなったが、前作で初めてアンダーの2列目に立った岡本姫奈が新たにフロントに立つという形となった。
 アンダーに動いたメンバーが、特有の事情がある岩本のみだったということは「②選抜から外すメンバーを生じさせるシングルを減らす」に準じる形であったようにも思われ、6期生の加入はありつつも、選抜メンバーとアンダーメンバーの合計としては歴代最少人数を更新するなか、その減少分をアンダーが受け止める形となったことは「①選抜人数の増加」の延長線上にあるものであるといえる(この状況は長らく続いている)。

 「38thSGアンダーライブ」は伊藤理々杏がスケジュールの都合で不参加となり、9人でのアンダーライブは「史上最少人数」とキャプションを付されている36。そして前述の通り、このなかで佐藤楓の卒業セレモニーが行われることになっているが、これは3月7日の卒業発表とともにアナウンスされたものであった。

 会場であるぴあアリーナMMは楓がセンターを務めた「29thSGアンダーライブ」が行われた場所でもあり、楓自身も当時の写真をInstagramにアップし、思い出を振り返りながらライブの告知をするような場面もみられた。
 1公演のみのアンダーライブは「アンダーライブ2021」以来、このときは無観客・配信ライブであったため除くと、「23rdシングル『Sing Out!』発売記念ライブ〜アンダーライブ〜」まで遡る(シングル単位でアンダーライブが1公演のみだったのは、過去にはこれら2例のみである)。翌日には同会場で6期生の「初披露の会」が開催されることになっており、さまざまなものが去来する2日間になりそうである。

[45]メンバーの語りが埋める“分断”
——ファンの理想とグループの現実のあいだ

 “史上最速”とキャプションを付された29thシングルでのセンター抜擢ののち、32ndシングルでアンダーメンバーに合流し、1年以上の時を経た36thシングルで3列目で選抜に復帰、続く37thシングルでは2列目に立ち、38thシングルではダブルセンターのポジションに立つことになった中西アルノ。ポジションをじりじり上げていくようなこの1年間において、彼女は一貫して、そこにはファンのバックアップがあったとも語る。
 メンバーの努力とファンの応援がポジションを押し上げる。それは「選抜/アンダー」のシステムが個々のメンバーにもたらすストーリーの理念型のように思えるが、現象としてはまれなことといってよいように思う。
 状況を視覚化することを試みたので、見ていただきたい。

 これは歴代のメンバーについて、選抜の対象となったシングル数のなかで、何列目に何度立ったかを集計したものである(選抜の対象とならないまま活動辞退したメンバーは含んでいない)。メンバーの配列は期ごとに、選抜の対象となったシングル数に占める選抜回数の順に並んでいる(別シートに、選抜回数で並べたものもある。1期生には活動期間の短いメンバーも一定数いるため、こちらのほうが直感的かもしれない)。各列に立った回数は下段の数字の通りであり、赤文字は「個人内で最も多かった列」を表す。
 下段にも緑色のヒートマップを施しているが、これは絶対的な数値での比較であり、例えば1期生の「1」と5期生の「1」が同じ色になってしまう。これでは個人のポジションにフォーカスできないため、個人内での割合を求めたうえで(例えば井上和であれば選抜1列目が7分の4、選抜2列目が7分の3)、その数値を用いて作成したのが上段の赤色のヒートマップである。全体の傾向をつかむためには、上段を見ていただくのがよい。
 また中段では「経験列数」(下段に数字が入っているセルの数)を集計している。なお「列」の考え方については、アンダーが2列編成であったシングルにおいても単純に1列目・2列目としてカウントしており、3列をこえた場合について「アンダー3列目以降」にまとめる形をとっている(この場合、1列目・2列目の人数がかなり少なくなる)。アンダーメンバーについてはフォーメーションが公式に発表されない時期が長かったため、とらえ方にばらつきが生じる可能性があるが、すべて本ブログのフォーメーションまとめ記事に準拠している。

 「経験列数」でみていくと3〜4がボリュームゾーンであるといえ、5・6になると経緯が複雑なメンバーであるという印象を受ける。「すべての列を経験してきた」ことは、初めてフロントに立った13thシングルの選抜発表において衛藤美彩が自ら言及してもいたが、「6」が入っているのはその衛藤と齋藤飛鳥の2名だけである。こうしたなかで(こと3・4期生では岩本蓮加だけであるなかで)、中西アルノと小川彩の経験列数が「5」であることは目を引く。
 ヒートマップに目を移せば、どうしても選抜/アンダーの間のラインにフォーカスされがちななかで、“福神ライン”といえる選抜2列目/3列目の間に、それ以上の壁が存在するというような状況が見えてくる。選抜/アンダーのラインについては音楽番組をはじめとするメディアへの出演に影響を与える面が大きいため、多くのメンバーに経験させるインセンティブが働くようになっている一方、“福神ライン”には実質的な意味が小さいため、かえって踏み越えることが難しくなっているような部分もあるかもしれない。

