2021年7月17日。今日は、北野日奈子の25歳の誕生日だ。
北野の誕生日にあわせてブログを書くようになってから、もう3年目になる。筆者が北野のことを知り、追いかけるようになったのは5年前の夏のこと。あのときの自分の年齢に北野がなったのかと思うと、なかなかに感慨深い。
今年もお祝いを兼ねて、彼女のこの1年間を振り返ってみることにしたい(今年1月に書いた記事「白いガーベラの咲く星(乃木坂46・北野日奈子と「アンダー」の現在)」とも、出来事としては重複するものもあるが、「この1年間」にフォーカスするものとして、改めて書いていくことにする)。
長かった“25thシングル期”
1年前の今ごろがどのような時期であったかというと、1回目の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が解除されて少し経ち、「乃木坂工事中」のリモート収録回の放送がちょうど終わった頃であった1。各種メディアが新様式を取り入れながら再始動していく一方、人を集めるイベントに対する警戒感は引き続ききわめて強く、有観客公演の再開の見通しは立たない状況であったが、無観客・配信形式でのライブが積極的に試みられているようになっていた2。緊急事態宣言の発出は4回にわたり、現在に至るまで試行錯誤は続けられているが、「自粛」一辺倒ではなくなってきていた頃、といえるだろうか。
乃木坂46としては、2020年5月25日にMVが公開され、国内では6月17日に配信リリース(国内)された「世界中の隣人よ」に続くデジタルシングルとして、7月24日に「Route 246」をリリースした。全メンバーに卒業メンバー11人を加えた特別な体制で制作された「世界中の隣人よ」と異なり、「Route 246」の歌唱メンバーは18人。26thシングルの体制に移行するまでの暫定の選抜メンバーの色もあったこの歌唱メンバーに3、北野はフォーメーションでいえば3列目で名を連ねることとなった。白石麻衣の誕生日である8月20日には、延期となっていた卒業コンサートが配信ライブの形で10月28日に開催されることが告知され、グループにとっては、これが無観客・配信形式での有料ライブを行う端緒となる。また、9月9日にはMV集「ALL MV COLLECTION2~あの時の彼女たち~」がリリースされたが、ここには新規制作のMVとして、前述の「Route 246」に加え、未音源化の2期生楽曲「ゆっくりと咲く花」も収録された4。
北野についてさらにいえば、この時期にペットメディア「sippo」にインタビューが掲載され5、ファンにもなじみ深い愛犬のチップがクッシング症候群を発症し、併発した糖尿病によって両目を失明してしまっていることを明かしたほか、動物介護士の資格を取ろうとしていると語るなど、普段とはいくぶん角度の異なる発信がなされることになった。このほか、この時期には9月6日に「らじらー!」、10月7日には「乃木坂46のオールナイトニッポン」、10月11日に「乃木坂46の『の』」に出演、「乃木坂工事中」にもスタジオメンバーとしてコンスタントに出演するなど、グループの活動を追うなかで北野の姿に触れることの多い時期であったという印象がある。
26th選抜発表放送を控えて
26thシングルの選抜発表が「乃木坂工事中」で放送されたのはもう少しあとの時期(11月15日放送の#284)ということになるが、収録(=メンバーに向けての発表)は9月であったという6。前稿でもさんざん書いた通りであるが、この時期に前後して、北野はシングル3枚分にわたって立ち続けてきた選抜メンバーの位置から離れていたということになる7。選抜発表の放送翌日に投稿されたブログには「もう前を向いているので」と綴られていたが、まさにこの時期が「前を向く」ための葛藤の過程であったといえるだろうか。
そうしたなか、10月28日に開催された白石麻衣の卒業コンサート「Mai Shiraishi Graduation Concert ~Always beside you~」は、白石が全23曲にオリジナルメンバーとして参加し、さらにフォーメーションダンスでは一貫してセンターポジションに立つなど、卒業コンサートとしても空前のセットリストで展開された。序盤には各期のメンバーが、当該期のメンバーが最初に参加したシングル表題曲8を白石とともにパフォーマンスするパートが設けられ、後輩メンバーから白石にメッセージが送られる場面があった。2期生としては堀未央奈と伊藤純奈、そして北野もここに加わった9。「白石さんの小さく震える手をいつか握り返せるように、強くなりたいと思っています。どんなときも2期生の味方でいてくださり、ありがとうございました」。北野は声を震わせながらそう語った。
あくまで筆者の印象にすぎないが、北野はライブのMCなどで思いを表現する場面において、相当に言葉選びを考え抜いてから臨む傾向が強いように感じる。「小さく震える手を握り返す」というのも、ポエティックに心を打つ表現であると同時に、それ以上に何らかの背景があってのものなのではないか、という直感があった。事実、北野はその背景について、ライブについて語られたインタビューで説明している。
——白石さんの卒業ライブで北野さんが発した「白石さんの小さく震える手をいつか握り返せるように強くなりたいと思ってます」には鳥肌が立ちました。
北野 休業を経て、初めて『ミュージックステーション』(テレ朝系・18年12月21日)に出演することになって。マイクを付けている時、白石さんに「久し振りだよね。頑張ろうね」と優しい言葉をかけていただいたんです。そして本番直前に舞台袖で待機していると、前にいる白石さんを見たら手が震えていて。その時は、私も自分の心臓の音が全身に響くほど緊張していて何もできなかったけど、「いつか白石さんの手を握り返せた時、私が乗り越えたことを実感してくれるんだろうな」と思ったんです。その日から、白石さんの前では「北野日奈子は強くなった」と思われるような行動をとってきたつもりだけど、震える手を握り返せるほど強くはなれませんでした。でも、卒業ライブで約束したので、いつの日か強くなった私を見せたいと思っています。
(『EX大衆』2020年12月号 p.16)
北野さんのメッセージ、素敵でしたよ。中でも「どんな時も2期生の味方でいてくださり、ありがとうございました」という言葉が印象的でした。
「私がアンダーだった頃『アンダーメンバーも乃木坂46だ!』と声を大にして言ってくれたのが白石さんだったし、私が休業した時もすごく気に掛けて声を掛けてくださいました。あと、3期生が加入して最初のバースデーライブだったかな? いろんな場面で3期生が抜擢されたことで逆に2期生の出番が減ってしまって、みんなで落ち込んでいたことがあったんです。でもリハーサルで待機している私たちのところに来て、『2期生、ものすごく良いからね! もっとわがまま言っていいんだからね!』って言ってくれて。……すごく忙しいはずなのになんでそこまで気付くの!? って思ったし、そういうことがこれまでにもたくさんあって。白石さんってみんなの心の中の違和感を代弁してくれる方なんですよ。乃木坂46全体としても、そしてメンバー1人1人にとっても、すごくたくさんの影響を与えてくれた先輩だったなと思います」。
(『blt graph.』vol.61[2020年11月18日発売] p.23)
北野自身の心持ちからくるものとして、印象的に用いられているように思える「握り返す」という表現。こちらがあまり勘ぐるのも野暮という気もするが、それはおそらく、白石はいつも、自らの手が震えるようなときでも手を握ってくれていて、その前提があるからこその「握り“返す”」という言葉選びなのだと感じた。あまりにも偉大な背中を、それでも追う。自分のやり方で。北野のたたずまいは、そんな決意にあふれていた。
26th選抜発表と折り重なる思い
先に引用した2点のインタビューは、「乃木坂工事中」での26th選抜発表の放送とほぼ同時期に発売されている。白石麻衣の卒業コンサートなど、表に出ているホットなトピックについて語られた場面が多く、当然26th選抜については語られていないのだが、そのなかにあって、「選抜」というものに対しての思いが、一歩引いたような形で語られる場面もあった。あけすけにするわけではなくても、思いをすべて包み隠すわけでもない。北野はそんなまっすぐさを常にもっているひとだ。こうした時期にインタビューが収録され、彼女の言葉が紙面に乗せられたことは、すべてが偶然の所産ではないようにも感じられる。
「福神に入って乃木坂46を表現したい」という気持ちがずっとあったし、ファンの方も望んでいるだろうけど、私が乃木坂46にいる理由はそうじゃなくて、後輩たちが自分の色を好きに出せるように「私は味方だから」と言ってあげることなのかなと思ったんです。
いまの私は自分の色を見せるんじゃなくて、乃木坂46の軸になりたい。真ん中で軸として踏ん張っても、前からは見えないし、光は当たらないかもしれない。だけど、それがやるべきことなんじゃないかと思うんです。……(後略)」(『EX大衆』2020年12月号 p.16)
先ほどもおっしゃっていたように、今は後輩を守りたい、支えたいという思いのほうが強い?
「とは言っても、“世代交代”とかいわれたら『いやいや私たちだって現役だし!』って反発したくなりますけどね(笑)。自分のファンの方たちに恩返しをしたいから選抜に入りたい、という気持ちもあります。でも私にとって、それよりも大事なのは乃木坂46がずっと続いていくこと。だから、私が目指すのは“福神”というよりは乃木坂46の“軸”です。“軸”ってなかなか前からは見えないかもしれないけど、『そこにきいちゃんがいるなら乃木坂46は大丈夫だね』って思ってもらえる存在になりたいし、そういう役割を楽しめる自分でもいたい。あと、後輩たちが向かい風にさらされたときは私がパッと前に出て『私が風を受けるから、みんなは自信を持って顔を上げてがんばって!』って言いたい」。
(『blt graph.』vol.61[2020年11月18日発売] p.23)
この時期の北野について考える上で、「乃木坂46の軸」というのは、ひとつキーワードにしてよいように思う。グループを支える。光が当たらなくても踏ん張る。そして、ぶれずに「そこにいる」。彼女なりのそんな決意が込められた言葉なのだろう。
選抜発表の放送翌日のブログでは、このように綴られてもいた10。
今どこにいたってやるべきことって同じだ私はこの思いを心に掲げて気持ちを強く保とうと頑張っています、皆さんにいい報告ができるように頑張らないと!乃木坂46には選抜メンバーとアンダーメンバーがあって、みんなで乃木坂46です。アンダーメンバーの存在があって選抜メンバーの存在があるし、もちろん逆も。お互いが存在するためにはお互いが必要不可欠だと思います。アンダーという場所も選抜という場所もとても大切に思っているし大切にしていますいつもいつもありがとう皆さんからの愛情はちゃんと受け取っています温かい言葉で溢れる私のこの場所はとても大切で大事な居場所です
「今どこにいたってやるべきことって同じだ」。いまさら語るまでもないことだが、「アンダー」の2番の歌詞のフレーズである。選抜メンバーからアンダーメンバーへの移動ということでいえば、北野にとってはあの夏の18thシングルのとき以来ということになる11。悔しさも悲しみも表現して、なんとか前を向こうとした過程も見せた上で、前向きなメッセージでまとめる。そうやって北野がつむいだ言葉を素直に受け入れたい気持ちが、当然筆者のなかでも強かった。しかし一方で、あの夏のことを忘れることはできないし、あのときも北野は同じように、変わらないまっすぐさで戦っていた12。こんなことでは彼女に申し訳ないとも思っていたけれど、どこか危うさのようなものも感じずにはいられなかったことを書き残しておく。
また、11月27日には堀未央奈が自身初のソロ曲「冷たい水の中」のMVのなかでグループからの卒業を発表しているが、彼女の卒業がメンバー向けに正式に告知されたのは、この選抜発表の場でのことであったという13。近しい関係である北野は「ずっと前から聞いていた」(北野日奈子公式ブログ 2020年12月22日「一番好きなものを離さないで」)ということであるが、同期で同い年、支えあうしかなかった時期も、距離ができたという時期もあって、お互いを「ライバル」とも認め合う関係であった堀の卒業が、この選抜発表を機にさらに現実味を帯びて近づいてくることになる。「最後の活動が一緒じゃなくてごめんね」(同)。そんなこと言わなくていいんだよ、と思うし、そんなこと言わせるなよ、とも(六番町の方向へ)叫びたくもなる。でも、それをあえてきちんと言葉にするところが、やっぱり北野日奈子だな、とも感じた。
私の色々な場面でのきっかけにはいつも未央奈がいたと思います。
未央奈のすぐ後ろを走ってその背中を見ていた頃はがむしゃらだったし
未央奈の横顔をみて肩を並べて走っていた時期は未来に期待が溢れて希望を見て楽しかったよね。
私が休業した時はどう感じてたのかな?私は勝手に責任を感じているから、復帰してから今もずっと誰よりも強くあろうとしてるよ!もう少しだけ同じ時間を過ごせるから
そのもう少しだけの時間でみる色々な景色を同じ気持ちで見られたらいいなって思います大好きだよ!未央奈!
それから最後の活動が一緒じゃなくてごめんね
違う場所でお互いがみる大好きな乃木坂について
また話そうね、みおが卒業する頃にでも!