 誰もがなんとなくわかっていることをなんとなく図示しただけなので、見えてくるものは曖昧かつ果てないのだが、ここでなんとなく見てとりたいのは、「シングルごとにポジションの変動は当然あるとはいえ、長い目でみたとき、個々のメンバーが走るトラックのようなものが変わることはほぼない」ということだ。
 いかにも絶望的な言い方になってしまったが、言いかえればそれは、選抜/アンダーのシステムを存置しながらも「競争に勝つことで前に行く」という世界観を実質的に無効化しているということであり、そのことは、前稿から長々と綴りながらすくい取ろうとしてきた、乃木坂46というグループがもつ雰囲気を確実に形成している。
 そしてなおかつ、それが形成されてある程度時間が経ったということもふまえてか、5期生に関してはそこからやや変化がつけられ、より柔軟な運用がなされているような印象もある。あえて雑にまとめるならば、他人と競争するのではなく、刺激を受けつつもあくまで自分と向き合って努力を重ねるマインドがグループに定着したことで、フォーメーション的にはできることの幅が広がったようにも見える(もとより「あまり競争を好まない雰囲気があり、ぎすぎすしたところがない」ことが、メンバーやファンからは美点とされてきたように思うが、それが世代を経て純化されるとともに、スタジオでの選抜発表や「プリンシパル」など、それをあえてかき立てるような行動様式がとられることが減っている、というような感じだろうか)。

 しかし、選抜/アンダーのシステムを存置するということはつまり、「前方のポジションのほうが良いポジションである」という思考のフレームを存置するということである。選抜発表のひりひりとした感じが退けられているとはいえ、「ポジションが上がることは喜ばしいこと」という価値観は揺るがされていないように思うし、だからこそ選抜/アンダーのシステムが生きているともいえるかもしれない。
 「“推し”への熱を高く保つことが[善とされる/商業的に引き出される]」一方、「高めた“熱”が、その理想とする形を帯びることは少ない」というギャップ——それを埋めるための物語が、グループの安定と発展のために重要となっているということを前述した。“推し”を定めて、その“推し”に喜ばしいことが起これ、と応援することが当たり前の行動様式とされているが、それをポジションに適用したとき、そこにはむき出しの勝ち負けが起こる。その構造的分断を小さくする、ないし覆い隠すことをグループは望んでいる一方で、その“当たり前の行動様式”が売り上げにつながるビジネスに立脚して、グループは存在している。
 そのギャップを埋めるものを提示できるのは、熱をあげる側であるファンでもないし、“構造”の側に立つマネジメントでもない。ただただ、「Ⓐメンバー本人によるナラティブ=“物語”」をおいてほかにないのだ。

 2025年3月3日、0時45分。38thシングルの選抜メンバーが発表された「乃木坂工事中」の放送直後にブログが更新されたメンバーが、先にあげた中西アルノに加えてもうひとりいた。
 5期生として唯一、アンダーのポジションを得ることになった、岡本姫奈である。

先程発表がされました。
38枚目シングル。私はアンダーメンバーとして活動させていただきます

選抜発表が終わって
アンダーのフォーメーション発表があり

自分の名前が呼ばれた時
思ったように声が出なくて。

全身が硬直して緊張していたことに気がつきました。
涙が込み上げてきそうなのをぐっと我慢しました。

全身が硬直して緊張していたことに気がつきました。
涙が込み上げてきそうなのをぐっと我慢しました。

「悔しい」って思ったんです。

岡本姫奈公式ブログ 2025年3月3日「期待 #岡本姫奈 #hinadaniblog」

 「同期メンバーに“置いていかれる”ような形で選抜入りを逃し、その感情をはっきりと『悔しい』と吐露する」という構造はわかりやすく、いかにもセンセーショナルでもあり、そのポイントを切り取るようなネットニュースの見出しも目にしたような気がする。
 しかし真に着目すべきは、これに続く語りだと思う。

期待するだけ傷ついてしまうから
いつも殻に閉じこもって
自分を守ってきた選抜発表。

皆さんが凄い熱量で応援して下さっているのが分かっているからこそ、

その期待に答えることが出来なかった結果が
苦しくて

きっと昔の私なら
次はどう頑張ったらいいんだろうって

何が足りなかったんだろうって

今も弱音を吐いて前に進めていなかったと思います。

私は誰かに慰めて貰うためにアイドルになりたかった訳じゃなくて。
誰かを元気にしたくてアイドルになりました。

今まで何度も何度も挫折してその度にファンの皆さんに支えてもらいながら立ち上がってきました。

今回も皆さんに「姫奈を応援してよかった」と心から思って頂けるように

今苦しくても
必死に前を向いて頑張ります。

38枚目シングルも
私と一緒にかけ上がってほしいです。

岡本姫奈公式ブログ 2025年3月3日「期待 #岡本姫奈 #hinadaniblog」

 ポイントは3点だ。①選抜発表に対する「期待」の淵源は、「皆さんが凄い熱量で応援して下さっている」ことであり、言いかえるならば、「ファンが選抜入りを望んでいるから、自分も選抜入りを果たしたいと考えている」ということである。そして、②「昔の私」は「次はどう頑張ったらいいんだろう」「何が足りなかったんだろう」と弱音を吐いていたが、いまは違う、ということであり、それはつまり、「明らかに何かが足りないと自分を責めているわけではないし、目標に向けた努力の道すじは見えている」ということだ。一方で、③「頑張る」の内実については明かされておらず、「今苦しくても 必死に前を向いて頑張ります。」という表現にとどめるような形で、自らの姿勢について綴られている。

 筆者が前稿を書くきっかけとなった、35thシングル選抜発表翌日の筒井あやめのブログも、構造として共通しているので、改めて振り返ってみたい。

選抜発表がありましたね
次のシングルではアンダーメンバーとして活動させて頂きます。

言葉を選ばず今の正直な思いを書かせて頂きますと、どっきどきわっくわくという感じです
文字に起こすとちょっと違う感じがしますが…

また違った場所で違った刺激を受けられるだろうなと思うとすごく楽しみです

もしかしたら悲しい気持ちになっているファンの方もいらっしゃるかもしれませんが、応援して下さる皆さんが悲しい気持ちになる事が私は一番悲しいので、
筒井はどんな風にこのシングルを過ごすのかなと皆さんもどっきどきわっくわくで見守って頂けたらなと思います!
前向きにしか捉えてないです!そこはご安心を´`

筒井あやめ公式ブログ 2024年2月19日「どんっ」

 初めての選抜入りに向けて手を伸ばそうとしている岡本と、長らく選抜メンバーとしての活動が続き、このときが初めてのアンダーメンバーとしての活動であった筒井では、動きとしては逆向きになるが、①「応援して下さる皆さんが悲しい気持ちになる事が私は一番悲しい」が、②③自分の正直な思いは「どっきどきわっくわく」で、「前向きにしか捉えてない」ので安心してほしい。アンダーメンバーとしての活動では、「また違った場所で違った刺激を受けられるだろうなと思う」。
 ポジティブかつさらっとした語り口の文章はいかにも筒井らしいが、グループとファンに対するまなざしは共通しているように思う。

 先ほど「シングルごとにポジションの変動は当然あるとはいえ、長い目でみたとき、個々のメンバーが走るトラックのようなものが変わることはほぼない」と書いた。もっといえば、ポジションにフォーカスしたとき、そこにはまったく別の役割がもたされているような、そんな感覚に至ることがある。
 グループのフロントラインに立ち続けるようなメンバーは、グループの“顔”としてあり続け、芸能界において明確な活躍をするのみでなく、ファン向けにもメンバー向けにも、グループの統合の象徴のような役割を果たす。その脇を固めるように“選抜常連組”のメンバーが存在し、安定感のある活動でフォーメーションを支えながら、それぞれの個性でグループに色を増し加える。アンダーでの活動が多いメンバーも、アンダーライブというグループの強みの一角を確実に形成しながら、ともすれば“分断”の向こうに見失うかもしれない、選抜メンバーを含めた「乃木坂46」という枠組みを保ち、グループを大きな存在としている。
 そしてその中間に、選抜/アンダーの“ボーダー”にいる、と表現されるようなメンバーがいる。実際には半々で活動しているというよりは、アンダーメンバーとして活動するシングルが多い傾向にあり(もちろん、選抜メンバーに加わればぴたりとそこにはまる)、アンダーフロントとしてアンダーライブを牽引したり、音楽番組などへの代打出演が相次いだりするケースも多い。それ自体が固有の役割であるともいえそうだが、ポジションとしては不安定、ないしあと一歩のところで留め置かれるような印象をつけられることも多く、独特の葛藤もあるように見える。そしてその“葛藤”には、内から出てくるものに加えて、筒井の言葉を借りるならば、「応援して下さる皆さんが悲しい気持ちになる事が私は一番悲しい」という思いが含まれている(そのようなものとしてはっきりと語られることが多い)。