アンダーライブ2020、彼女が負ったもの
堀が卒業を発表した翌日の2020年11月28日には、「アンダーライブ2020」が12月18-20日の日程で開催されることが告知された。「Mai Shiraishi Graduation Concert ~Always beside you~」に続く無観客・配信ライブとして、「4期生ライブ2020」(12月6日)の開催が告知されてもいるという状況にあって、「アンダーライブ2020」はグループとしては「8th YEAR BIRTHDAY LIVE」(2020年2月21-24日)以来の有観客での公演として行われることとなった。会場は日本武道館。25thシングルにはアンダー曲がなかったということも重なり、1年以上ぶりのアンダーライブともなった。北野にとっては、アンダーセンターを務めた22ndシングル期の武蔵野の森総合スポーツプラザでの関東シリーズ(2018年12月)以来、ちょうど2年ぶりのアンダーライブ。初めてアンダーセンターを務めた阪口珠美を、フロントの位置で支える役割を担った14。さらに北野はライブの2日目でMC全体の進行役となるなど、目に見える部分でもライブを支えていた。
このときのセットリストは、アンダー楽曲を30曲すべて披露するというコンセプトであった15。前回の「アンダーライブ2019 at 幕張メッセ」も近いコンセプトであったが、演出には大きく変化がつけられていた。北野以外のメンバーはこのときのアンダーライブも経験していたということでもあったが、3日目がノンストップライブの形であったことをふまえると、挑戦的なセットリストであったともいえるのではないだろうか。前回との比較でいうと、センターを務めた岩本蓮加と、この間に卒業した中田花奈がアンダーライブを離れた形でもある。アンダーライブを前列で担った時期も長く、選抜メンバーとしての経験も豊富である北野の存在が、ライブをパワーアップさせた部分もあったはずだ。
そのなかにあって、北野はオリジナルの「日常」と「アンダー」に加え、「君は僕と会わない方がよかったのかな」においてセンターを務めている。前稿にも長く書いたので詳細はそちらに譲るが、「アンダー」で阪口が北野とともにセンターに立ったこと(北野が中元日芽香以外のメンバーとともにこの曲のセンターに立ったこと)と、「君は僕と会わない方がよかったのかな」で北野がセンターに立ったことはいずれも初めての出来事であり、筆者にとってはかなり印象深かった。「アンダー」がセットリストの1曲目となったこと(1日目、3日目)や、2日目に流された北野・阪口・鈴木絢音による対談のVTRにおいて、北野がこの曲に対峙して経験した「葛藤」を語った場面は、このときのライブに北野がいたからこそ作られた歴史の1ページであった。さらにこのVTR中には、あの夏に泣きながら「アンダー」をパフォーマンスした北野の姿が差し挟まれてもいた。彼女の笑顔も強いまなざしも、このライブではしっかり見ることができたが、それは決して当たり前のものではない。3年以上の長い時間、北野の歩んできた道のりのことが思われた。
彼女らしい明るさと強さを素直に表現して演じられた印象のあったステージであったが、北野はその直後、このときのアンダーライブに向き合うにあたっても苦しんだ部分があったことを書き残してもいる。
今回のアンダーライブには
何から向き合っていいのかわからなかったのが、最初でした。いつも泣きそうになりながら練習して、こんな気持ちのままやっていたらダメだと思いながら鏡に映る自分の姿をみることができなくて、何がダメなんだろうとか、なにをしたらいいんだろうとか自分の事がわからなくなっていたけど、今の私を見てくれている家族が友達がファンの方が、そのままの私が好きだと言ってくれるから、私は私が好きなみんなを幸せにしたいんだと気づきました。どこにいてもやるべきことは同じだ、わかっていても心が折れる時もあって
でも揺らぐことのない大事なことをいつでも心に留めておけば
また頑張るために立ち上がれるから
この先きっと皆んなそれぞれに色々なことが起きるかもしれないけど、私は誰かのためにみんなのために皆んなと心を通わせたいと思いました。
前稿ではここから、選抜/アンダーをめぐる苛烈な歴史に翻弄されてきた北野の歩みに思いを馳せたが、いま改めて読み返すと、苦しみも含めた自らの思いを選び抜いた言葉で伝えてくれた北野のありさまに目が行く。「苦しかったけど、もう大丈夫」。「これからはこうありたい」。アイドルである以上、あるいは「強くなりたい」という決意もふまえて、彼女はいつもそのように発信する。前稿に書いた「見届ける」しかない、息をのんで見ているしかない、という感覚は、きっとそういうところからも生じているのだと思う。現在進行形ではないが、しかし「アイドル」がもつベールを1枚脱いで、生き様を見せてくれているということでもあろうか。これからの彼女の肉声に耳をかたむけていきたいし、あくまでその総和として、北野日奈子というひとをとらえていきたいと思う。
堀未央奈の卒業と2期生ライブ
アンダーライブが終わってからは、「世界中の隣人よ」での日本レコード大賞優秀賞の受賞、「Route 246」での紅白歌合戦への出演などがありつつ、あっという間に2020年が終わっていった。年が明けて2021年1月27日には26thシングルが発売されたが、これに先立つ1月21日には「9th YEAR BIRTHDAY LIVE」が無観客・配信形式、さらに日程を分散して開催することが発表された。デビュー日当日の2月22日の「前夜祭」を経て2月23日に開催された「9th YEAR BIRTHDAY LIVE」の最後では、3月28日に2期生ライブ、3月29日に1期生ライブが開催されることが告知され、2期生のオーディション合格から8年の記念日に行われるこの2期生ライブが、堀未央奈の最後のステージになる旨の言及もなされた。