 長らく選抜入りに向けて情熱を燃やし続けたのち、「ようやく」といえるタイミングでそれを果たしたメンバーが、選抜メンバーとしての活動のなかで壁にぶつかるというか、「選抜メンバーってすごいんだなと実感した」というような発信をする場面を、繰り返し見てきた。それはもちろんそうなのかもしれないが、グループにおいて果たしている役割が異なる以上、自らが力を発揮してきた場面と違う場面に飛び込んだら、少なくとも最初から大成功することはない、というだけのことなのかもしれない、とも思う。
 グループでの日々は確実に、いつか終わりがくる。その先にあるものは芸能界での活動ではないケースも増えてきたし、芸能界での活動をしばらく続けたのち、やはりその世界から離れる選択がなされる場合もある。芸能界で引き続き存在感を発揮していくケースも含めて、グループでやってきたことがそのまま活きる、ないし持ち越せるようなことは多くないが、活動を通して養われたものが、どちらに針路をとるとしても、個々のメンバーのなかで活きてくれればいい。そんなふうに願うことが、最近多くなってきた。

[46]グループの“物語”は続く
——14年目の“フォーメーション史”に向けて

 例によって今回も長くなってしまったが(射程とする時期でいえば前稿の10分の1くらいなはずなのに、分量としては半分に迫る)、前稿の続きとしての「13年(目)の“フォーメーション史”」としては、おおむね書き終えることができたかな、と思う。
 射程とする時期が短く、シングルでいえば3枚ぶんであることから、前稿ほどにはフォーメーションの外形的な分析は強くならなかったが、期別楽曲のフォーメーションなどについても振り返ることができ、筆者としてはおおむね満足である。

 “フォーメーション史”に加えて、本稿では“物語”をひとつのキーワードとした。フォーメーションが構造的にもたらす“分断”の状況に直接手をつけない一方で、それを解消する多くの試みがなされていることには前稿でも言及したが、その内実にもう少し踏み込むことができたのではないか、と思う。

 大人数のグループのなかで、メンバーそれぞれには異なる役割が生じる場面も多い。その総体としてのグループに成長ないし成熟を求めるのであれば積み重ねが要請され、“異なるトラック”を走り続けるような状況も生まれている。しかしそれによって生じる弊害は「Ⓑグループがもつ“物語”の多様化」、つまり本稿[42]で見てきたような期別楽曲のあり方や、ユニット曲が全体のフォーメーションから切り離されて制作されるようになったこと(この点についてはあまり詳しく見てこられなかったが)によって一定以上に軽減されているように見える。特に期別楽曲の制作は、同期が選抜/アンダーに分かれて活動することになるという構造に横串をさすような機能を果たしている。
 メンバーの加入と卒業を繰り返すサイクルが定着したなか、「Ⓒグループ卒業をめぐる“物語”」にフォーカスされることも引き続き多いが、それは個々のメンバーの歩みをたたえ、将来に向けて背中を押すにとどまらず、グループ全体に一体感をもたらす機能ももっているようにみえる。卒業コンサート/卒業セレモニーの多くは全体ライブとして開催されるし、本稿でいう「懐かしさの先」のように、全メンバーでの作品づくりがなされる場合もある。メンバーどうしの紐帯はポジションによって規定されるものではない。卒業を発表したメンバーに対して、距離の近いメンバーから「最後の活動を一緒にできなかった」と言及される場面も多く見てきたが、こうしたあり方はそれを軽減する一助となっているかもしれない。
 体当たりでグループが運営されていた時代は過去のものとなり、多くのものがシステマチックに進んでいくなかで、しかし「Ⓐメンバー本人によるナラティブ=“物語”」がクリティカルな役割を果たしていることも確認してきた。前稿からずっと、どちらかというと外形的な部分に着目しながら書き進めてきた部分も大きいが、グループの、あるいはシーン全体の主人公は個々のメンバーである、というところに立ち返ることができたように思う。しかしもう少しいえば、そのナラティブはファンに向けて発信されているものである一方で、ファンの理想に寄り添うと同時に、グループのありさまを支える両面の役割をもっている。複雑で難しい仕事だな、と、書きながら素朴に感じた。

 “物語”をキーワードとしたのにはもうひとつ、2024年の1年間で「ファンであればもう少し長いスパンで、グループないしメンバーのことを眼差すべきなのではないか」と思うような出来事にいくつか直面したから、という理由もあった。
 さまざまな騒動が報じられ、不安定な状況であった時期もあった一方で、旧Twitter・Xはいまなお重要なPRのツールであり続け、グループのニュースやメンバーのブログ更新がタイムリーに通知されるだけでなく、Xでの発信のみで活用される画像や動画も多く、ファンコミュニティでの重要性はよりいっそう増している。しかし一方で、アカウントの発信を縦で追うこともなく、あるいはリールで連ねられる情報にすら目を通すでもなく、ただ単体で拡散されるpostを、それすらろくに目を通すことなく再度拡散するようなことばかりに使われるような、SNSとしてはそんな雰囲気になってしまったな、と思うことも、日を追うごとに多くなっている。
 たった140字、4枚くらいの画像、2分くらいの動画でわかることなどほとんどないように思うが、それで何かを知ることができるような、そんなふうに思い込んでしまっている人々が多すぎるのではないか。明日のことは考えていないし昨日のことは覚えていない、そんな振る舞いが幅を利かせるインターネットに抗いたい。そんなふうに思うことは坂道シリーズを追っているときだけにとどまらないけれども、どうしても情報を得る先としてはインターネットが多くなってしまうジャンルでもあるから、特に思うところでもある(だからといってその1000倍くらいの分量を書くのはたがが外れているが、これだけ書いておけば読まれないだろう、という逆説的な感覚もあり、ある種の守りに入っているのかもしれない)。
 前稿および本稿もそうだし、歴代フォーメーション歴代卒業メンバーの記事を長らく更新し続けてきたことも、「真夏の全国ツアー」の歴代全セットリストをまとめたことも、過去すべてのライブパフォーマンスのデータベースを作成したことも、その一環である。筆者とてそのすべてにリアルタイムで立ち会ってきたわけではないが、過去・現在・未来をすべてに眼差しを向け、大切に思うことができるファンであり続けたいと思う。

 “13年目のフォーメーション史”の最後に、38thシングルのダブルセンターのもうひとり、井上和のブログも引用しておきたい。

そして
38枚目シングルの選抜発表もありましたね
今回のシングルで私は選抜メンバーとして活動させていただきます
そしてポジションは中西アルノとダブルセンターです
よろしくお願いします

いつも応援してくださる皆様
本当にありがとうございます

38枚目シングル
乃木坂46が好きだと言ってくださる皆様に楽しんでいただけるシングルになりますように
力不足なところもあるかもしれませんが
頑張ります

私とアルノは乃木坂46の良さを1番伝えやすい場所にいるかもしれないけど
みんなで頑張ってます
みんなでいいシングルにしようと頑張っています

だから
私も頑張ります

どうかよろしくお願いします

井上和公式ブログ 2025年3月3日「至誠」

 井上がグループのセンターを務めるのは3度目。「みんなで頑張ってます」 「だから 私も頑張ります」というのは、センターであるからこそ言葉にすることのできる、“フォーメーション”の本質だと思う。

 そしてグループに加入した11人の6期生も、その「みんな」に名を連ねることになる。新たな時代に突入していくといえる14年目の“フォーメーション史”がどのように展開し、どのように彩られていくのかはわからないが、この春に始まるグループの変化を見届けられることを改めて楽しみにしつつ、本稿を終えることにしたい。

 

 

 

 