この「9th YEAR BIRTHDAY LIVE」についてもう少し言及すると、全メンバーが期ごとに登場した「ぐるぐるカーテン」で始まり、2チーム編成でかわるがわる表題曲を披露したパートがあったあと、期別の編成で3曲ずつが披露され、1年間を時系列で振り返るパートが設けられるという、盛りだくさんの印象があるセットリストであった。そこから再び、締めの表題曲のパートに移ったのだが、この直前に差し挟まれた形であった「いつかできるから今日できる」が、北野の存在という意味では印象に残っている。メンバー編成は26th選抜+北野という形であり、それは北野がオリジナルメンバーであるからということでもあるのだが、オリジナルの19人のうち卒業メンバーと現選抜を除くと北野しか残らないということに、彼女の立場の特異さが思われた16。
2期生によるライブに関しては、2017年7月1-2日の明治神宮野球場公演が期別のパートをメインに展開された際に17、2期生がMCで開催したいと表明していたなどの経緯があったものの(少し前に3期生の単独ライブが開催されていたという背景もあった)、長らく実現をみることはなく、相楽伊織と伊藤かりんの卒業を経たあとの2020年3月7日に「『乃木坂46のオールナイトニッポン』presents 乃木坂46 2期生ライブ」として開催が予定されていたがコロナ禍で中止に追い込まれて「幻の2期生ライブ @ SHOWROOM」に代替され(なおかつ北野がインフルエンザで欠席している)、さらに佐々木琴子の卒業を経たのちに、ようやく実現したということになる18。2期生の象徴ともいえる堀がグループを卒業するというこのタイミングはまさしく最後のチャンスであったともいえ、メンバーとしてのキャリアを通して「2期生」へのエンパワーメントの姿勢を崩さなかった堀の尽力が実を結んだといっても差し支えないのではあるまいか。2期生ライブ当日において、アンコールでひとりひとりから堀にメッセージが送られたときにも、北野が2期生によるライブが実現したことについて「やりたいと言い続けてくれた未央奈の言霊」と称する場面があった19。
8年間という時間のなかで、さまざまな経緯や思いはありつつも、堀を中心に独特の一体感を示してきた2期生。積み重ねてきたものは失われることはないし、メンバーどうしの関係をみれば変わらないものも多いのかもしれない。しかし一方で、この日は彼女たちが新たなフェーズに進んでいくための、象徴的な区切りとなったといえるだろうか。
「今日の日奈子はなにしてるんだろうな」
大きなライブがコンスタントに続いた時期ではあったが、率直にいうと、この時期は少しだけ、北野がわれわれから遠ざかったような印象を受ける期間でもあった。シングルの期間が26thに切りかわっていく一方で、新型コロナウイルス緊急事態宣言の再発出もおそらく重なって、「乃木坂工事中」で北野の姿を見ることが急に減ったことがある程度作用しているだろうか。しかしそのなかにあって、2021年1月31日に最終回を迎えた「乃木坂46えいご」にコメントVTRを寄せたことと20、3月24日発売の『週刊少年マガジン』でソログラビアを飾ったことは特筆すべき出来事であった。
筆者個人としてはまだ堀の卒業を実感しきれないでいた頃であった4月18日には、27thシングルの選抜発表が放送される(「乃木坂工事中」#305)。過去の例からいくと26thシングルの期間は決して短くはなかったのだが、コロナ禍でしばらく選抜発表がなかったことや、26thシングルの配信ミニライブ(3月25日)からあまり日にちが経っていなかったことなどもあって、「あっという間に次の選抜発表がきた」という印象があった。27thシングルにおいて、北野は前作に引き続き、アンダーメンバーとして活動することになった。
放送終了とともに、北野のブログが更新された。選抜発表に対する向き合い方はメンバーによってさまざまで、強くメッセージを発するメンバーも少なくはないが、北野はその筆頭にいると称していいだろう。しかし北野のメッセージには、従来より少し違ったトーンがあった。
北野日奈子です
27枚目シングルは
乃木坂46のアンダーメンバーとして活動しますどういう気持ちを皆さんに伝えたらいいのか
どういう気持ちで私はいなくてはならないのか
毎回選抜発表をされた後は
皆さんのことをいつもよりずっと多く考えます今回の選抜発表を受けて私は
いつもみたいにドキドキはしたけど
ドキドキで苦しくなることはなかったです。いつもは一生懸命平然を装って苦しくなる自分を隠していたけど、今回は初めての感情でした。
選抜発表に際して、以前とは違い「俯瞰した場所から自分を眺めているような」感じがあり、そんな自分を分析したところ、「表題曲を歌う選抜メンバーを目指すことがあるべき姿だ」という「根本的な価値観が変わった」のだという。そこには前回の26th選抜発表を受けて書かれたブログに寄せられたコメントの力があったといい、それをふまえて頑張ってきた期間を経て、「違う形に進化してなりたかった自分を超える自分になる」という思いに至った、と綴った。
ここであえて具体的に振り返っていくことはしないが、北野は選抜メンバーというものに対して特に強い執着をもち、それを表現してきた時期の長いメンバーである(それは彼女のパーソナリティそのものによっている部分もあるし、かつ選抜とアンダーを何度も往来してきたという境遇による部分もあるだろう)。それをふまえて考えると、これは衝撃的な出来事であった。まさに「根本的な価値観が変わった」ということだろう。しかし北野はまた、そんな新たな自分に対しての戸惑いのようなものについても、率直に表現している。
中々表に立つ機会もなく、今日の日奈子はなにしてるんだろうな~と思う日もあったかと思います
自分なりにやりたい事や伝えたいことを
発信できないか考えたりはしてるから
それをちゃんと現実でできるように努力します!客観的に見て私のことは応援しにくいと
やっぱり感じるけどね、、、笑
皆さんがどうやって私を応援してくれているか分かっているから、そこはやっぱり申し訳なく思ってしまいます
だから、私も皆さんのことを支えたいし応援したいって思います
私の夢だけじゃなくて皆さんの夢も一緒に横に並べて皆でそれを掴みにいこう!