 –

  1. 阪口と清宮の卒業セレモニーが行われた35thシングル発売記念配信ミニライブのコメンタリー配信(7月17日。ただし、セレモニー部分はコメンタリーなし)の配信終了画面に用いられる形で36thシングルの集合アーティスト写真が解禁され、ふたりの“卒業”の余韻の時間はしっかりとつくったうえで、急激に新シングルの体制に移行するような形がとられた。
  2. 齋藤飛鳥の“夏曲”センターは2016年の15thシングルと2018年の21stシングルであり、1年空いている。なお、「真夏の全国ツアー2019」では3都市目の京セラドーム大阪公演で「夜明けまで強がらなくてもいい」の初披露があり、「真夏の全国ツアー2021」では東京ドームでの(延期を経た)ファイナル公演で「君に叱られた」が披露されているが、これらは“夏曲”(のセンター)とはみなしていない。本稿でいう(「真夏の全国ツアー」の)“夏曲”のセンターは、「ガールズルール」の白石麻衣、「夏のFree&Easy」の西野七瀬、「太陽ノック」の生駒里奈、「裸足でSummer」の齋藤飛鳥、「逃げ水」の大園桃子・与田祐希、「ジコチューで行こう!」の齋藤飛鳥、「ごめんねFingers crossed」の遠藤さくら、「好きというのはロックだぜ!」の賀喜遥香、「おひとりさま天国」および「チートデイ」の井上和である。いっぱんに「ごめんねFingers crossed」が“夏曲”と称されることはほぼないように思うが、ここでいう“夏曲”とは、「真夏の全国ツアー」において“引っ提げて”などとキャプションを付された曲、という程度に解釈していただきたい。
  3. 楽曲の先行配信が初演の7月20日0時からスタートしたという状況で、MVの公開は8月9日まで待たれるという状況のなか、この日のパフォーマンスの模様が期間限定でYouTubeで配信され、その映像を用いて制作されたCMでシングルのプロモーションがスタートした。なお、37thシングル表題曲「歩道橋」も、選抜メンバーの発表とパフォーマンスの初披露を行う「初披露生配信」が行われ、その映像を用いてCMが制作されるなど、同様に二段構えのプロモーションが行われている。
  4. ここでは“夏をモチーフとした曲”という意味合いで“夏曲”と称している。具体的には「真夏の全国ツアー」に対応した「ガールズルール」「夏のFree&Easy」「太陽ノック」「裸足でSummer」「ジコチューで行こう!」「好きというのはロックだぜ!」「おひとりさま天国」「チートデイ」に加え、「自惚れビーチ」「スカイダイビング」「ひと夏の長さより・・・」「バンドエイド剥がすような別れ方」「ジャンピングジョーカーフラッシュ」などまで含めた概念である。
  5. 本編最後の披露楽曲は、地方公演では「人は夢を二度見る」であった。
  6. 日刊スポーツ「乃木坂46ツアー千秋楽で井上和が涙「乃木坂のためなら何だってできると思います」スピーチ全文」(2024年9月5日配信)より作成。
  7. 29thシングルおよび30thシングルでは個人アーティスト写真の新撮がなかったので、掛橋にとっては28thシングル期以来約3年ぶりの個人アーティスト写真となった。
  8. “4期生制服”は、2018年に11人が加入した際に着用したモデルと、坂道研修生としての活動を経て2020年に加入した、いわゆる“新4期生”の合流後につくり足されたモデルの2種類が存在するが、このとき着用されていたのはオリジナルのモデルのみであった。松尾美佑が当初4期生としての加入を辞退したのち、坂道研修生としての活動を経て“新4期生”として加入したという経緯があることから、オリジナルのモデルは12着が存在する(松尾は「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」のスペシャルアートワークの時点でオリジナルのモデルを着用している)。この年に開催された「12th YEAR BIRTHDAY LIVE」(DAY2、2024年3月8日)でも、清宮レイの卒業前であった一方、掛橋に加えて金川紗耶が休演していたため4期生の出演メンバーは12人であり、このときも12人ともによってオリジナルのモデルが着用されていた。
  9. 「真夏の全国ツアー2024」でも、7月開催の京セラドーム大阪公演では、掛橋の名前ののぼりが立てられていた。
  10. 「僕の衝動」は「真夏の全国ツアー2022」でも、明治神宮野球場公演2日目(2022年8月30日)でのみ演じられる形がとられている。「真夏の全国ツアー2023」では日替わりの披露に組み込まれ、全16公演中5公演で演じられたが、理々杏の出身地である沖縄での公演2日目にあてられる形がとられるなど、やはり“期待に応える”ことが意図されていたことが明確な演じられ方でもあった。なお、このときの沖縄公演1日目では「僕の衝動」はセットリストに加えられなかったものの、理々杏は開演前の影ナレを山下美月とともに務めている。
  11. 「キスの手裏剣」は「真夏の全国ツアー2022」および「真夏の全国ツアー2023」でも、明治神宮野球場公演で一度だけ披露する形でセットリストに加えられている。
  12. 「真夏の全国ツアー2022」では冨里奈央が新型コロナウイルス感染のため明治神宮野球場公演への出演がかなわず、「真夏の全国ツアー2023」では川﨑が休演となるとともに、岡本姫奈は体調不良のためグループ活動を休止中であった。
  13. 田村が体調不良のため休演した愛知・バンテリンドーム ナゴヤ公演2公演目(8月25日)では田村にかわって筒井が務めた。
  14. 「35thSGアンダーライブ」でも、3公演ともで「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」は演じられているが、このときセンターを務めたのは小川彩である。
  15. 過去にも与田は何度も「他の星から」を披露しているが、オリジナルの衣装を着用してセンターに立ったのはこのときが初めてであった(「真夏の全国ツアー2021」ではセンターを務めているが、衣装が異なる[「ミュージックステーション スーパーライブ2018」で初出の星空風の衣装])。
  16. オリジナルメンバーによる「ぶんぶくちゃがま」「あと7曲」「Never say never」「甘いエビデンス」に加え、残るメンバーは「せっかちなかたつむり」と「他の星から」で網羅された(久保史緒里と柴田柚菜が「Never say never」と「甘いエビデンス」で重複、林瑠奈が「あと7曲」と「甘いエビデンス」で重複、井上和は直後のストリングスの演奏による「ここにはないもの」ソロ歌唱のみ、同じくストリングスの演奏による「僕が行かなきゃ誰が行くんだ?」の4人はオリジナルメンバーのユニット曲あり)。「オリジナルメンバーが揃っている近年のユニット曲を披露したうえで、残るメンバーで定番曲を演じる」ような形であったといえる。
  17. 明治神宮野球場公演は“音出し”が21時までとされている(別に筆者が何らかの内部事情を知っているということではな、そのようにファンコミュニティではいわれており、事実としてそれが徹底されてもいる、ということである)。「真夏の全国ツアー2022」でもメンバーがほぼ同時刻までステージに立っていたが、このときはアンコールの最後に卒業を控えた和田まあや・樋口日奈、および“座長”の賀喜遥香がステージに残って挨拶をしたものであった。
  18. 奥田(および他の5期生)のサイリウムカラーは北野の卒業後である「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」に際して決められたものである。北野と奥田が同じステージでパフォーマンスをしたことは一度もない。
  19. 「ここにはないもの」は同様に選抜発表の模様の放送前日の初披露生配信であったが、このなかでセンターの齋藤飛鳥がグループからの卒業を発表したこともあり、選抜メンバーの発表という形式はとられなかった(楽曲を初披露したため、選抜メンバーの顔ぶれはパフォーマンスのなかで明らかになっていたが、フォーメーションの詳細などは翌日の「乃木坂工事中」#385まで明らかにはならなかった)。「Monopoly」の選抜発表の模様の放送(「乃木坂工事中」#436)は初披露生配信(「Monopoly First Live」)の前週である。
  20. 結果として、与田に加えて中村麗乃も、CDシングルとしては最後の参加作品となったが、「懐かしさの先」には参加している、という点は共通である。
  21. 井上はTeam MOON、菅原はTeam STAR。Team STARの公演スタートは4月17日から。なお、菅原はこのほかにも、前年である2023年9月号から、『日経エンタテインメント!』で連載「気さくな愛されアイドル」をスタートし(生駒里奈・梅澤美波が務めてきた連載枠を引き継ぐ形)、2024年11月4日にスタートした「週刊乃木坂ニュース」(乃木坂配信中)ではMCに就任するなど(配信スタートは副キャプテン就任発表より前の時期であるが、おそらくメンバー向けに発表された時期とほぼ重なると推定される)、グループの代表としてファンコミュニティ内外への発信を担う場面が多い。
  22. 日刊スポーツ「乃木坂46菅原咲月 週刊乃木坂ニュースMCも副キャプテンもお眼鏡にかなった『背負っていく』」(2025年2月25日)
  23. 例外は「自分じゃない感じ」「大人たちには指示されない」「猫舌カモミールティー」の3曲で、MVの制作がない期別曲としては、アルバム曲である「かき氷の片想い」「キスの手裏剣」が加わる。3rdアルバム所収の「思い出ファースト」もMVの制作がなかったが、大園桃子の卒業のタイミングで制作された。37thシングルまでに期別曲は31曲制作され、そのうち26曲にMVがあるという形である。
  24. 本項では詳しく言及しないことにしているが、櫻坂46・日向坂46についてもほぼ同様の状況である。
  25. 30thシングル以降で該当するのは「これから」「僕たちのサヨナラ」「夏桜」「懐かしさの先」「100日目」。