一緒にがんばりましょう
「今日の日奈子はなにしてるんだろうな」。もやもやと考えていたことをなんだか見透かされたようで、少しどきっとした。応援しにくいとはあまり感じたことはないけれど、わかりやすいメルクマールは確かに少なくなっているのかもしれない。そのなかにあって、「夢を一緒に並べてみんなで掴みにいく」。われわれが抱いている北野への愛着を、目に見える紐帯として表現してくれる彼女の言葉には、独特の温とさがある。
「温度をあわせる」こと
いつ頃から強く感じるようになっただろうか。北野はわれわれと、気持ちの温度のようなものをあわせるのがすごく上手である。選抜発表後、真っ先にブログを更新することもそのひとつだ。アンダーメンバーとして活動することについて、北野が考えていることは確かに知りたいと思う(できればタイムリーに)。「皆さんがどうやって私を応援してくれているか分かっている」というが、まさしくそういうことなのだろう。
楽曲「アンダー」への言及や取り扱いにも、特にここ最近は、筆者自身の感じ方とぴたりと重なるような温度があるように感じている。この1年間において披露されたのは「アンダーライブ2020」においてのみであるが、それ以外にも北野があえてこの曲に言及した場面がいくつかあった。「アンダーライブ2020」2日目のVTRにおいては、「もう考えないで」、そのときの思いを表現するようにしたいと語り、以前とは少しトーンが異なる印象を受けたが、2021年1月11日のNHK-FM「今日は一日“乃木坂46”三昧」において思い入れのあるアンダー曲を尋ねられた際には、自ら「アンダー」を挙げた。最初は「自分のコンプレックスのひとつになってしまった曲」であったと言及し、その上で「それを乗り越え、いまではその曲のセンターをやっていることにすごい誇りを持って、大切に毎回歌っているので、みなさんにとっても大切な1曲になればいいな、と思います」とした。筆者としては、「日常」などを挙げてもよかったのにと感じた覚えもあり、楽曲と向き合う姿勢として、あえて「アンダー」を挙げたという印象を受けた。
さらに、その後の2期生ライブ(3月29日)においての「アンダー」の扱い方は、彼女の姿勢がバランスよく現れた、出色といえるものであったように思う。ライブの前半に設けられた「全員センター」のブロックにおいて1人目に登場した北野が選曲したのは21、メンバー人気も高いオリジナルのセンター曲「日常」だった。このブロックではさらに、ひとりひとりが選曲の理由や楽曲への思い入れについて語る場面も設けられた。パフォーマンス前に単独で画角に現れた北野は、「強さを教えてくれた曲」として「日常」について触れる前に、「ひたむきに努力することの大切さを教えてくれた曲」として「アンダー」に言及した。自分らしさに苦しんだ時期について「すれ違ういろいろな感情のひとつひとつに目を向けていたら、いつしか自分のことが分からなくなってしまいました」と振り返った上で、心に寄り添って、大切な場所に呼び戻してくれたのは同期であったと述べ、「新しい感情を知るときは、いつもみんなが側にいてくれました」とした。そして「日常」に触れ、「いつもの日常じゃなく、新しい世界を見に行きたい」と思うようになったとして、歌詞に重ねて「勇気を出して、私は途中下車をして、変わらなくてはならないと思います。そこにはきっと、自分が信じている世界があるから。私は、前だけを向いていきます」と語った22。この場面のBGMとして選択されたのは、「アンダー」のインストゥルメンタルアレンジであった。この日のメンバーやセットリストには確かにこの楽曲はなじまず、パフォーマンスされなかったというのは自然なことと感じられる。しかし「アンダー」という楽曲を「大切な1曲」として扱い、自らが過ごしてきた日々を語る上で切り離さない。支えてくれた同期への感謝とともに、センターとしての誇りがにじんだ。
気持ちの温度をあわせることについては、「アンダー」の扱いに限るものではない。グループにとっての動きがさらに続いたここ最近において、「北野日奈子がこのことについてどう思っていて、どう言葉にするのかが気になるな」と思ったときには、決まってタイムリーに発信がなされている印象がある。4月15日には松村沙友理がグループからの卒業を発表したが、北野は翌日の「のぎおび」に出演し、松村とかつて卒業について話した思い出や、感謝をこめて送り出したい気持ちについて語った。4月29日にはInstagramの個人アカウントを開設し、写真ばかりでなくブログやモバイルメール、755とはさらに異なる形で言葉を発信する場となっている。5月16日の伊藤純奈と渡辺みり愛の卒業発表に際してはすぐにモバイルメールを発信したほか、Instagramでも「二人には本当に支えられていました!」としてメッセージを送った。7月4日にグループからの卒業と芸能界引退を発表した大園桃子については直後に755に投稿し、思い出のエピソードを紹介しつつ「これから先輩後輩の壁をなくして友達になれる」と、明るく前向きな発信をした。
北野は決して、ファンに対する発信の量が(相対的に)多いわけではないと思う。モバイルメールは週に数通くらいで、ブログや755、Instagramについても、同世代のメンバーと比べても、少なくとも数だけを見れば、頻繁に投稿しているわけではない。しかしそれはおそらく、自分の温度ができるだけ感じている通りに伝わるように、心を砕いているからだということも伝わる。もう少しいえば、北野はそれが常時さらっとできるような器用さで生きているタイプではない。でもだからこそ、伝わってくる温度があるのだ。
心で思っている気持ちの温度が
そのまま皆さんの心に届いて私の温度が伝われば
もっと上手に真っ直ぐに届くのにと
気持ちを言葉にする難しさを感じます私の想いが1つもかけることなく皆さんに
届くように私はできるだけ言葉に文字にしていきますね
新たな自分と新たな役割
2021年5月26日には無観客・配信形式で「アンダーライブ2021」が開催され、北野にとっては初めてアンダーセンターを務める同期・山崎怜奈を支えつつ、卒業前最後のライブとなる伊藤純奈と渡辺みり愛を送り出す立場としてステージに立つことになった。「日常」の激しいダンストラックだけでなく、2期生メンバーによる「Out of the blue」ではセンターを務め、渡辺みり愛とともに「まあいいか?」をパフォーマンスするなど、北野のキャラクターのひとつであるポップさもいかんなく発揮する場面がみられたが、メンバーひとりひとりから伊藤純奈と渡辺にメッセージを伝えたアフター配信においては進行役を担ったほか、ライブ序盤のVTRにおいては5か月ぶりのアンダーライブに向けた意気込みとして「自分の成長のレベルは最高まできている」とした上で「自分が成長するというよりも、みんなを支えたい」と言い切るなど、グループを支える使命感も感じさせる場面も散見された。
こうした北野の姿勢や発言については前稿からずっと書いてきたところで、26thシングル期からよりいっそう強まったと感じていたが、このライブを終えたあとになって、彼女はこのようなことを語ってもいる。
「(前略)……いろんな人と話していて思ったのは、私は“一生懸命がんばる場所”がないと生きていけない人間なんだなってことなんです。今の私は選抜メンバーにもこだわらなくなったし、本気で乃木坂のみんなを支える存在になりたいと思っているので、その意味でも新しく自分が“一生懸命がんばる場所”を探したい。そんな25歳の1年にしたいです。実は、去年のアンダーライブの時も、『みんなを支える存在になりたい』って言っていたんです。でも、今考えるとそれは本当の本心じゃなかった。選抜に選ばれなくて、アンダーメンバーとしてライブに出る自分に対する言い訳にして強がるために、自分を守るために『みんなを支えたい』って言っていたんです。でも、今は本当に心から『みんなを支えたい』と思っています。意識しなくても、自然にメンバーを支えるような行動をしていることに気づいてから、今の私は心からみんなを支えたいって思っているんだなって感じました」。
(『B.L.T.』2021年8月号 p.113)
近づきつつある25歳の誕生日に向けて自らのあり方を語った文脈であったが、発信してきた言葉と内心との乖離について述べられている。たぶんそのときだって本心を隠していたというつもりはなくて、発すべき言葉を考え抜いた結果そうなったというだけだろうと思う。しかしそこに乖離があったのだとするならば、それがおそらく、当時の彼女に対して少しばかり感じていた危うさのようなものだったのかもしれない。迷い悩む過程を目にする苦しさもあるが、それが率直に語られたことについては信頼感もある。
「選抜メンバーにもこだわらなくなったし」というのは、ニュアンスとしてはこれまでにも表現されてきたものであるが、驚くほど端的に言い切った発言でもあった。しかしそれは当然、彼女が戦いをやめるということではない。「自分が今までしてきた経験を、後輩たちにしっかり伝えること」(同上)を自分の役割とするという思いが語られ、それは近年彼女が繰り返してきたことだが、加えてさらに「昔の私はすごく負けず嫌いだったんですけど、今は負けず嫌いじゃなくなったんです。それはきっと、負けたくないと思う相手が他人じゃなくて自分自身になったから」(同上)とした。インタビュー内でもこれに続いて少し述べられているが、これについては「ライバル」と称した堀未央奈の卒業も大きかったのだろうか(「ライバルは自分自身」という言い方は、堀がよくしていたという印象がある23)。そして、「新しく一生懸命がんばる場所、自分が自分自身と戦う場所を見つけなきゃいけない」(同上)と続けた。
時間を少しだけ遡って、2021年5月4日、デビュー(「16人のプリンシパル deux」でのお披露目)から8年の記念日に更新されたブログにおいて、北野は積み重ねてきた日々への愛着と感謝とともに、そのなかで経験してきた「試練」についてにじませることも書いていた。
今日でデビューから8年が経ちました!
これまで応援してくださり本当にありがとうございます私は二期生として乃木坂に加入したことを
幸せに思います!二期生だからこそ
感じることのできる思いがあって
見えているもの以上の感情を知ることができましたなんといえばこの気持ちが真っ直ぐに伝わるのか、どう伝えたらいいのか分かりませんが
知らなくてもいいことって世の中にはあると思うんです。知ったから悲しくなること、知ったから苦しくなることをこの8年間の中で私はいくつか知って、涙が止まらない日があったり前を向けない日がありました
でもその一つ一つを知ったからこそ今の私がいて、きっと知らない私より知っている今の私の方が
少しは温かい人になれているのかな乃木坂に、二期生になれたからこそ
自分の生きていく世界が何色にも光るものに
なったと思います!きっとこうやって思えるのは
どんな姿でも私を思ってくれている皆さんの存在や、私の心まで気持ちや言葉を届けてくれる皆さんの存在があるからです
この時期の北野は、2期生ライブの最後で堀に送ったメッセージのなかでは「(2期生)みんなでは一緒に活動はあまりできなかったけど」、「アンダーライブ2021」のアフター配信において伊藤純奈と渡辺みり愛に送ったメッセージのなかでも「未央奈の次に選抜に入って、それをつなげられなかった」と述べるなど、自分が経験してきた悔しさについて言及する場面もたびたびあった。北野のいう「涙が止まらない日」や「前を向けない日」が具体的にいつのことであったのかは明言されていないが、筆者が追いかけてきた日々のなかでも思いつくものがいくつもある。この1年だって、試練と呼んでいい経験に「ぶつかってばかり」と感じることもあった。しかしその日々を経て、彼女の「戦い」がもっとずっと、誰かのため、グループのため、そして自分のためになっていくのであれば、その過程だって無駄ではなかったといえるはずだ。
もしかしてですけど、将来のことも見据えていたりするんですか?
「同期で同い年の未央奈が卒業したので、自分の将来を考えないと言ったら嘘になります。でも、私って意外と自分の将来に対する不安がないんですよ(笑)。どうしてかって、どんなに大変な状況になっても、それを克服するためには“乗り越える”しか方法はないと思っているから」。
“逃げる”とか“別の道筋を探す”ではなく、“乗り越える”しかない?
「はい。私は、とにかく“乗り越える”一択です(笑)。試練があったら、ちゃんとそれを乗り越える努力をして、その努力がしっかり積み重なっていけば、いつかは試練を乗り越えられる時がくる。そう信じています。」
(『B.L.T.』2021年8月号 p.113)
彼女が信じるものを、自分も信じていたい。そう思うよりほかない。
2年ぶりの全国ツアーを迎えて
「アンダーライブ2021」を終えて6月に入ると、グループとしての動きが一気に加速していくことになった。6月9日には27thシングル「ごめんねFingers crossed」が発売され、北野はアンダー曲「錆びたコンパス」に参加したほか、北野にとっては17thシングル以来となる個人PV「ワタシがアイドルでいられる時間」が制作された。翌日の6月10日には新YouTubeチャンネル「乃木坂配信中」において「乃木坂46分TV」が生配信されたが(北野も出演している)、ここで2年ぶりのツアーとなる「真夏の全国ツアー2021」の開催が発表される。また6月12日には、同チャンネルにおいて北野と渡辺みり愛による動画(荒野行動のデュオプレイ)が配信されてもいる。6月22−23日には松村沙友理の卒業コンサートが「さ~ゆ~Ready? ~さゆりんご軍団ライブ/松村沙友理 卒業コンサート~」として開催される。北野は2日目のMCに登場し、松村に「まわりを本当によく見ている」と言ってもらい、「見てくれている人がいるんだ」と感じた、というエピソードを披露した。6月29日にのぎ動画で配信された「乃木坂あそぶだけ#4」には、鈴木絢音・寺田蘭世・渡辺みり愛とともに出演している。
メンバー40人の新体制で臨まれることとなった「真夏の全国ツアー2021」は、7月14日の大阪城ホール公演からスタート。直前に東京都を対象とする新型コロナウイルス緊急事態宣言が再発出されるなど、厳しいコロナ禍のなかでなんとか開催にこぎ着けたような形であった。
今回のツアーでは、結成10周年記念企画として「夏ツアーで聴きたい曲トップ“10”」として、「表題曲」「カップリング曲」「アンダー曲」「ユニット&ソロ曲」の4カテゴリーでファンによる投票が行われ、これをもとにしてセットリストが組まれている。得票順に披露されていくような形ではないが、ワンコーナーのような扱いではなく公演全体が投票結果を反映しており、各都市での2公演をかけ、ランクインした楽曲については網羅されるのだという。7月15日の大阪での2公演目では「日常」が披露されたが、これはアンダー曲の得票1位ということであった。パフォーマンスを終えたあとのMCで北野は仕切りの立場で登場し、ファンに直接感謝を伝えた。また、北野は投票が締め切られた翌日のモバイルメールにおいて、ツアーで「日常」がやりたい、という旨を発信してもいた。「日常」は体感としても人気のある曲であるし、全体としては比較的近年の、オリジナルメンバーが残っている曲が上位にくる傾向も強かったが、それよりも何よりも、北野の思いが届いたという結果になったといえるだろうか(また、前日には「13日の金曜日」のセンターにも立っていたようである)。
また、このときのMCでは、北野から公演中における応援の発声の禁止が改めて呼びかけられる場面もあった。「解禁」されていくセットリストに会場がどよめく場面は確かにあったし、平常時のコールのような形ではなかったが、曲終わりなどでどよめき以上に声が上がっているブロックも、残念ながら少しあったようだった。スタッフによる注意で対応できる程度かという印象はあったものの、細心の注意を払いながら臨む全国ツアーの滑り出しとあっては、やはりメンバーからの呼びかけが必要だったかもしれない。「日常」について語りつつ、ライブ会場の熱量を維持しつつ、という難しい舵取りを求められることになった北野であったが、「心の声が漏れている」という言い方で、ていねいに客席に呼びかけていた。加えて終演後には長文のモバイルメールで同趣旨の発信も行い、グループを守る立場にいるメンバーのひとりとしての自覚と使命感も感じさせた(北野に限らず、どうかメンバーにそんな発信をさせるようなことをしないでほしいものだが)。