  26. ただし、最後の2期生曲である「ゆっくりと咲く花」についてはフォーメーションが曖昧であり、堀が明確にセンターであるとまではいえない(オリジナルメンバー全員での披露も一度もなく、特定しがたい)。
  27. 特に、同期のなかでは長身のふたりである五百城茉央・冨里奈央については、両名のセンター曲以外においては必ずシンメトリーにする形がとられており、このことにはメンバー自身も言及している。
  28. 歴代メンバーのなかでライブの場で卒業発表をしたのは、永島聖羅・斎藤ちはる・相楽伊織・能條愛未の4人のみであり、発表の場はすべてアンダーライブであった。6年以上にわたってとられていない形ということになる。
  29. 「卒業コンサート」または「卒業セレモニー」と題する単独の公演、およびライブのアンコールでセレモニーが行われるものを含む(参考)。
  30. 卒業公演扱いのライブが配信に供された端緒は「7th YEAR BIRTHDAY LIVE DAY4〜西野七瀬卒業コンサート〜」であり、このときはライブビューイングと並行しての配信であった。このほかコロナ禍以前では、「衛藤美彩卒業ソロコンサート」および、伊藤かりんの最後のライブの位置づけであった「23rdシングル『Sing Out!』発売記念ライブ〜アンダーライブ〜」がdTVチャンネルにて生配信されている。
  31. 唯一の例外が早川聖来で、「真夏の全国ツアー2023」の序盤(7会場中2会場目)である、地元・大阪公演において卒業セレモニーが設定され、生配信が行われなかった。ただし、早川の卒業日(23歳の誕生日)である2023年8月24日に、のぎ動画での動画配信がスタートしている。
  32. 卒業メンバーがステージに登場してパフォーマンスした直近の例が「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」であり、このほかはさゆりんご軍団関連(「さ~ゆ~Ready? ~さゆりんご軍団ライブ/松村沙友理 卒業コンサート~」にすでに乃木坂46を離れていた伊藤かりん・佐々木琴子・中田花奈が「さゆりんご軍団ライブ」部分のみに出演したことと、「23rdシングル『Sing Out!』発売記念ライブ〜選抜ライブ〜」で披露された「さゆりんご募集中」に、2日前にグループを卒業したばかりの伊藤かりんが出演したこと)を除けば、「2nd YEAR BIRTHDAY LIVE」のアンコールに岩瀬佑美子と宮澤成良が登場した例まで遡る(「真夏の全国ツアー2019」千秋楽公演で行われた桜井玲香の卒業セレモニーには若月佑美が登場したが、場内を一周している桜井に花束を渡した形であり、ステージには上がっていない。また、「鈴木絢音卒業セレモニー」には卒業した2期生が登場したが、パフォーマンスは行っていない)。そのような行動様式とっていない(AKB48グループやハロー!プロジェクトなどとはOGとの対し方がやや異なる)坂道シリーズにおいて、そのトーンを維持しながら“サプライズ出演”を特別なものとして組み込む点に、「成し遂げた」と表現できるだけの意義があるように思う。
  33. 本稿では向井の卒業にかかわる部分についてあまり記さなかったが、これについては別途noteにて記述している(本稿で改めて書かなかった背景となる事項についても言及している)ので、よろしければお読みいただきたい。→「もしもあなたが、そこにいるならば(向井葉月と“乃木坂46”・完結編)
  34. 33rdシングルよりスタートした「リアルミート&グリート」であるが、愛知県での開催は過去には36thシングルのみであった。
  35. 2月5日に春組のティザームービーが公開され、2月6日からの5日間で春組メンバーが発表され(矢田萌華、瀬戸口心月、川端晃菜、海邉朱莉、長嶋凜桜)、1日空いて2月13日に夏組のティザームービーが公開され、2月14日からの6日間で夏組メンバーが発表された(森平麗心、愛宕心響、大越ひなの、鈴木佑捺、小津玲奈、増田三莉音)。
  36. 10人というアンダーメンバーの人数は23rdシングル・31stシングルと並んで史上最少タイであり、アンダーライブに臨む人数としては単独で史上最少という形となる。ただし「31stSGアンダーライブ」には、北川悠理がけがにより休演した公演があるため、このときは9人で臨まれている。
(お知らせ)

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[更新情報(最新のライブデータ)]

  • 乃木坂46:新参者 二〇二五 LIVE at THEATER MILANO-Za(2025年11月17日)
  • 櫻坂46:新参者 二〇二五 LIVE at THEATER MILANO-Za(2025年11月14日)
  • 日向坂46:新参者 二〇二五 LIVE at THEATER MILANO-Za(2025年11月16日)
文章系文章系(1_乃木坂46)
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