そして今日、2021年7月17日。北野日奈子の25歳の誕生日であるこの日は、「真夏の全国ツアー2021」宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ公演1日目。夏生まれの北野だが、公演が誕生日当日にあたるのは今回が初めてであった。前夜の755によれば、「誕生日を迎えた瞬間を一人で過ごすのは初めてな気がする」ということで、家族との距離が近い北野はいくぶん寂しさを感じたところもあるようであるが、ステージに立って照明を浴びる(おそらく)初めての誕生日が、彼女にとって良い思い出として残ってほしいと強く願う。
「変わらないもの 探していた」
ここまでちょうど1年間を振り返ってみたが、グループと北野をとりまく環境の変化の速さと大きさには、わかっていたはずなのに改めて驚いてしまう。これだけの変化がありながら活動を続けてくれていることそのものに、まずは大きな感謝を捧げたい。そして、変化しているのはとりまく環境だけではなく、むしろ北野自身もである。ことアイドルのことになると、どうしても過去のある時期に形づくられたイメージでいろいろなものを見てしまいがちな部分もあるのだが、できるだけていねいに「いま」を見続けていくことの必要性を痛感する(筆者にとっては、こうして記事を書くことも、彼女のたたずまいを記憶にとどめるとともに、「いま」のイメージを更新するための試みでもある)。
「変わっていくこと」について、北野はこんなことを口にしている(これは、渡辺みり愛がグループを卒業していくこと受けた「ロス」についての文脈である)。
「(前略)……たぶん、そういう部分も含めて、私は変わっていくと思うんですよ。今までの私は、変わっていく乃木坂に対して、何とか変わらないものを探していたというか、変わらない何かにしがみつこうとしていたというか。でも、今は変わっていく乃木坂の後押しをしたいと思っているから、もちろん今まで通りに一生懸命に手を抜かずに活動していくのは当然なんですけど、周りの変化も受け入れて、自分も変わっていくんだろうなーって。」
(『B.L.T.』2021年8月号 p.113)
「変わらないものを探していた」。大切なものを離さないで、ある意味かたくなに守ろうとすることも、いつかの時期までは、北野らしさのひとつだったようにも思う。それでも、変化はどんどん大きくなっていくし、押しとどめることはできない。変化を受け入れていくようになる、という変化。彼女はどこまでも「乃木坂46」という運動体の一員で、それに影響されているし、あるいはそれを形づくってもいる。
しかしそれでも、そこにはきっと変わらない価値があるとも思う。変化を受け入れて前に進むことは、「それでも変わらないもの」を見い出して、慈しむための過程でもあるのではないだろうか。
25歳の北野日奈子が過ごす1年間が、ありうべき変化とともに、たくさんの笑顔と輝きにあふれたものとなることを願ってやまない。
(きいちゃん、お誕生日おめでとう。)
—
- 2020年7月19日放送の#267(「第3回乃木坂46内輪ウケものまね大賞」)がリモート明けの初回放送であった。ただし北野の出演はしばらくなく、彼女がスタジオに戻ったのは9月6日放送の#274(「乃木坂MV注目中2020」)であった。
- 坂道シリーズでいえば、欅坂46が配信ライブ「KEYAKIZAKA46 Live Online, but with YOU!」を行ったのがちょうどこの頃の2020年7月16日である。続いて日向坂46が、7月31日に「HINATAZAKA46 Live Online, YES with YOU! 〜“22人”の音楽隊と風変わりな仲間たち〜」を開催した。乃木坂46としてはコロナ禍突入直後の2020年3月7日に「幻の2期生ライブ @ SHOWROOM」を配信していたほか、6月19-21日に配信された「乃木坂46時間TV アベマ独占放送『はなれてたって、ぼくらはいっしょ!』」内でもライブを行っていたが、チケットを販売しての有料配信ライブの開催は10月28日の「Mai Shiraishi Graduation Concert ~Always beside you~」まで待つことになる。
- 25th選抜メンバーからの変動でいえば、2020年4月27日にグループを卒業した井上小百合、すでに卒業発表を行っていた白石麻衣と中田花奈に加えて樋口日奈と和田まあやがメンバーを外れ、筒井あやめを加えた形となる。筒井は25thシングルでは選抜メンバーから外れていたが24thシングルではフロントメンバーとして活動しており、「新選抜」のような形のメンバーはいなかったことになる。センターを経験豊富な齋藤飛鳥が務めたことともあわせて、堅実な布陣がとられたという印象を受ける。これと26th選抜メンバーとの変動としては、新選抜メンバーとして清宮レイと田村真佑が加わり、北野が外れるにとどまっており、こちらのほうが差分としては小さい。なお、楽曲のリリースや音楽番組への出演があったことをふまえて「暫定の選抜メンバーの色もあった」と称しているが、「Route 246」の歌唱メンバーについて「選抜メンバー」という形で取り扱われたことはない。
- 「Route 246」および「ゆっくりと咲く花」のMVは、YouTubeでの配信もティザー版にとどまっており、MV集の発売をもってフル尺でのリリースとなる形であった。さらに「ゆっくりと咲く花」は、現在に至るまでにデジタル配信を含めて音源のリリースが行われておらず、楽曲を(フル尺で)聴くためにはMV集を見るよりほかない状況にある。楽曲としては2020年3月7日の「幻の2期生ライブ @ SHOWROOM」で初披露されたものであったが、北野はこのライブをインフルエンザのため欠席しており、ここに参加していない。一方で、このライブに参加していたが3月31日をもってグループを卒業した佐々木琴子はMVに参加しておらず、初披露の3月7日時点でグループに所属していた2期生9人をこの楽曲のオリジナルメンバーとするならば(歌唱メンバーが正式にクレジットされたことは、確認できた範囲では一度もない)、MVの撮影も含め、公の場でその全員が揃ってパフォーマンスされたことはなかったことになる。
- 前編:「乃木坂46 北野日奈子さん 私に夢をくれた、愛犬チップとの14年」(2020年8月31日)、後編:「乃木坂46 北野日奈子さん 愛犬「チップ」の発病、そして夢への第一歩」(2020年9月7日)。
- 「9月の選抜発表から約5ヶ月 長いようであっという間でした」(山下美月公式ブログ 2021年1月27日「僕は僕を好きになる( ˙꒳˙ )」)
- シングル3枚分というと、標準的なスケジュールではおおよそ1年程度ということになるが、コロナ禍でCDシングルのリリースが滞ったこともあり、実際の期間としてはよりいっそう長い。選抜発表の放送日ベースでいうとこの期間は2019年4月14日から2020年11月14日であり、ちょうど1年7か月ということになる。「Route 246」の歌唱メンバーのうちで26th選抜メンバーを外れたのが北野だけだったということともあわせ、厳しい状況に直面していたという印象が強くなる。
- 2期生は「バレッタ」、3期生は「逃げ水」、4期生は「夜明けまで強がらなくてもいい」。これらの楽曲において白石は、オリジナルのセンターである堀未央奈、大園桃子・与田祐希、遠藤さくらと並ぶ形でパフォーマンスしている。また、この前には1期生によって、デビュー曲「ぐるぐるカーテン」と、1stシングルカップリング曲「失いたくないから」が演じられている。
- 順序としては堀、北野、伊藤純奈の順。
- この記事はあらかじめ準備されていたもので、放送直後に投稿される予定だったが、書き直すことにしたのだという(参考:北野日奈子755)。こうした経緯はあったが、翌日の16時には更新されている。
- 北野は19thシングルでは選抜メンバーで、その後20th-22ndシングルで選抜メンバーから離れているが、休業にともない選抜メンバーでもアンダーメンバーでもなかった20thシングル期間を経ているため、選抜メンバーからアンダーメンバーに直接移動したというわけではなかった。
- 改めて読み返してみると、書かれたブログの構成が似ていることに驚く(北野日奈子公式ブログ 2017年7月27日「今が途切れないように」)。あまりにも率直に苦しみが吐露されている一方で、たくさんのものへの配慮が端々ににじむ。
- 『BUBKA』2021年4月号の掛橋沙耶香・林瑠奈インタビュー(p.20)など。このときの選抜発表は、コロナ禍であることをふまえてか、何グループかに分けて行われていたようであるが、堀は掛橋・林が選抜発表を受ける場にも訪れ、卒業を告げたのだという。
- アンダー楽曲「口ほどにもないKISS」はこのライブにおいて初披露されたもので、音源の解禁やMVの公開もこれより後のことであったため、北野のポジションがフロントであることが明らかとなったのはライブの場においてであった。
- 1日目と2日目で(重複もありつつ)30曲すべてを披露しきったうえで、3日目にはノンストップライブの形で改めて全曲を披露した。
- グループ全体でのライブにおいて、オリジナルの選抜メンバーが表題曲に参加することは必ずしも自明というわけではなく、その点についてもふまえておく必要があると感じる。
- 当時は「期生別」の「ライブ」という言い回しが多用されていたように思う。
- やはり配信ライブ形式で、ということにはなってしまったのだが、チケットを販売する形で興行として成立したというのは大きいことだと感じる。セットリストもより充実し、舞台装置もフルサイズのライブのそれであった。「『乃木坂46のオールナイトニッポン』presents 乃木坂46 2期生ライブ」の中止は土壇場の判断であったとはいえ、コロナ禍にあって「配信ライブ」という興行が(苦肉の策の感もあるが)一定程度成立していった、ということもここから見てとることができる。
- (話がだいぶ横道に逸れて長くなったので脚注にするのだが、)特にライブに関して「期別」のくくりを強調するのは、ある意味で流行りのようなものというか、時代性を反映した現象であるという感覚もある(一時期の「軍団」流行りよりもムーブメントとしては大きいが、現象としては通ずるものがある)。前述の神宮公演のあった2017年にも、これに加えて東京ドーム公演で期別の楽曲披露があったりもしたが、この頃から特にコンスタントに書かれるようになった「期別曲」がある程度の数になってきた状況であった25thシングルにおいて、現役の1期生全員を選抜(福神)メンバーとした上で2期生・3期生・4期生曲を制作したのがある意味ではひとつの象徴であり端緒だったともいえるだろうか。白石麻衣の卒業コンサートに加え、近い時期に期別のライブを控えているこのときのライブにおいても期別のパートが設けられたのは、それがあまりにもバランスがよかったということが大きいだろう。時計の針を進めていくと、そこからすでに2期生の中心に立ち続けてきた堀未央奈と、全シングルで選抜メンバーを務めてきた「御三家最後の一人」松村沙友理がグループを旅立ち、3期生の「暫定センター」としてキャリアをスタートした大園桃子も卒業を控えているという状況にある。正直、バースデーライブが「全曲披露」という形にならなかったことに対しては個人的に無念な感情が強かったのだが(来年以降も、もうひょっとしたら難しいかもしれない。ただし、この形とならなかったとしても「全曲披露」であったかどうかは告知されておらず不明で、おそらく微妙だったのではないかとも思う)、すべての期で期別のライブを行えたことも、相当にチャレンジングであるとともにタイミングとしても奇跡的なものであったのではないかと、いまとなっては強く感じる。
- 北野はかつて「乃木坂46えいご」の番組レギュラーを務めていたが、体調不良が明るみに出る少し前くらいの時期から出演がなくなり、特段のアナウンスなく降板状態となっていた。この最終回でのコメントにおいて、北野は「体調不良で活動休止してそのままバトンタッチだった」と説明している。
- このブロックは「努力」「感謝」「笑顔」に分けられており、北野は「努力」の1人目として登場したということになる。
- https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202103290000016.html
- 「日奈子と私は性格も反対だし、立場も違います。でも、同い年で、同期で、笑いのツボも一緒。活動に対する考え方も似ています。『ライバルは誰?』と聞かれたら、いつもは『自分』って答えるけど、メンバーの中でだったら、『日奈子です』って答えます。全世界が日奈子の敵になったら? 私が守ります」(『BRODY』2019年6月号 p.63)
コメント